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V・ベリゼ『ジョージアの歴史建築 カフカースのキリスト教建築美術』概要と感想~ジョージア観光の予習におすすめ!
今回ご紹介するのは2018年に彩流社より発行されたヴァフタング・ベリゼ著、藤田康仁編、篠野志郎訳の『ジョージアの歴史建築 カフカースのキリスト教建築美術』です。
早速この本について見ていきましょう。
東西文明の十字路カフカースに遺る 貴重なキリスト教建築美術の全貌!
壮麗な教会堂と風光明媚な場所に建つ城塞からなる 中世建築を頂点に、古典期から18世紀の建築まで ジョージアの建築職人の優れた芸術的かつ技術的な完成度を紹介。
建築史の専門書にもかかわらず、 ジョージアと東方教会世界の歴史と文化に関心を持つ読者を 惹きつける名著。〔ジョージア語からの翻訳〕 写真100余点(カラー100ページ)、 「ジョージア建築巡礼案内」を付して観光旅行にも便を図った。
Amazon商品紹介ページ より
この作品はジョージアの独特な教会建築を余すことなく解説してくれる非常に貴重なガイドブックとなっています。
カフカースについては当ブログでもトルストイの関係からいくつもの記事を紹介してきました。
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そしてその圧倒的な自然やそこで出会った人々、命を懸けて戦った経験が彼の文学に大きな影響を与えています。
この記事では藤沼貴著『トルストイ』を参考にトルストイの「カフカース体験」を見ていきます。
トルストイの文学や人柄の特徴を見ていくためにもこれらは非常に参考になります。
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この記事ではそんなカフカースとロシアの歴史についてお話しします
カフカースはロシア語読みで、一般的には英語読みのコーカサスの方が知名度は高いかもしれません。
Wikipedia より
カフカースは上の図に示された地域を指します。そしてその中でもジョージア(旧グルジア)北部にあるコーカサス山脈はこの地方を代表する景観の一つとして知られています。
コーカサス山脈 Wikipedia より
ゲルゲティ・サメバ教会 Wikipedia より
この作品では上の写真にあるような絶景の中に立つ教会など、ジョージアを代表する教会がくまなく解説されます。
日本ではジョージアの教会についてはほとんど知られていませんが、その独特な構造や美しさは写真を見ただけでもどきっとするほどです。
そしてこの本では上の商品紹介にありましたように、教会建築の解説だけではなく、旅のガイドまで掲載してくれています。
ジョージアは他のヨーロッパの国々に比べてかなりマイナーな国です。
ですのでどうしてもガイドブックも少なく、情報がなかなか手に入りにくいというのが実情です。しかもジョージア各地に散らばる教会群を見ていくとなるとさらにマニアックな旅になってしまいます。そうなるとさらに旅のハードルが上がります。
そんな中この本ではそれぞれの教会についての一覧図や、現地をよく知る方のアドバイスなども書かれていますのでとても参考になります。
カラー写真も満載でその美しさもばっちりこの一冊で満喫することができます。カトリックともプロテスタントとも、ロシア正教とも違う独特な建築スタイルをこの本では知ることができます。
同じキリスト教建築といってもここまでバリエーションがあるのだなということを感じさせられました。とてもおすすめな作品です。
また、ジョージア国内の情報についてはこちらに非常に充実したサイトがありますのでご紹介します。
小山のぶよさんの『さぼわーる』というサイトの中にあるページなのですが、これがまたすごいんです。
現地に長く滞在しているからこその濃い情報が山ほどあります。
読んでいるだけで旅行気分になれる楽しいサイトですのでぜひぜひおすすめしたいです。
私もいつも参考にさせて頂いていて、もう現地に行きたくて行きたくてうずうずしています。
上のTwitter記事をクリックして頂ければすぐにジョージアの記事に飛べますのでぜひご覧になって頂けたらと思います。
以上、「V・ベリゼ『ジョージアの歴史建築 カフカースのキリスト教建築美術』~ジョージア観光の予習におすすめ!」でした。
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ジョージアの歴史建築: カフカースのキリスト教建築美術
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この本は2008年に出版された作品ですので、2022年段階では最新の情報というわけではありません。ですがソ連崩壊から15年以上経った段階でのカフカースを知る上で今なお価値ある作品だと思います。
難しいコーカサス情勢をわかりやすく知れるおすすめな1冊です。
前の記事はこちら
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この作品はそれぞれの分野の専門家による共著になります。この本では文学だけでなく様々な観点からカフカースを見ていくことができます。
私はトルストイとの関係性からカフカースに関心を持つようになりましたが、入り口は人それぞれだと思います。そんな中多様な視点からカフカースを見ていくこの本の試みは非常に面白いなと思いました。
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文豪トルストイのスタイルが定まる記念碑的な作品とも言えるかもしれません。
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