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ポール・ド・クライフ『微生物の狩人』あらすじと感想~顕微鏡と微生物の発見で有名なレーウェンフックの驚異の生涯とは―目に見えない世界の発見と衝撃

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ポール・ド・クライフ『微生物の狩人』概要と感想~顕微鏡と微生物の発見で有名なレーウェンフックの驚異の生涯とは―目に見えない世界の発見と衝撃

今回ご紹介するのは1926年にポール・ド・クライフにより発表された『微生物の狩人』です。私が読んだのは1980年に岩波書店より発行された秋元寿恵夫訳の『微生物の狩人』です。

早速この本について見ていきましょう。

オランダ人レーウェンフックが手製の顕微鏡で、動きまわる小さな生き物の姿をとらえた時から細菌学の歴史は始まる。本書以下、パストゥール、コッホ、メチニコフ、エールリヒなど、主に病原体の追及によって人類に偉大な貢献をした13人の「狩人」たちの人と業績をドラマティックに物語る。人物中心の優れた細菌学史。

岩波書店、ポール・ド・クライフ、秋元寿恵夫訳『微生物の狩人』上巻表紙より

この本を読んだきっかけは産業革命の歴史を学んだことでした。(フェルメールの流れから今この作品を紹介していますが、私が最初にこの本を読んだのは産業革命の歴史を学んでいた今年の冬でした)

産業革命と言えば大工場の乱立や鉄道の発展などがイメージされますが、意外と見過ごされがちなのが科学の発達です。

産業革命の本の中でも注射器などの技術は紹介されていましたが、それに先駆けてやはり重要なのは顕微鏡の発明であるように私は感じました。

ですが顕微鏡の歴史と微生物の発見で有名なレーヴェンフックに関する本は意外と少なく、ようやく見つけたのがこの本でした。

レーウェンフック(1632-1723)Wikipediaより

この本の一人目の主人公、レーウェンフックはオランダのデルフトという町の役人でしたが、独学で顕微鏡を自作し、20年以上も改良をし続け地道に観察を続けた結果、水中の微生物を発見したという人物です。

あのフェルメールも住んでいたのがデルフトです。二人は同郷で同い年でした。この絵は代表作『デルフトの眺望』Wikipediaより

著者のポール・ド・クライフはこのレーウェンフックの驚異の偉業を劇的に語ります。学者でも専門家でもないひとりの男が狂気のごとくガラス磨きに没頭し顕微鏡を作り続ける姿には驚くしかありません。

そして肉眼では見えぬ生物をついに発見するも、恐るべき科学的思考の持ち主であるレーウェンフックはその発見を確実にするために検証を繰り返します。普通では考えられないほどの徹底ぶりをここで私たちは見ることになります。その姿はもはや信じられないほどでした。もはや異次元の存在です。これほどの人物でなければ、到底達成することはできないような偉業だったのだなと改めて思わされました。

初期レーウェンフック型の顕微鏡(複製)Wikipediaより

まだ当ブログではまだ紹介出来ていませんが私はこれまで産業革命に関する本を読んできました。人間の技術力、科学が世界を支配しようと本格的に動き出していく時代です。

また、マルクス・エンゲルスを学ぶ過程で、19世紀当時のヨーロッパでキリスト教の権威がどんどん失墜していったことも知ることになりました。これは思想界でも顕著で、ヘーゲル、シュトラウス、フォイエルバッハ、マルクスという流れは無神論的な流れを決定的に進めることにもなりました。

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ですが、そもそもそれ以前にコペルニクスやガリレオをはじめとした科学的思考者が増えてきたことでキリスト教的世界観がどんどん説得力を失って行ったのがルネサンス以降のヨーロッパと言うこともできます。

その流れの中でレーウェンフックが肉眼では見えぬ世界を発見したことはとてつもない衝撃を世界に与えたのではないでしょうか。

かつてのキリスト教世界ではすべてのものは神が創り、善悪の秩序もすべて神のものだった。すべては聖書に書いてある。すべては神の思し召しのままという世界でした。疫病の原因も目に見えない菌が原因だったなどとは想像すらできない世界です。

そんな世界においてレーウェンフックは肉眼で見えない世界を人々の前に開くことになりました。

そして彼の後を継いで研究を進めた科学者たちによって新発見がどんどんなされていきます。

これまで悪霊や災い、天罰としか考えられていなかった疫病の原因が「目に見えないが実際に存在する生物」だった。そういう発見が相次ぐとどうなるのか。当時の人々が次のように考えてしまってもおかしくありません。

「あれ?これまで教会が言ってたことは何だったのだ?全知全能の神が言ってたことって正しくなかったのか?」

科学の発展とキリスト教の教える世界。

この対立はルネサンス以降の永遠のテーマとなっていきます。

そうした意味でもレーウェンフックの顕微鏡と微生物の発見はとてつもない衝撃をキリスト教世界に与えたことでしょう。

この本ではそんな微生物、細菌の研究に全てを捧げた男たちの物語が語られます。彼らの研究ぶりはもはや狂気の域です。著者のドラマチックな語りが臨場感たっぷりで非常に面白いです。狂気と言ってもいい彼らの鬼のような研究っぷりには驚くしかありません。

この本はものすごく刺激的です。

そして最後にもう1点お話ししたいことがあります。

レーウェンフックは自らの手でレンズを磨き顕微鏡を制作しましたが、実はこの「レンズ」というものに関して私にはあるご縁があります。

というのも真宗木辺派本山錦織寺の前々御門主、木辺宣慈様が望遠鏡のレンズ制作で世界的に有名な大家として知られているのです。

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Wikipediaにも次のように書かれています。

木辺 宣慈 (きべ せんじ、旧名:成麿(しげまろ)[1]1912年4月1日 – 1990年5月2日)は、日本浄土真宗の僧侶、真宗木辺派21代門主。元男爵。光学技術者。レンズ磨きの名人として知られ、「レンズ和尚」と呼ばれた。

Wikipediaより

木辺宣慈様は僧侶でありながらレンズ技師として活躍されており、そのレンズの質は世界でも評価されていたそうです。これには驚きですよね。私も衝撃を受けました。

より詳しくは野洲市による「郷土の偉人 木辺成麿」や「SARIF活動報告」さんHP内の記事「伝説の鏡・レンズ磨き和尚 木辺成麿氏」に詳しく書かれていますのでぜひそちらもご覧ください。

当寺錦識寺は真宗木辺派の末寺として北海道でお勤めさせて頂いておりますが、その門主様がレンズ制作で世界的に有名な方であったというのは不思議なご縁を感じます。私がレーウェンフックに関心を持ったのも何かのご縁なのかなと感じてしまいました。

木辺宣慈様が亡くなられた1990年はくしくも私が生まれた年でもあります。ぜひ一度お会いしてお話をお聴きできていたならなんとありがたいことだったでしょう・・・

そのような大きな先達がおられたということに私も感じ入るものがありました・・・

レーウェンフックとの出会いは私にとっても大きなものになりました。

この本は1926年に発表されたということで史実的な面で若干弱みを感じる点もありますが、それぞれの人物のエピソードが実に生き生きと描かれていて非常に面白い作品です。特に、一番最初に語られるレーウェンフックの物語は圧倒的な面白さです。前回の記事で紹介したローラ・J・スナイダー著『フェルメールと天才科学者 17世紀オランダの「光と視覚」の革命』と合わせてぜひぜひおすすめしたい作品です。

以上、「ポール・ド・クライフ『微生物の狩人』~顕微鏡と微生物の発見で有名なレーウェンフックの驚異の生涯とは―目に見えない世界の発見と衝撃」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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