小川和男『ソ連解体後ー経済の現実』あらすじと感想~ソ連崩壊後の経済状況を知るのにおすすめ
小川和男『ソ連解体後ー経済の現実』概要と感想~ソ連崩壊後の経済状況を知るのにおすすめ
今回ご紹介するのは1993年に岩波書店より発行された小川和男著『ソ連解体後ー経済の現実』です。
早速この本について見ていきましょう。
解体から一年余,ますます混迷の度を深める旧ソ連.急速な市場経済化に伴うインフレの進行や民族対立などが軍民転換や企業の民営化を困難にしている一方で,豊かな資源を背景に,各地方ではすでに活発な経済活動が始まっている.長年ソ連経済を実地に調査してきた著者がその現在の姿を正確に見すえ,今後の日本とのかかわりを展望する.
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この本は1993年に発行されました。今からおよそ30年前の時点でロシアの経済は専門家にどのように見られていたのかを知るのにこの作品はうってつけです。
目次を見てわかりますように、この本ではソ連崩壊後のロシアと旧共産圏とのつながりも含めて学ぶことができます。
著者は第一章でソ連崩壊後のロシア経済について次のように述べています。
旧ソ連では、中央集権的な計画化経済システムのもとで、小売価格は原則としてすべて国が定めた公定価格であった。食料品や家賃は非常に安価に、教育や医療は原則として無料、衣料品や耐久消費財はきわめて高価に定められていた。
社会主義のもとで、富の分配の平等が公けにはかかげられていた。そして人々は、その理想は実は偽りで、共産党幹部をはじめとする一握りの特権グループに権力と富が集中する一方、働いても働かなくても同じ、という悪平等が支配していることを知り尽くしながらも、「親方赤旗」の下での安逸な日々を送ってきた。
アフガニスタンへの軍事介入の長期化があったが、人々の心の深層にいつも暗い影を落してきた大戦争の脅威は遠のいていたし、毎日の生活でとにかく食べる心配はなかった。(中略)
食料品価格はとりわけ安く定められていた。政府は毎年の国家予算に価格差補給金を計上して、小売価格を農民からの買上げ価格をずっと下回る安い価格に定めていた。つまり、日本における米の食管会計をあらゆる食料品について適用して、低い価格を維持していたわけである。
しかし、このことは当然ながら、国家財政に大きな負担を強いてきており、そうした状況を改善するため、食料品価格を引き上げるべきだという意見は、ブレジネフ時代全盛期の一九七〇年代半ばから出されていた。また、弱体な輸送・流通システムが主因となって、大都市や北方に偏した中小の工業都市では、公営小売店の店先にはいつも食料品が不足し、長い行列がみられていた。このため、市民の間では食品の入手を職場における配給やいわゆる「コネ」に頼るところが大きかった。
岩波書店、小川和男『ソ連解体後ー経済の現実』P2-3
「社会主義のもとで、富の分配の平等が公けにはかかげられていた。そして人々は、その理想は実は偽りで、共産党幹部をはじめとする一握りの特権グループに権力と富が集中する一方、働いても働かなくても同じ、という悪平等が支配していることを知り尽くしながらも、「親方赤旗」の下での安逸な日々を送ってきた。」
わかってはいても、改めてこうはっきり言われるとやはりインパクトがありますよね。
ソ連での労働は悪平等の空気が支配的だった。そして理想と現実のずれを知り尽くしながら生活していたというのもリアルな恐ろしさを感じます。
そしてこうした状況がソ連崩壊後どうなってしまったのか、著者は続けて語ります。
ところが、ゴルバチョフ政権が、パブロフ首相(当時)の指導の下に、一九九一年四月に敢行した公定小売価格の全面的引上げ(値上げ率二~三倍)の後、安定した関係はくずれ、インフレが一挙に顕在化した。長年にわたり安価に馴れ切り、いわゆる「コネ」を活用して必要な物を手に入れてきた庶民の生活が苦しさを増したのは、明らかである。
エリツィン・ロシア大統領は、ポピュリスト的特性が濃い政治家である、とよくいわれる。本来ならその特性を発揮して、庶民生活の苦しさを和らげる施策をとって、国内経済の立て直しをはかってしかるべきであろう。ところが実際には、エリツィン大統領は、未曾有の経済不振という荒海のなかで、まだ三〇歳台半ばで経験も浅いガイダル副首相(当時)に巨船口シアの舵とりを任せた。米国ハーバード大学ビジネス・スクールでマネタリズムを学んだ若き副首相は、国際通貨基金(IMF)や西側先進諸国政府の「市場経済への転換を示す具体的証拠を明示しなければ、金融支援は実施できない」という強い姿勢に押されて、一九九二年一月初めより、価格の全面的自由化というショック療法を実行した。
この結果、小売物価は一九九二年の一年間にニ〇倍と高騰、小売販売高は四二%減と著しく減少した。労働者の平均月収もこの間に九倍と大幅に引き上げられたが、実質賃金は大きく目減りしたわけで、市場に出回る商品が増えて価格の自由化は成功したとみる向きもあるものの、高値で庶民には買うことができない状態になっているわけである。
IMFのような一方的な国際金融機関の勧告にもとづいたガイダル政府の経済療法は、重体の病人に大手術を施し、手術そのものは成功したと胸を張って、病人は死にいたらしめてしまう外科医たちのやり方と同じであるともいえるのではないか。
岩波書店、小川和男『ソ連解体後ー経済の現実』P5-6
「IMFのような一方的な国際金融機関の勧告にもとづいたガイダル政府の経済療法は、重体の病人に大手術を施し、手術そのものは成功したと胸を張って、病人は死にいたらしめてしまう外科医たちのやり方と同じであるともいえるのではないか」
という最後の言葉が印象的ですよね。
この本ではここで語られたロシアのショック療法とその後の展開について学ぶことができます。
新書ということでコンパクトながらもソ連解体後のロシア経済の概略を学べるこの作品は非常にありがたいものでした。以前紹介したV・セベスチェン著『東欧革命1989 ソ連帝国の崩壊』とセットでぜひおすすめしたい作品です。
以上、「小川和男『ソ連解体後ー経済の現実』ソ連崩壊後の経済状況を知るのにおすすめ」でした。
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