リチャード・キレーン『図説 スコットランドの歴史』あらすじと感想~写真多数!イギリス・スコットランドの関係性を知れるおすすめの参考書
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リチャード・キレーン『図説 スコットランドの歴史』概要と感想~写真多数!イギリス・スコットランドの関係性を知れるおすすめの参考書
今回ご紹介するのは2002年に彩流社より発行されたリチャード・キレーン著、岩井淳、井藤早織訳の『図説 スコットランドの歴史』です。
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前回の記事「メンデルスゾーンのスコットランド旅行と文学のつながり~あの名曲『スコットランド交響曲』はこうして生まれた」ではスコットランドとメンデルスゾーンについてお話ししましたが、今回紹介する作品はそのスコットランドをより深く知るためのおすすめの参考書になります。
この本を出版している彩流社さんは以前当ブログでも紹介した島田桂子著『ディケンズ文学の闇と光』を発行した出版社さんです。
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この本はディケンズという枠を超えた名著中の名著です。イギリスの文豪ディケンズの作品とキリスト教のつながりをわかりやすく解説しながら同時に深い洞察もなされるという素晴らしい逸品です。私にとって彩流社さんはこの本を出版してくれたということで個人的に信頼感を持っています。
では、早速『図説 スコットランドの歴史』について見ていきましょう。
イングランドの鏡としてのスコットランド―。紆余曲折にみちた歴史を「先史から現代まで」分かりやすく説く入門書。
ヴィジュアルな面からスコットランド史を紹介。とりわけイングランドとの関係に力点をおいて記述する。日本ではあまりなじみのなかったスコットランドの景観や人物に対して、容易にアプローチできるもうひとつのイギリス史。
Amazon商品紹介ページより
この本の特徴はまず何といっても写真や絵が豊富で、歴史をイメージしやすいこと。そしてイングランドとの関係性に力点を置いている点が挙げられます。特にシェイクスピアが好きな私にとっては16世紀から17世紀にかけてのイギリス王家の流れに興味があったので、スコットランドという違う視点からイギリスを見れたのでこれは非常に興味深いものでした。
この本の訳者あとがきではこの本の魅力と特徴について次のように語られています。少し長くなりますがこの本のおすすめポイントを知る上でとても役立ちますのでじっくりと読んでいきます。
スコットランド史から「イギリス史」を眺めると、何が見えてくるのだろうか。(中略)
フランスは、イングランドから見れば、中世の百年戦争においても、植民地争奪を伴う近代の第二次百年戦争においても、争い合った宿敵であった。ところが、スコットランドにとってのフランスは、一三世紀末から一六世紀まで長期にわたって「古い同盟」と呼ばれる同盟関係を結んだ友好国である。同様に、一六八八~八九年の革命は、無血のうちに政権交代が行われたために、イングランド史では、これを誇って「名誉革命」と呼んでいる。しかし、スコットランド史に目を移すならば、無血どころか「流血の惨事」を伴っていたことが理解できる。つまり、同じ国家や出来事であっても、スコットランド史から眺めると、イングランド史とは異なる評価や事実が見えてくるのである。本書の内容から解き明かされるように、従来のイングランド中心の「イギリス史」に対して、スコットランドから見ると「もう一つのイギリス史」が浮かび上がってくる。従来の「イギリス史」では見えなかったものが、「もう一つのイギリス史」から発見できるということ、この点はスコットランド史を学ぶことの大変大きな意義と言えるだろう。
彩流社、リチャード・キレーン、岩井淳、井藤早織訳『図説 スコットランドの歴史』P189-191
イングランドとフランスは敵対国であっても、スコットランドとフランスは同盟国だった。
つまり、イングランドがフランスとにらみ合っている背後ではいつも敵国スコットランドが控えていたという国際関係だったのです。この本を読むまでそんな同盟関係があったことは知らなかったので驚きでした。しかも、カトリックから分離したイギリス国教会と、スコットランドのプロテスタントはまた違った宗教です。この辺の宗教事情も非常に複雑ですがこの本ではその流れも知ることができます。これはシェイクスピアの生きた時代を知りたいと思っていた私にとっては非常にありがたいものでした。
そして以下は少し重複になりますがこの本の特色を訳者がまとめてくれています。
先史からニ〇世紀までのスコットランド史を描いた本書は、どのような特色をもっているだろうか。このことを、四つの点に分けて考えてみよう。まず第一に、本書は、豊富な写真や図版を用いており、ヴィジュアルな面からスコットランド史を紹介している。この点は、本書を気楽にひもとくことができる読み物とするばかりか、日本ではあまりなじみのなかったスコットランドの景観や人物に対して、多くの読者がアプローチすることを容易にしており、本書のもつ大きな特色となっている。要するに本書は、理屈抜きに、「スコットランド・マニア」を引き付ける、もしくは読者を「スコットランド通」に変えていく魅力をもっているのだ。
第二に、本書はスコットランドの通史を、ブリテン諸島のなかで、とりわけイングランドとの関係に力点をおいて記述している。この点は、先に述べたスコットランド史を学ぶことの意義にかかわるが、従来のイングランド中心の見方に反省を促す、有効な方法とみて間違いあるまい。
第三に、本書は、圧倒的に大きな比重をスコットランドの中世史と近世史においている。(中略)著者のキレーンが、中世を「私たちがスコットランドと呼ぶものが、生まれ始めた」(83頁)時代と見ているのは確実である。
一六~一七世紀を中心とした近世史についても同様のことが指摘できる。ステュアート家によって担われたスコットランドの近世は、中世に劣らず精彩を放つ時代であった。一六世紀のスコットランドを象徴するのは、ルネサンス文化の薫りを伝えるメアリ女王と宗教改革の立役者となったジョン・ノックスの対立関係である。後者の勝利は、フランスとの「古い同盟」との決別を意味しており、同時に長老教会体制の成立は、その後のスコットランドの歩みに多大な影響を与えることになった。
一七世紀になると、ジェイムズ六世のイングランド王位継承によって「同君連合」が実現し、スコットランドとイングランドの関係は新展開を見せる。「国民契約」を結び合ったスコットランド人が、イングランドに侵攻し、長老教会体制の樹立をイングランドに迫ったものの、結局は「ブリテン内戦」の結果、クロムウェルの侵略を招き、王政復古期には長老教会に対する弾圧や迫害を経験することになった。このように近世は紆余曲折にみち、さまざまな可能性を秘めた時代であることが理解できる。本書を読めば、近世史は、スコットランドとの関わりなしに「イギリス史」を語ることができない、スコットランド・イングランド関係史の格好の舞台であることが伝わってくるのである。(中略)
本書は、コンパクトにまとまったスコットランドの通史を読者に提供しており、本書の魅力あふれる叙述は、豊富な写真と図版によって一層引き立つものとなっている。とくにキレーンが中世史や近世史を描くときの生き生きとした筆致は、スコットランド史やスコットランド・イングランド関係史の面白さへと読者を引き込まずにはいられないだろう。本書によって、読者は、スコットランド史から「もう一つのイギリス史」にアプローチする貴重な機会を与えられたといっても過言ではあるまい。
彩流社、リチャード・キレーン、岩井淳、井藤早織訳『図説 スコットランドの歴史』P191-196
16~17世紀のスコットランド史はここで語られるようにかなり動きに満ちた時代です。
エディンバラのホリルード宮殿の歴史エピソードはまさしくこの時代に当たります。
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前回の記事ではそのことについては詳しくお話しできませんでしたが、メンデルスゾーンはこの廃墟の前に佇み、メアリー王女の悲劇に思いを馳せていたのでありました。この時の体験が基になって彼の名曲『スコットランド交響曲』が生まれたと言われています。
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この本ではそんなメアリー王女の悲劇の詳しいエピソードも知れたのでとてもありがたかったです。
さすが彩流社さん。やはり信頼できます。これはいい本です。単にスコットランドの歴史を見るだけでなく、イングランドやフランスなどもっと広い視点から歴史のつながりを見ていける素晴らしい参考書です。
イングランド、スコットランドの宗教事情を知る上でもこの本は非常に貴重な作品です。ぜひぜひおすすめしたい参考書です。
ただ、正直申しますと前半の先史時代や古代の話は私自身の興味関心がそこに向いていなかったせいだと思いますが、ちょっと読むのが辛かったです。ですが上の訳者あとがきにもありましたように、中世に入ってくると「著者の筆も生き生きしてきます」(笑) たしかにそこから本当に面白くて私も引き込まれてしまいました(笑)
また、スコットランドの歴史ある街並みや美しい風景を堪能するのにおすすめな本をもう一冊紹介します。
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この本は以前当ブログでも紹介した『英国=湖水地方 四季物語』の著者辻丸純一さんによる作品です。
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辻丸純一さんの本はとにかく写真が素晴らしいです!
『図説 スコットランドの歴史』は写真がたくさん掲載されていますが、残念ながら白黒です。
ですが『スコットランドを旅する』はオールカラーで迫力ある写真を堪能できます。特にスコットランドの歴史の中心地エディンバラはものすごく重厚な雰囲気を感じることができます。これを読めばとにかく現地に行きたくなります。この作品もセットでぜひおすすめしたいと思います。
以上、「リチャード・キレーン『図説 スコットランドの歴史』~写真多数!イギリス・スコットランドの関係性を知れるおすすめの参考書」でした。
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