MENU

栁澤寿男『バルカンから響け!歓喜の歌』あらすじと感想~バルカンで生き抜く日本人指揮者の驚異の物語

目次

栁澤寿男『バルカンから響け!歓喜の歌』概要と感想~バルカンで生き抜く日本人指揮者の驚異の物語

今回ご紹介するのは2015年に晋遊舎より発行された栁澤寿男著『バルカンから響け!歓喜の歌』です。

早速この本について見ていきましょう。

ユーゴスラビア紛争の爪痕はいまだ消えず、今もなお残る民族対立。
かつて「ヨーロッパの火薬庫」と呼はれたバルカン半島でひとりの日本人指揮者か立ち上がった!
対立する民族を一堂に集めた奇跡のオーケストラ「バルカン室内管弦楽団」が世界中の人々の心に響かせる交響曲第9番『歓喜の歌』
平和・民族共栄への祈り、今あなたの胸に届け!


Amazon商品紹介ページより

そして著者の栁澤寿男氏のプロフィールもご紹介します。

旧ユーゴを中心に活動する日本人指揮者。05年、マケドニア国立歌劇場首席指揮者、07年、コソボフィル響首席指揮者、13年、セルビア・ニーシュ響首席客演指揮者、べオグラード・シンフォニエッタ名誉首席指揮者に就任。同時にサンクトペテルブルグ響、プラハ響、べオグラード国立歌劇場、セルビア放送響、サラエボフィル、アルバニア放送響などに客演。07年、バルカン半島の民族共栄を願って、バルカン室内管弦楽団を設立。09年、国連や軍隊の尽力を得て、コソボ北部ミトロヴィツァにおいて実現したコンサートは旧ユーゴ解体後の民族紛争で失われた各民族間の文化交流を再開した「奇跡のコンサート」とも言われ、日本の高等学校教科書「世界史A」にも記載された。国内では、新日本フィル、日本フィル、東京フィル、東京都響、東京響、札幌響、仙台フィル、群馬響、名古屋フィル、京都市響、大阪フィル、兵庫芸術管、九州響、アンサンブル金沢などに客演。バルカンでの活動はNHK「おはよう日本」、NHK BS1「”和解”へのハーモニー」「響け!内戦の記憶を越えて」「エル・ムンド」、TBS「NEWS23」、テレビ東京「世界ナゼそこに?日本人」、BSJAPAN「戦場に音楽の架け橋を(第6回日本放送文化大賞グランプリ受賞)」「分断された音楽の架け橋」など数多くのメディアで報道され続けている。


晋遊舎、栁澤寿男『バルカンから響け!歓喜の歌』

栁澤寿男氏についてより詳しい情報はこちらの公式ホームページもありますのでぜひご覧ください。

さて、いきなりこう申し上げるのもお恥ずかしいのですが、私はこの本を読んでいて感極まってしまいました・・・

これまでボスニア紛争やルワンダ・ジェノサイドなどについての本を紹介してきましたが、本を読み、記事を書くのも本当に辛い日々でした。あまりの悲惨さ、救いのなさに正直苦しくてどうしようもなくなっていた自分がいました。

ですが、この本には救いがあります。悲惨な憎しみの世界にあって音楽の力で平和と希望を蘇らせるのだという強いメッセージが伝わってきます。

私がこの本を最後に読もうと取っておいたのも、そうした力をこの本からすでに感じていたからでもありました。

この本の紹介には次のような解説も書かれています。

偶然降り立ったバルカンの地で本当の指揮者人生が始まった。
日本人だからできること、音楽だからできることがある!

04年マケドニアの首都スコピエの国立歌劇場でタクトを振る機会を得て、翌年にはマケドニア国立歌劇場の首席指揮者に就任。ヨーロッパでの指揮者キャリアは順調にスタート―……とは行かずに、そこには大きな挫折が待ち受けていた。折れそうな心を奮い立たせ、07年に隣国コソボで再出発。しかし、新天地で目の当たりにしたのは、民族対立そして深く残る紛争の爪痕。音楽家として、指揮者として、日本人として、ひとりの人として自分に何ができるのか。「国や民族を越え、音楽で人をつなぐことはできないか」と、対立する民族を集めた「バルカン室内管弦楽団」を設立。平和と共栄共存を願い、あらゆる民族と共演するこの楽団が、バルカンから世界中へ「歓喜の歌」を響かせる。


晋遊舎、栁澤寿男『バルカンから響け!歓喜の歌』 より

この本ではまず、著者がマケドニアで受けたバルカンの洗礼と挫折が語られ、そこからいかに立ち上がり、「バルカン室内管弦楽団」が成功していったかを私達は目の当たりにすることになります。

紛争後の複雑な政治情勢や荒廃したインフラ、民族感情など、著者の語る苦労は並々ではありません。

ですがそんな中でも音楽の力を信じ突き進み、奇跡を起こしたこの物語には本当に痺れました・・・!

YouTubeでも栁澤寿男氏の活動やこの本で書かれていたことを見ることができます。

以下にそちらをご紹介しますが、ぜひ本と合わせてこちらも見て頂けたらなと思います。

次の映像ではボスニアの映像もたくさんあります。ボスニアの今を知る上でもとても貴重な映像です。

スレブレニツァの虐殺を改めて学ぶためにここまで参考書を紹介してきました。

その最後にこの本を読むことができたのは本当に大きな意味があったと思います。

この本には希望があります。絶望的な紛争が起きたバルカンが立ち上がりつつあるのだということを知ることができます。

思い返せば、私も2019年にボスニアを訪れています。その時にお世話になった現地ガイドのミルザさん、松井さんもこう仰られていました。

「ボスニアはたしかに悲惨な紛争が起こりました。今でも多くの人が苦しんでいます。ですが、ボスニアは魅力的な国です。優れた文化があり、素晴らしい景色もたくさんあります。ボスニアは復興が進んでいます。ぜひたくさんの方にこの国の魅力が伝わってくれたらなと思います。紛争の暗い側面を学ぶことももちろん大切なことですが、ぜひボスニアの素晴らしさも紹介して頂けらなと思います。」

紛争のことを学んでいるとどうしても苦しくなっていきます。ましてやそうした内容の記事だけを紹介した場合、ボスニアという国が「怖くて重い国」というイメージになってしまいます。ですが、現地の方はその苦しさを抱えつつも復興のため日々を生きています。

暗い側面だけでなく、希望や明るい側面も大切だと心の底から思います。

非常におすすめな1冊です。ぜひ多くの方に読んで頂きたい1冊です。

以上、「バルカンに平和と希望を!栁澤寿男『バルカンから響け!歓喜の歌』」でした。

Amazon商品ページはこちら↓

バルカンから響け!歓喜の歌

バルカンから響け!歓喜の歌

ボスニア紛争、スレブレニツァの虐殺を学ぶためにおすすめの参考書一覧紹介記事

あわせて読みたい
ボスニア紛争を学ぶためのおすすめ参考書15作品をご紹介 この記事ではボスニア紛争、スレブレニツァの虐殺を学ぶためのおすすめ参考書を紹介していきます。途中からはルワンダ、ソマリアで起きた虐殺の本もありますが、これらもボスニア紛争とほぼ同時期に起きた虐殺です。 長有紀枝著『スレブレニツァ―あるジェノサイドをめぐる考察―』にルワンダ、ソマリアの虐殺のことが述べられていました。この三者は紛争や虐殺が起こった背景や、それを防ぐことができなかった国際機関のメカニズムが非常に似ています。ボスニア紛争、スレブレニツァの虐殺の理解を深めるためにもこれはぜひ重要と感じ、ここで紹介させて頂くことにしました。 これからしばらくは重い内容が続く更新になりますが、ここで改めて人間とは何か、なぜ虐殺は起こってしまうのかということを考えていきたいと思います。

関連記事

あわせて読みたい
E・H・カー『歴史とは何か』あらすじと感想~歴史はいかにして紡がれるのかを問う名著 E・H・カーの『歴史とは何か』は私たちが当たり前のように受け取っている「歴史」というものについて新鮮な見方を与えてくれます。 歴史を学ぶことは「今現在を生きる私たちそのものを知ることである」ということを教えてくれる貴重な一冊です。この本が名著として受け継がれているにはやはりそれだけの理由があります。ロシア・ウクライナ情勢に揺れている今だからこそ読みたい名著中の名著です。
あわせて読みたい
柴宜弘『ユーゴスラヴィア現代史 新版』あらすじと感想~ボスニア内戦の流れと全体像を知るのにおすすめ この本は1990年代に深刻な分裂、内戦が起きたユーゴスラヴィアの歴史を解説した作品です。 私は2019年にボスニア・ヘルツェゴビナを訪れています。その時の経験は今でも忘れられません。
あわせて読みたい
長有紀枝『スレブレニツァ―あるジェノサイドをめぐる考察』あらすじと感想~スレブレニツァの虐殺を学ぶ... この本はスレブレニツァの虐殺について学ぶのに最適の1冊です。内容も、初心者にもわかりやすくありながらもかなり詳しいところまで伝えてくれるので非常に勉強になります。読みやすさも抜群ですのでぜひおすすめしたい1冊です。
あわせて読みたい
異国情緒溢れる街サラエボ探訪と紛争経験者に聞くボスニア紛争の現実 世界一周記ボスニア編一覧 私の旅で最も心に残った国!僧侶上田隆弘の世界一周記ボスニア編一覧19記事 私がオーストリアの次に向かったのはボスニア・ヘルツェゴビナという国。 ボスニア・ヘル...
あわせて読みたい
ボスニア紛争経験者ミルザさんの物語(前編)~紛争の始まりと従軍経験 ボスニア編⑦ わかりやすい構図で語られる、紛争という巨大な出来事。 ですが、事実は単にそれだけでは済まされません。民族や宗教だけが紛争の引き金ではありません。あまりに複雑な事情がこの紛争には存在します。 わかりやすい大きな枠組みで全てを理解しようとすると、何かそこで大切なものが抜け落ちてしまうのではないだろうか。なぜ紛争が起こり、そこで一体何が起こっていたのか。それを知るためには実際にそれを体験した一人一人の声を聞くことも大切なのではないでしょうか。 顔が見える個人の物語を通して、紛争というものが一体どのようなものであるのか、それを少しでも伝えることができたなら幸いです。
あわせて読みたい
P・ポマランツェフ『プーチンのユートピア』あらすじと感想~メディアを掌握し、情報統制するプーチン政... この本も衝撃的でした。 プーチン政権がいかにメディアを掌握し、国民に対して情報を統制しているかがよくわかります。 著者はテレビプロデューサーとして実際にロシアのメディア業界を体感し、その実態をこの本で記しています。 ロシアのテレビ業界に働く人々の雰囲気や、プーチンから厳しく監視されているメディア業界の緊張感がこの本で感じられます。まさにプロパガンダの最前線。よくこんな本を出せたなと驚くばかりです。
あわせて読みたい
ルワンダの虐殺を学ぶのにおすすめの参考書7作品~目を背けたくなる地獄がそこにあった… ルワンダの虐殺はあまりに衝撃的です。トラウマになってもおかしくないほどの読書になるかもしれません。それほどの地獄です。人間はここまで残酷になれるのかと恐れおののくしかありません。 私はボスニア紛争をきっかけにルワンダの虐殺をこうして学ぶことになりましたが、これらの本を読んでいてボスニア、ルワンダ、ソマリアのそれぞれが特異で異常なのではなく、人間の本質としてそういうことが起こり得る、誰しもがやってしまいかねないものを持っているのだということを改めて思い知らされることになりました。 目を背けたくなるような歴史ではありますが、ここを通らなければ、歴史はまた形を変えて繰り返してしまうことでしょう。そうならないためにも私たちは悲惨な人間の歴史を学ばなければならないのではないでしょうか。
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次