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トニー・ジャット『20世紀を考える』概要と感想~悲惨な歴史を繰り返さないために私たちは何をすべきか
今回ご紹介するのは2015年にみすず書房より発行されたトニー・ジャット、河野真太郎訳『20世紀を考える』です。
トニー・ジャットといえば以前の記事でも紹介した『ヨーロッパ戦後史』で有名な歴史学者です。
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この本では著者の超人的な知の広がりを目の当たりにすることになります。読んでいてまさしく、自分の知っている世界が広がる感覚・・・歴史における地理的、文化的な横軸がどこまでも広がり、時間という縦軸がぐ~っと伸びていく感覚・・・うまく言い表せないのですがこの本を読んでいると「自分の世界が広がる」という感覚を味わうことになります。
では早速この本について見ていきましょう。
名著『ヨーロッパ戦後史』の歴史家が語り尽くす百年の精神史。
ホロコーストとシオニズム、ファシズムと共産主義、知識人の存在理由を自伝と交差させた究極の遺著。
「本書はヨーロッパとアメリカ合衆国における近現代の政治思想の歴史だ。その主題は、19世紀終盤から21世紀初頭にかけてのリベラル、社会主義、共産主義、ナショナリスト、そしてファシストの知識人たちによってさまざまなかたちで理解された、権力と公正である。
本書はまた、20世紀の半ば、第二次世界大戦とホロコーストという歴史的激動の直後に、そして東欧で共産主義者たちが権力を掌握しつつあった時にロンドンに生まれた歴史家にして評論家のトニー・ジャットの知的な伝記でもある。
そして最後に、本書は政治思想の限界、そしてその再生の可能性、についての、また政治における知識人の道徳的・精神的失敗、そしてその義務、についての思索でもある。」(ティモシー・スナイダー)
「20世紀を過去のものだとしてしまう際に、わたしたちは何を失ったのか? 近い過去のどの部分が忘却されており、よりよい未来を建設するためには何を取りもどして利用できるのか?(…)その結果できあがったのは、このうえなく活発な対話である。これ以上の結果は望むべくもなかっただろう。」(トニー・ジャット)
Amazon商品紹介ページより
この本は難病ALSに苦しんでいたトニー・ジャットの遺作というべき作品で、同じく歴史家のティモシー・スナイダーが彼にインタビューをするという形式でこの本は書かれています。
ティモシー・スナイダーも当ブログでこれまで紹介してきた歴史学者です。
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その疑問に対してこの上ない回答をしてくれたのが本書でした。
訳者が「読むのはつらい」と言いたくなるほどこの本には衝撃的なことが書かれています。しかし、だからこそ歴史を学ぶためにもこの本を読む必要があるのではないかと思います。
彼の『ブラッドランド ヒトラーとスターリン 大虐殺の真実』はあまりにショッキングな内容で、これまで私が抱いていたホロコースト、粛清のイメージをかなり変化させるものとなりました。だからこそ当ブログでは「『ブラッドランド ヒトラーとスターリン 大虐殺の真実』を読む」という形式でこの本の内容を読んできました。
そんな戦前、戦中、戦後ヨーロッパの歴史の大家である二人の対談は非常に興味深いものでありました。聴き手と話し手の化学反応とはこういうことなのだなということを感じました。圧倒的なレベルの知識人同士が本気で世界について語り合う。それがこの作品です。この二人の織りなす対談にとにかく圧倒される読書になります。その見解の鋭いこと鋭いこと・・・!はっとさせられるようなことが何度も出てきます。
特に私が印象に残ったのはトニー・ジャットがマルクス主義について語ったところです。マルクス主義とはそもそも何だったのか、なぜこんなにも人々を強烈に引き寄せたのか、その考察は思わずうなってしまうほどのものでした。ここでは紹介しませんが、その箇所については改めてじっくりご紹介していきたいと考えています。(※「歴史家トニー・ジャットによるマルクス主義への見解~「伝統的なキリスト教の終末論との共通点」マルクス主義は宗教的現象か⑵」の記事参照)
そして最後にひとつ、紹介したい箇所があります。
聴き手であるティモシー・スナイダーがまえがきで語ったある言葉が私の心を打ったのでした。それをこれから引用します。
本書が対話をもとにしているという性格のために、その著者たちはほかの何千冊もの本に精通している必要があった。トニーとわたしは面と向かって対話していたわけであるから、文献を参照してチェックする時間などなかった。トニーはわたしが何を質問するか前もって知ってはおらず、またわたしもトニーがどう答えるか前もって知ってはいなかった。
本書に収録された対談には、二人の精神が対話を通じて果断に格闘した際の自発性、予測不可能性、そしてときには遊びが反映されている。しかし全編を通じて、そして特に歴史にまつわる章においては、わたしたちの頭脳に収められた蔵書の力が必要であり、そして特にトニーのあり得ないほどに膨大で、きれいに目録化されたそれの力に頼ることになった。
本書は対話の力を主張するものであるが、おそらく読書の力をより強く主張するものである。わたしはトニーとともに学んだことはないが、彼の頭脳の蔵書目録はわたしのそれとかなり重複するものであった。わたしたちのそれまでの読書はひとつの共有空間をつくり出しており、その中でトニーとわたしは、行き先が分からなくなったような場合には標識や見通しを指摘しあいながら、冒険の旅をともにしたのである。
※一部改行しました
みすず書房、トニー・ジャット、河野真太郎訳『20世紀を考える』P6-7
私はこの箇所を読んだ時、素直に「格好いいな」と思いました。もう「憧れ」に近い感情です。
読書の力をこんな形で見せられるというのはとにかく衝撃でした。
読書は質と量どちらが大事かという議論はよくありますが、本当に何かを極めようと思ったらやはりどちらも大切なのです。世界のトップを走り続けた学者、知識人の凄みを感じました。この本はそんな二人の凄まじい知のぶつかり合いです。こんな刺激的な本にお目にかかれて幸運でした。
非常におすすめな1冊です。ぜひ手に取って頂きたいなと思います。
以上、「トニー・ジャット『20世紀を考える』悲惨な歴史を繰り返さないためには」でした。
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