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『西尾幹二全集第五巻 光と断崖ー最晩年のニーチェ』概要と感想~発狂直前のニーチェの思想を解説したおすすめ作品
フリードリヒ・ニーチェ(1844-1900)wikipediaより
今回ご紹介するのは2011年に国書刊行会より発行された西尾幹二著『西尾幹二全集第五巻 光と断崖ー最晩年のニーチェ』です。
早速この本について見ていきましょう。
出版社内容情報
西尾幹二が最晩年のニーチェに敢然と挑み、誰も成し得なかったニーチェの哲学を集成する。
代表作『ニーチェ』の続編。
1.最晩年のニーチェ:光と断崖/
幻としての『権力への意志』/
ニーチェ『この人を見よ』(西尾幹二訳)/
著作を「作る」ことを排した決定版ニーチェ全集の出現
2.ドイツにおける同時代人のニーチェ像
3.日本におけるこの90年の研究の展開 」
4.掌編 研究余滴/ニーチェと学問/方法的態度
後記
紀伊國屋書店商品紹介ページより
この本では発狂直前のニーチェの作品や彼の思想を解説する「最晩年のニーチェ」が収録されています。
前回までで紹介した『ニーチェ 第一部』と『ニーチェ 第二部』の続編にあたる論稿です。
ニーチェ最晩年の作品には『偶像の黄昏』や『アンチクリスト』、『この人を見よ』などニーチェ思想における重要な作品があります。
著者の西尾氏はその中でも『アンチクリスト』こそ晩年の傑作とし、その解説に多くの頁を割いて語っていきます。
その中でも個人的に驚きだったのがドストエフスキーとの関係です。他の参考書ではニーチェがドストエフスキーの後期作品を読んでいたかは不明だとされていたのですが、西尾氏によると『悪霊』や『白痴』の影響が『アンチクリスト』には明らかに反映されていて、資料的な裏付けもしっかりとなされているとのことでした。
なぜそれが明らかになったかというと、西尾氏が参照しているのがドイツにおける新版のニーチェ全集であることがその大きな理由です。
『偶像の黄昏』、『アンチキリスト』、『この人を見よ』をもっと深く知りたい方にはこの本は非常に役に立つと思います。これらの作品に込められた意味や制作の背景がくっきりと見えてきます。
また、ニーチェの問題作『権力への意志』についての詳細な解説もこの本の魅力の一つです。『権力への意志』がどのように成立したのか、そしてその問題点はどこにあるのかということが詳細に語られます。この記事ではお話ししませんが、また改めて『権力への意志』についてはまとめたいと思います。
この本は単にニーチェの解説だけにとどまらず、いかにニーチェと向き合うかということも考えさせられます。ニーチェに興味のある方にぜひおすすめしたい1冊となっています。
以上、「『西尾幹二全集第五巻 光と断崖ー最晩年のニーチェ』~発狂直前のニーチェの思想を解説」でした。
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光と断崖: 最晩年のニーチェ (西尾幹二全集)
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