MENU

ディケンズの代表作『クリスマス・キャロル』あらすじと感想~ディズニーでも映像化された作品!

クリスマス・キャロル
目次

ディケンズの代表作『クリスマス・キャロル』あらすじ解説と感想

チャールズ・ディケンズ(1812-1870)Wikipediaより

今回ご紹介するのは1843年にディケンズにより発表された『クリスマス・キャロル』です。私が読んだのは新潮文庫、村岡花子訳の『クリスマス・キャロル』です。

早速あらすじを見ていきましょう。

ケチで冷酷で人間嫌いのがりがり亡者スクルージ老人は、クリスマス・イブの夜、長い鎖に巻かれた老マーレイの亡霊と対面する。翌日からは彼の予言どおりに第一、第二、第三の幽霊に伴われて知人の家を訪問する。炉辺でクリスマスを祝う、貧しいけれど心暖かい人々や、自分の将来の姿を見せられて、さすがのスクルージも心を入れかえた……。文豪が贈る愛と感動のクリスマス・プレゼント。

Amazon商品紹介ページより

おそらくディケンズの作品で最も知名度があり、そして現代でも最も親しまれているのがこの『クリスマス・キャロル』なのではないでしょうか。

ディズニーでも映像化されたりと、小説以外の場でも親しむことが多い作品です。

小説も文庫で180ページ少々と、読みやすい分量でしかもストーリー展開も明快で非常に読みやすい作品です。

さて、あらすじにもありますように、『クリスマス・キャロル』の主人公スクルージ爺さんはなかなか強烈な個性の持ち主であります。

けちで頑固で意地悪で口が悪くて、冷たくて人間嫌い。

誰からも好かれず、人を寄せ付けない典型的な人物像です。

もはや世の中に「スクルージ爺さんのような人」という言葉が定着しているほどこのお爺さんの特徴は際立っています。

『クリスマス・キャロル』ではそんなスクルージ爺さんがクリスマスイブの夜、亡くなった仕事仲間のマーレイの亡霊と対面します。

翌日からマーレイの予言通り、3人のお化けと出会い、スクルージ爺さんは自らの人生を振り返ります。そしてこのままではどんな結末を迎えるかに恐れおののきます。

そしてあのけちで頑固で冷徹なスクルージ爺さんもついに心を入れ替え、新たな人生を送るのでありました。

さて、この『クリスマス・キャロル』について、ディケンズ学者の島田桂子氏の『ディケンズ文学の光と闇』に興味深い解説がありましたので引用します。

クリスマスと言えば、ディケンズが‛Father Christmas’と呼ばれ、厳しいカルヴァン主義者による非難と差し止めから、家族団欒と喜ばしい宴という伝統的なクリスマスの祝いを再びイギリスの文化に取り戻した張本人であることはよく知られている。『ピクウィック』のディングリー・デルのクリスマスの宴や、『クリスマス・キャロル』のクラチット家のクリスマス・ディナーはその典型である。

しかし、ディケンズが描くクリスマスには、もうひとつ、重要な意味がある。それは、クリスマスと「贖罪の死」との関係である。

その例は、『クリスマス・キャロル』にもっとも強く表れている。スクルージはクリスマス・イヴの夜、幻像の中で「死」を見る。それは、過去における自分が幼かった頃の想像力や愛情の死であり、現在における兄弟姉妹との断絶という死であり、未来における足の悪いテイム坊やの死と、自分自身のおぞましい死である。

スクルージが幻の中で見たティム坊やの死が、彼の救済の要因となり、スクルージはクリスマスの朝に回心して全く新しい人間に生まれ変わる。スクルージは、生まれ変わった時、「私は過去と現在と未来の中に生きます!」という誓いの言葉を繰り返す。これは、スクルージに与えられた新しい命が「永遠」という時間を超越したものであり、過去と現在と未来における「死」を克服したことを表している。

ティム坊やと同じょうに、『骨董屋』のリトル・ネル、『オリヴァー・トゥイスト』のディック、『ニコラス・ニクルビー』のスマイク、『ドンビー父子』のポール・ドンビーのような子供たちは、ある意味で、我々が生きるために死ぬという、一種の生贄となっているのである。

したがって、無垢な者、小さい者、弱い者の象徴である子どもの死は、ある種の贖罪として用いられていることが分かる。クリスマスは「偉大な主ご自身が子どもであられた」日であると、ディケンズは『クリスマス・キャロル』の中で強調している。

未来のクリスマスの精霊に導かれて、ティム坊やのいない、しんと静まりかえったクラチット家を訪れたスクルージが聞いたものは、ピーターが朗読する聖書の言葉である―「そして、ひとりの幼な子をとりあげて、彼らの真ん中に立たせ……」この朗読は、ティムを亡くした母親の涙で中断されてしまうが、読者は、その聖書の言葉の続き―「それを抱いて言われた。だれでも、このような幼な子のひとりを、わたしの名のゆえに受けいれる者は、わたしを受けいれるのである(マルコ九・三六~三七)―を静かに思い起こし、ティム坊やと幼な子キリストとを重ね合わせるであろう。

このように、ディケンズにとってクリスマスは、やがて我々を生かすために十字架上で贖罪の死を遂げる贖い主が産まれた日であり、「クリスマス」という出来事の指し示す先には、贖罪の死と「永遠の命」という「復活」があることをいつも関連づけているのである。

彩流社 島田桂子『ディケンズ文学の闇と光―悪を照らし出す光に魅入られた人の物語』P142-144

イギリスでディケンズが「クリスマス・ファーザー」と呼ばれているのは初めて知りました。クリスマスの宴をイギリスに復活させた人物こそこのディケンズだったとは驚きでした。

そしてドストエフスキーが彼のことを「偉大なキリスト教徒」と呼ぶように、この作品ではキリスト教的なメッセージが実はふんだんに含まれていることがこの解説から知ることができました。

感想~ドストエフスキー的見地から

『クリスマス・キャロル』はドストエフスキーによる直接の言及はありません。

しかし、この作品がイギリスだけでなく世界中で与えた影響力を考えると、ドストエフスキーも読んでいたと考えられます。

しかも子どもの教育のために「ディケンズはすべて読ませなさい」と他人にもアドバイスしていたほどですから、『クリスマス・キャロル』も当然そのひとつに含まれるだろうと思います。

たしかにこの作品はディケンズ作品の中でも特に子どもの教育にはうってつけの作品であるように思えます。

意地の悪いお爺さんが自分の冷たい生き方を振り返り、心の温かさを回復させ、幸せな人生を取り戻すという筋書きは非常に魅力的です。

あのディズニーが映像化するほどですから、やはりそれだけ魅力的で意義のあるストーリーであることは疑いありません。

私の妹もクリスマスが近くなると毎年観たくなると言っていました。

何度も何度も観たくなるほどこのストーリーは観るものをほっこりさせものがあります。

ドストエフスキーが子どもの教育について、

ウォルター・スコットは、高い教育的な価値を持っています。ディケンズは全部、いっさい例外なしにお読ませなさい。

河出書房新社 米川正夫訳『ドストエーフスキイ全集18』 書簡下 P430

と言うのももっともであると思います。

また面白いことにこの言葉のすぐ後に、ドストエフスキーは自分で

小生の作品は全部が全部、ご令嬢に適当だろうとは思いません。

河出書房新社 米川正夫訳『ドストエーフスキイ全集18』 書簡下 P430

と述べています。

ドストエフスキーは自分の作品は子どもの教育には適当ではないと言うのです。

これは謙遜から言ったのか本心から言ったのかはわかりませんが、興味深い発言です。

ドストエフスキー自身はディケンズを愛し、その善良な筋書きを評価しているからこそ子どもの教育に彼の作品を薦めます。

しかしドストエフスキー自身はそういう作品を作ろうとはしません。

ドストエフスキーの作風はディケンズのほがらかで善良なストーリーとはまるで違います。

まるでそんなストーリーなど現実の人間においてはありえないのだと言わんばかりに人間世界のカオスを彼は描いています。

ディケンズ作品を読んでみたからこそ、こうしたディケンズとドストエフスキーの作風の違いが分かって面白いです。

ディケンズとドストエフスキーの作風の違いは、世界的伝記作家ツヴァイクの『三人の巨匠』という本に詳しく書かれているので興味のある方はぜひ読んでみてください。

あわせて読みたい
ツヴァイク『三人の巨匠』あらすじと感想~バルザック、ディケンズ、ドストエフスキー、比べてわかるそ... 「なぜドストエフスキーは難しくて、どこにドストエフスキー文学の特徴があるのか。」 ツヴァイクはバルザック、ディケンズとの比較を通してそのことを浮き彫りにしていきます。

さて、話は戻りますが、

「尊敬はしているけど私はそういう作品を書かない」

「善良な作品を読みたいのならディケンズを読んで下さい。私の作品はそういうものを求めている人には適当ではありません」

ドストエフスキーはこう言いたかったのでしょうか。彼の言葉だけではそれは確かめようがありません。

ですが、ディケンズの『クリスマス・キャロル』がたしかに面白かったのは事実。さすが世界中で今でも絶大な影響力を与えている作品だとうならざるをえませんでした。

以上、「ディケンズの代表作『クリスマス・キャロル』あらすじ解説~ディズニーでも映像化された作品!」でした。

Amazon商品ページはこちら↓

クリスマス・キャロル (新潮文庫)

クリスマス・キャロル (新潮文庫)

次の記事はこちら

あわせて読みたい
ディケンズ『デイヴィッド・コパフィールド』あらすじと感想~ドストエフスキーも愛したミコーバー夫妻とは この作品はディケンズの自伝的な要素をはらんだ彼の代表作であり、サマセット・モームの「世界の十大小説」にも選ばれている名作です。 ドストエフスキーもこの作品を愛読し、特にそのキャラクター、ミコーバーを自分に当てはめて奥様にジョークを語るなど、普段の生活からその影響は大きかったようです。 この記事ではそんなミコーバーとドストエフスキーの関係についてお話ししていきます。

前の記事はこちら

あわせて読みたい
ディケンズ『骨董屋』あらすじと感想~ドストエフスキー『虐げられた人びと』に強い影響! 『骨董屋』の主人公たるネルは、ドストエフスキーの『虐げられた人びと』でもネリーという名前で登場します。もちろん、そっくりそのまま同じ境遇、性格ではありませんが『骨董屋』に強いインスピレーションを受けているのは否定できません。 また、この作品はキリスト教作家ディケンズという側面が強く出てきた作品でもあります。ドストエフスキーはディケンズのそのような側面も尊敬していたそうです。

ディケンズのおすすめ作品一覧はこちら

あわせて読みたい
イギリスの大作家ディケンズおすすめ作品7選~『クリスマス・キャロル』など心温まる作品で有名な文豪 19世紀のイギリスといえば、産業革命も進み、イギリスの国力は世界を席巻するものでした。ですがその反面労働環境は悲惨を極め、経済格差は広がり、環境公害も起こっていました。 そんな社会の闇をディケンズは冷静な目で描きます。ですがそんな闇を描きつつも彼は持ち前のユーモアや善良なる救い手の力によって物語に光を差し込ませます。 この絶妙なバランス感こそディケンズ小説の面白さの秘訣なのではないかと思います。

関連記事

あわせて読みたい
イギリスの文豪ディケンズとは~ディケンズなくしてドストエフスキーなし! ディケンズはキリスト教作家としても尊敬されていました。ドストエフスキーが彼のことを非常に大切にしていたのもここに根があります。 ドストエフスキーは彼をキリスト教作家として尊敬していました。 そしてディケンズの愛に満ちた作品を愛し、その優しい世界観を感じていたのかもしれません。 悪のはびこる世界でも、優しい愛ある人間性を感じることができるのがディケンズの作品です。 だからこそドストエフスキーは子どもたちへの教育や、妻アンナ夫人にディケンズを勧めていたのかもしれません。
あわせて読みたい
島田桂子『ディケンズ文学の闇と光』あらすじと感想~ディケンズとドストエフスキー・キリスト教を知る... この本は名著中の名著です。本当に素晴らしいです。 読んでいて驚いてしまいました。 ディケンズといえばイギリスの文豪。ロシアで言うならドストエフスキーやトルストイのような存在です。 そのような作家の解説書となると読みにくかったり難しくなってしまいがちですが、この本は一味違います。 これほどわかりやすく、かつ深い考察までされている本はなかなかお目にかかれるものではありません。
あわせて読みたい
ディケンズ『ピクウィック・クラブ』あらすじと感想~ドストエフスキー『白痴』に強烈な影響!19世紀イ... この作品はセルバンテスの『ドン・キホーテ』を意識して書かれ、ドストエフスキーの代表作『白痴』にも多大な影響を与えた作品です。 当時イギリスでこれを読んでいた人たちは大笑いし、イギリス中がピクウィック氏の活躍を毎週毎週心待ちにしていたそうです。 ディケンズ作品の中で『ピクウィック・クラブ』は、ドストエフスキーを学ぶ上で最も重要な作品です。 私もつい最近までこの作品を知りませんでしたが読んで納得、とても面白い作品でした。
あわせて読みたい
ディケンズ『オリヴァー・ツイスト』あらすじと感想~ロンドンの悲惨な社会状況を告発!善良な少年オリ... 『オリヴァー・ツイスト』は単に「小説として面白かったね」で終わらずに、社会そのものに強い影響を与えました。なんと、実際に多くの人がこの作品を読んで社会改善を唱え、制度も改革されていったのです。 こうした「善を呼び覚ます小説の影響力」。 これはものすごいことであります。 ドストエフスキーが多くの人、特に子どもたちにディケンズの小説を勧めるのはこういうところにもその理由があるのかもしれません。 ディケンズの代表作『オリヴァー・ツイスト』、読みやすく物語展開も目まぐるしい面白い作品でした。
あわせて読みたい
ディケンズ屈指の人気作『二都物語』あらすじと感想~フランス革命期のロンドンとパリを描く! この作品は展開が早く、またそれぞれの登場人物もキャラが際立っていて読みやすいです。 解説でも、 「『二都物語』は、そうした〝ダーク〟ディケンズ全開の一篇で、二十を超える作品のなかでも傑出したエンターテインメントだ。二作しかない歴史物のひとつだが、『クリスマス・キャロル』とともにもっともよく知られ、小説として世界歴代トップクラスのべストセラーでもある。」と紹介されている名作です
あわせて読みたい
ディケンズ晩年の傑作『大いなる遺産』あらすじと感想~巨万の富が少年の人生を狂わせる!? 「大いなる遺産」とは一体何なのか。誰からの遺産なのか。そしてピップはどうなってしまうのか。最後の最後まで息をつかせぬストーリ―で私たちを楽しませてくれます。
クリスマス・キャロル

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次