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スペイン入国と世界中の憧れ・プラド美術館を堪能 スペイン編①

マドリード
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スペイン入国と世界中の憧れ・プラド美術館を堪能 僧侶上田隆弘の世界一周記―スペイン編①

5月11日。ローマから飛行機でスペインのマドリードへ移動。

スペイン上空に入るとオリーブ畑だろうか、これまで見てきたヨーロッパの土地とは違う雰囲気を感じる。

これからおよそ20日間をかけてスペインの各都市を巡っていく。

なぜスペインにこれだけの時間を割くのかというと、スペインが宗教的にものすごく興味深い場所であるというのが1番の理由だ。

というのも、スペインは中世のある時期までイスラム教が中心の国だった。

ヨーロッパといえばキリスト教。

そんなイメージがぼくの中にはあったのだが、調べてみるとここスペインではそんなイメージとは全く違った歴史があった。

イスラム教の文化が花開いた地。

それがスペインのもう一つの顔だった。

世界で最も繁栄していたと言えるほど、ここスペインではイスラム文化が根付いていたのだ。

アンダルシアと言えばひまわりやフラメンコのイメージがあるかもしれないが、このアンダルシアこそイスラム文化が最も栄えた地域。

その繁栄を示す代表がアルハンブラ宮殿やコルドバのメスキータと呼ばれる建造物なのだ。

アルハンブラ宮殿
コルドバのメスキータ

そしてキリスト教徒とユダヤ教徒も同じようにそこに暮らしていた。

違った宗教の人々が共存してきた歴史もそこにはあったのだ。

ある時から共存の時代は終わりを迎えてしまったものの、この国の宗教のあり方というのはヨーロッパにありながら独特の歴史を紡いできた。

というわけで、ぼくはこの国にとても興味を持つようになったのだった。

マドリードの街並みはモダンでヨーロッパらしさを感じた。

こうして街中を歩いていると、ふとウィーンに街並みが似ているなという思いが頭をよぎった。

ウィーンの街並み

気になったので調べてみると、このマドリードの街並みが出来上がったのは20世紀初頭の建設ブームの時だそうで、これはウィーンとまったく同じ時期だったそうだ。

さらに言えばスペインとオーストリアはかつてハプスブルグ家が共に統治していた関係で結びつきが強い。

なるほど、似ているどころかそもそも同じ時代に同じように作られていたということか。

それなら似ているというのも頷ける。

世界はつながっているということを建築からも感じることができた。

プラド美術館

そしてぼくがこのマドリードで訪れたかったのはプラド美術館。

世界最高峰の美術館の一つにも数えられるこのプラド美術館。

そこにはヒエロニムス・ボスの『快楽の園』が展示されている。

1500年ころに描かれたこの絵はある意味、ヨーロッパ版の地獄絵図のようなものだ。

右側の暗い絵の部分が地獄を表している。

この見れば見るほど奇妙で理解不能な絵にぼくはぜひとも直接お目にかかりたかったのだ。

そしてプラド美術館といえばベラスケス(1599-1660)の絵でも有名だ。

この「ラス・メニーナス」の絵はプラド美術館の顔ともいうべき作品。

この絵を対面してじっと眺めていると自分が絵の中に入り込んでしまったかのような感覚になってしまった。

プラド美術館の中でも最も人気の作品であるがゆえに絵の前はいつも混雑しているが、それでも観に行く価値はものすごくあると言える。

ラファエロ 『キリストの変容』 バチカン美術館所蔵 

だが、この日この美術館を鑑賞して1番驚いたのはバチカン美術館にあるラファエロの『キリストの変容』のレプリカを観た時のことだった。

プラド美術館に展示されていたのは弟子によるレプリカだったのだが、ラファエロがいかにずば抜けてすばらしい力を持っていたのかがよくわかった。

プラド美術館は館内写真撮影禁止なのでその絵は掲載できないが、基本的にはレプリカなので構成は一緒だ。

しかしバチカンで見たラファエロの絵とはまるで受け取る印象が違ったのだ。

たくさんの違いをその場で感じることができたのだが、その中でも最大の違いはイエスとその弟子たちの浮遊感の違いだった。

ラファエロの絵を観た時のあの衝撃。

それと比べると、ぼくが観たレプリカではその浮遊感がまったく感じられなく、どこか重たげにすら感じてしまったのだ。

全体の構成はまったく同じだし、ぱっと見ても何が違うのかはわからない。

でも絵を観た時に受け取る感覚がまるで違う。この差は自分でも驚くほどだった。

このレプリカを作成した弟子も、普通の作家と比べたら天才レベルの人間だったのかもしれない。

しかしラファエロという人類史上屈指の天才とはやはり圧倒的な差があったのだ。

同じように見える絵だとしてもその見え方はまるで別物。

ぱっと見てもわからないくらいの極細部にこそ天才とそれをはるがに凌駕する圧倒的偉才の違いが現れるのだろう。

わからないくらい細かいところにこそ真の実力が見え隠れする。

そのことに気づかされた瞬間だった。

この浮遊感の違いに気づいた時の鳥肌は今でも鮮明に覚えている。

ラファエロ、恐るべしである。

さて、次の記事では先ほど紹介した絵ではあるが、スペインを訪れるきっかけをくれた絵でもあるヒエロニムス・ボスの『快楽の園』について改めてお話ししていきたい。

続く

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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