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『新アジア仏教史05 中央アジア 文明・文化の交差点』概要と感想~仏教の中国伝来に大きな役割を果たしたシルクロード圏の仏教とは

新アジア仏教史05
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『新アジア仏教史05 中央アジア 文明・文化の交差点』概要と感想~仏教の中国伝来に大きな役割を果たしたシルクロード圏の仏教とは

今回ご紹介するのは2010年に佼成出版社より発行された奈良康明、下田正弘編集『新アジア仏教史05 中央アジア 文明・文化の交差点』です。

早速この本について見ていきましょう。

20世紀初頭、ヨーロッパや日本の探検家により幕が開いた中央アジア仏教の歴史。
しかし、多民族による歴史と言語と文化をもつこの地ならではの複雑な事情が、仏教研究の大きな前進を阻んできました。
現在も中央アジアの各地では積極的な発掘が行なわれており、近年、さまざまな分野の専門家による共同研究が進んだことにより、新たな仏教の歴史が複合的に解明されつつあります。
その中央アジア仏教研究の最新の成果を紹介します。

近年ニュースで記憶に新しいタリバンによるバーミヤーンの大仏破壊は、仏教遺産の破壊という胸を痛める出来事でしたが、その一方で、大仏からは胎内経が発見され、中央アジア仏教研究を大きく前進させました。中央アジアの各地ではまだまだ紛争が続く地域が多くあったりと、研究者が現地に赴き自由に発掘することが難しい現状が続いています。一日も早くこの地に平和が訪れ、さらなる新しい発見がなされることを願ってやみません。 ・旧版にはなかった中央アジアの仏教を1冊で構成。 ・敦煌美術の壁画をオールカラーで詳解。 ・近年に発見された新しい中央アジア遺跡の場所なども明記した最新の地図。

【目次】
【第1章】 インダス越えて―仏教の中央アジア
【第2章】 東トルキスタンにおける仏教の受容とその展開
【第3章】 中央アジアの仏教写本
【第4章】 出土資料が語る宗教文化―イラン語圏の仏教を中心に
【第5章】 中央アジアの仏教美術
【第6章】 仏教信仰と社会
【第7章】 敦煌―文献・文化・美術

Amazon商品紹介ページより
敦煌の莫高窟 Wikipediaより

前作『新アジア仏教史04 スリランカ・東南アジア 静と動の仏教』ではスリランカや東南アジアの仏教について幅広く見ていくことになりましたが、本作では中央アジアという、私達日本人にはあまり馴染みのない地域の仏教が語られます。

上の本紹介にもありますように、タリバンのバーミヤーンの大仏破壊は私達の記憶に強く残っていると思います。

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当時小学生だった私はニュースを見て「なぜイスラム教の国にあんな巨大な大仏があったのだろう」と素朴にも疑問に思ったものですが、実はアフガニスタンをはじめとした中央アジア地域は仏教が非常に盛んな地域でもあったのでした。

そしてこの中央アジアの文化的影響が中国への仏教伝播にも大きな役割を果たしていたのでした。本書の前半では次のような興味深い言葉が語られています。

「三国伝来の仏法」という言い方がある。仏教がインド(天竺)、中国(唐)を経て日本(和国)に伝えられたことを意味する。中央アジア(西域)は単なる通路とみなされてきたらしい。しかし、仏教はインドで梱包されて中国に送り届けられたわけではない。異民族・異文化のるつぼ中央アジア各地のオアシスに定着をひろげる間、仏教はさまざまな異文化要素を内に溶けこませて中国にたどり着いている。

中央アジアには古くからミスラ教も含むゾロアスター教(祆教けんきょう)が土俗化したかたちで浸透していたし、三世紀以後はマニ教やキリスト教ネストリウス派(景教けいきょう)も流行、各地に特有の土俗宗教もあり、中国に届いた仏教にはそれら異宗教の要素が表面に見えない形で溶け込んでいたのである。

ガンジス流域の農耕世界から乾燥世界、異文化のうずまく中央アジアに受容された仏教は伝統教学の厳格さを捨てて実践的・行動的なものへと変容し、インドとは異なったかたちの仏教を中国に送り込むことになった。

佼成出版社、奈良康明、下田正弘編集『新アジア仏教史05 中央アジア 文明・文化の交差点』P14

「仏教はインドで梱包されて中国に送り届けられたわけではない」

私はこの言葉を読んで思わず「おぉ!」と膝を打たずにはいられませんでした。何たるパワーワード!

インドから中国へ仏教が伝来したというと、どうしてもこの「梱包的」なイメージを持ってしまいますが、よくよく考えてみればまさにその通り。仏教も人が運ぶものです。そしてそれは人そのものでもあるわけです。これが思想や文化の伝播の興味深いところだと思います。宗教も思想も梱包して持ち運べる「もの」ではない。当たり前のことのように思えますがよくよく考えるとものすごく深いですよね。

いやあこの言葉には痺れました!

本書ではそんな中央アジアの仏教について幅広く学んでいくことになります。中国伝来の過程で何が起こっていたのか、そして中央アジアにはどのような仏教があったのか、最新の研究成果はどうなっているのかということを知ることができます。

正直この本はかなりマニアックです。仏教初学者の方が読めばめまいがするような内容かもしれません。

ですが、マニアックな方にはたまらない内容だと思います。仏教伝播について関心のある方にもとても読み応えのある作品です。

日本人にとってはあまり馴染みのない中央アジアの仏教を知れる貴重な一冊です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「『新アジア仏教史05 中央アジア 文明・文化の交差点』~仏教の中国伝来に大きな役割を果たしたシルクロード圏の仏教とは」でした。

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新アジア仏教史05 中央アジア 文明・文化の交差点

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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