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川島耕司『スリランカと民族』あらすじと感想~シンハラ・ナショナリズムと民族対立の流れを詳しく知るのにおすすめ!

スリランカと民族
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川島耕司『スリランカと民族―シンハラ・ナショナリズムの形成とマイノリティ集団』概要と感想~シンハラ・ナショナリズムと民族対立の流れを詳しく知るのにおすすめ!

今回ご紹介するのは2006年に明石書店より発行された川島耕司『スリランカと民族―シンハラ・ナショナリズムの形成とマイノリティ集団』です。

早速この本について見ていきましょう。

スリランカを揺るがし続ける内戦はなぜ生まれたのか。イギリスによる植民地統治期から独立後現在に至るまでのスリランカにおけるナショナリズムの展開と、深刻化する民族対立の現実を豊富な一次資料をもとに読み解く。

明石書店商品紹介ページより

本書『スリランカと民族―シンハラ・ナショナリズムの形成とマイノリティ集団』はスリランカの民族紛争の歴史を学ぶのに非常におすすめな作品です。

これまで当ブログでもスリランカの民族紛争については杉本良男『仏教モダニズムの遺産』や澁谷利雄『スリランカ現代誌』などの本をを紹介してきました。

『仏教モダニズムの遺産』はタイトル通り、シンハラ仏教がいかにしてナショナリズムと結びついたかをダルマパーラという人物を中心に見ていき、『スリランカ現代誌』は紛争の全体像を見るのにおすすめの入門書でした。

それらに対し本作『スリランカと民族―シンハラ・ナショナリズムの形成とマイノリティ集団』は民族対立の形成過程を個々の民族や宗教ごとに詳しく見ていける点にその特徴があります。特に1930年代から40年代にかけての移民排斥運動に着目して本書は論じられていきます。

このことについて「はじめに」では次のように述べられています。

イギリス植民地時代におけるシンハラ・ナショナリズムの形成や政治的展開に関しては多くの貴重な研究がなされてきた。本書はこうした研究の成果を取り入れつつ、イギリス植民地期および独立後の民族問題について論じようとするものであるが、今まで十分には論じられてこなかった一九三〇年代から四〇年代における移民問題とナショナリズムの関係にも多くの焦点を当てている。実際、この時期の移民排斥問題とシンハラ・ナショナリズムの展開過程に関してはこれまで十分には解明されてこなかった。その理由は必ずしも明らかではないが、この問題が今日のシンハラ・タミルの対立の問題とは直接的には関連しないと考えられたからかもしれない。一九三〇年代のスリランカは、インド人移民のみでなくスリランカのほとんどのマイノリティの視点からするならば、極めて不安で危険な時代であった。シンハラ人の政治的支配が確立するなかで、明らかにインド系移民を排除することを目的とした法律が次々と成立した。シンハラ人たちの反インド人感情はますます高まり、インド人労働者への差別や暴力事件が多発したのみでなく、政府職にあったインド人労働者の解雇、プランテーション農園からの労働者の追放などが行われ、ついには一九四八年におけるインド系住民の国籍の剥奪にまで至った。

この一九三〇年代と四〇年代におけるインド人移民への排斥運動は、シンハラ人による多数派支配の確立という歴史過程のなかで生じたものであり、その意味で明らかに独立後の民族対立と深くかかわっている。特にこの移民排斥、あるいは移民の権利の剥奪を進めた政治家たちの多くは、これからみていくように、独立後も影響力を保持した。シンハラ人の偏見と恐怖に訴え、自らへの支持を取りつけようとする政治的手法は、一九三〇年代にほぼ確立し、それがそれ以降のスリランカ政治の一つの型となった。したがって、なぜ一九五六年の総選挙、あるいはその後のスリランカにおいてナショナリズムの政治利用が大きな成功を収めたのかという問題に答えるためには、少なくともそのほぼ直前といってもよい時期に起きたインド人移民の権利剥奪に向けた動きを分析する必要があるであろう。本書はこの間題を中心に、主に一九世紀後半から現在に至るまでのシンハラ・ナショナリズムの展開について考察しようとするものである。

明石書店、川島耕司『スリランカと民族―シンハラ・ナショナリズムの形成とマイノリティ集団』P14-15

スリランカの内戦は単にシンハラ人とタミル人という二項対立だけでなくもっと複雑な構図があったことがこの箇所からうかがえると思います。

そして本書の流れについて次のように説かれています。ここを読むだけでもスリランカの複雑な政治模様が見えてくると思います。

本書は以下のように構成されている。第一章では、一九世紀半ばから活発化し始めた反キリスト教運動に焦点を当て、反キリスト教運動、あるいは仏教復興運動がどのようにシンハラ・ナショナリズムと結びついていったのかをみていく。特に、キリスト教ミッションとの対抗のなかで宗教的境界が非常に排他的で固定的なものになっていったこと、あるいは特に一九世紀末頃からシンハラ・アイデンティティが強調され、反キリスト教運動に取り込まれていったことを明らかにする。

第二章では、特に一九世紀末からニ〇世紀初頭においてシンハラ・ナショナリズムがどのように影響力を高めていったのかを、当時急速に活発化した禁酒運動や一九一五年の反ムーア人暴動の背景とその性格を考察しつつ論じていく。

第三章と第四章では都市への移民と彼らに対する排斥運動について扱う。都市への移民には今日のインド・ケーララ州からのマラヤーリ人が多かった。その実態を明らかにするとともに、彼らへの排斥運動がいかに行われたかをみていく。また、この問題に関する植民地政策を検討するなかで、なぜこの問題が深刻化していったのかを考える。

第五章と第六章は、インド・タミル人と呼ばれる人々とシンハラ人との関係を扱う。中央高地のプランテーション地域において民族的な対立がいかに形成されていったかを明らかにし、インド・タミル人たちの民族的な危機意識が労働組合の結成につながったこと、あるいは一九四八年の国籍剥奪がシンハラ人の政治的支配の確立に向けての流れのなかで起きたことを示す。また、独立後のプランテーションの国有化の影響、一九八〇年代頃から顕著になった教育の発達と新しいアイデンティティの模索といった問題が扱われる。

最終章である第七章では、独立以降に大きく顕在化し、深刻な問題となっていったシンハラ人とスリランカ・タミル人との対立、特に一九八三年の暴動の影響や内戦の展開などを考察することとなる。

現在ほとんどの国家がいわゆる多民族国家であり、一民族のみがつくる国家という意味の民族国家(国民国家)はほとんど存在しない。こうした多民族国家において異なる民族がいかに共存するかはきわめて重要かつ困難な問題であろう。言うまでもなく、異なる民族の存在が必然的に民族的対立につながるわけではなく、さらには民族的な対立が必然的に暴力的な抗争をもたらすわけでもない。民族対立が生まれ、深刻化し、それが暴力や内戦へと拡大していくにはさまざまな要因があるはずである。本書はその原因と経緯の考察である。
※一部改行しました

明石書店、川島耕司『スリランカと民族―シンハラ・ナショナリズムの形成とマイノリティ集団』P14-16

本書はスリランカ内戦に関する新たな視点を私たちに示してくれます。

この本を読んで「え!そうだったの!?」という事柄が何度も出てきて私自身も驚かされることになりました。

スリランカ内戦や政治の流れを知る上で本書は必読の一冊です。ぜひぜひおすすめしたい作品です。

以上、「川島耕司『スリランカと民族』~シンハラ・ナショナリズムと民族対立の流れを詳しく知るのにおすすめ!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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