MENU

J・モンタギュー『ULTRAS 世界最凶のゴール裏ジャーニー』あらすじと感想~ウクライナ情勢を違った視点から見ることができる衝撃の書!

目次

J・モンタギュー『ULTRAS 世界最凶のゴール裏ジャーニー』概要と感想~ウクライナ情勢を違った視点から見ることができる衝撃の書!

今回ご紹介するのは2021年にカンゼンより発行されたジェームス・モンタギュー著、田邊雅之訳『ULTRAS 世界最凶のゴール裏ジャーニー』です。

この作品は「サッカー本大賞2022」特別賞を受賞した、今話題の一冊です。

早速この本について見ていきましょう。

劇的なドラマ、スター選手、華麗なテクニック、そして戦術。
ゴール裏のスタンドには、これらの一般的な目的とは全く異なる理由で、 サッカーの試合に熱狂する人々が膨大に存在する。
それが今日のサブカルチャーを作り上げた「ウルトラス」だ。
彼らは世界中のスタジアムを発煙筒の煙と怒号で満たしてきたが、我々はこの異質なファンのことを何も知らないに等しい――。

Amazon商品紹介ページより

著者のジェームス・モンタギューは以前当ブログでも紹介した『億万長者サッカークラブ』の著者でもあります。

あわせて読みたい
J・モンタギュー『億万長者サッカークラブ』あらすじと感想~ロシアのオリガルヒ・アブラモビッチ氏とチ... ロシア・ウクライナ戦争をきっかけに知ることになったロシアのオリガルヒ(新興財閥)。 その中でも最近ニュースで取り上げられているのが名門サッカークラブチェルシーのオーナー、アブラモビッチ氏です。 経済制裁によってアブラモビッチ氏の資産が凍結され、それに伴いチェルシーの運営が立ち行かなくなるというニュースには私も衝撃を受けました。 この本はそんなアブラモビッチ氏とは何者なのか、そしてなぜチェルシーのオーナーとなったのかを知ることができる作品です。

この作品はロシアのオリガルヒ・アブラモビッチ氏とチェルシーの関係や、その他様々な国の億万長者がいかにしてサッカービジネスに君臨しているかを知れる素晴らしいノンフィクションです。

今作『ULTRAS』も著者が世界各国で取材し、歴史と絡めながらその実態をレポートしています。

序文 クロアチア

第一部 ロス・プリメル・インチャ(一人目のサポーター)

第一章 ウルグアイ 熱に浮かされた、患者ゼロ号の原風景
第二章 アルゼンチン ボカ、大統領、マラドーナを操る男
第三章 ブラジル スタジアムにサンバが流れ始めた瞬間

第二部 名もなく、顔もなく

第四章 イタリア カルチョに君臨し続ける闇の皇帝
第五章 セルビア スタジアムから戦場に直行した若者たち
第六章 ギリシャ&マケドニア PAOKの英雄が目指す真のゴールとは
第七章 アルバニア&コソヴォ ドローン事件の首謀者と過ごした日々

第三部 モダンサッカーに抗う

第八章 ウクライナ 民主革命を支えた極右勢力のこれから
第九章 ドイツ イデオロギー闘争としてのブンデスリーガ
第十章 スウェーデン サッカー版「ファイトクラブ」へようこそ

第四部 新たな世界

第一一章 トルコ サッカーを弾圧し、そして利用せよ
第一二章 エジプト&北アフリカ 我が友、アマルが遺した歌と希望
第一三章 インドネシア 絶対に転ぶな。転んだら死ぬぞ
第一四章 米国 新大陸で開花した、ウルトラスの未来

終章 エクストラタイム 分かれた明暗とサッカーの新たな敵

Amazon商品紹介ページより

この目次にありますように、世界各国その取材がかなり幅広いものであることがわかります。

そして、私が今作『ULTRAS』を手に取ったのもやはりロシア・ウクライナ情勢がきっかけでした。

上の目次にありますように、2014年のウクライナ民主革命(マイダン革命)とサッカーには密接なつながりがあります。

マイダン革命については、以前紹介したアンドレイ・クルコフの『ウクライナ日記』でその経過を詳しく知ることになりました。

あわせて読みたい
A・クルコフ『ウクライナ日記』あらすじと感想~2014年マイダン革命とクリミア編入、東部紛争の経緯を知... 著者のクルコフはマイダン革命が起きた広場のすぐ近くに住んでおり、この革命の流れを最も近くで見ていたひとりです。そんな作家による混乱の日々の記録が本作品になります。 日記体で書かれているので当時の状況がかなりリアルに感じられます。 この本に書かれているのは現在のロシア・ウクライナ戦争に直接繋がる出来事です。この戦争をより知るためにもこの作品はぜひおすすめしたいです。

私がこの本の中で特に気になったのは「最初は平和的なデモ行動だったものがいつしか武装した過激派が現れてどんどん危険な雰囲気になっていった」という点でした。

この「過激な活動家」とは一体何者で、どこからやって来たのだろうか。

そんな疑問が私の中で残り続けていたのですが、『ULTRAS』を読んで「なるほど!」となりました。

まさかサッカーのサポーターがそこに絡んでくるとは!

よくニュースでも出てくる「アゾフ大隊」の存在もこの本で詳しく知ることできます。こちらもウクライナのウルトラス(過激なサポーター)と密接なつながりがあります。

日本では想像もできませんが、サッカーはそれほど政治的なつながりが強いものなのだということを目の当たりにさせられます。そのような過激なサポーターが生まれてくる背景を知れるこの作品は非常に興味深いものがありました。

訳者の田邊雅之氏はあとがきで次のように述べています。

本書は良質なドキュメンタリーがお好きな方、あるいはサッカーはもとより、スポーツと政治・経済のつながり、さらには文化論に興味がある方にはたまらない一冊だと思う。

だが解き明かされる実情は、日本の状況とあまりにもかけ離れている。

これはどちらが良い悪いという問題ではない。サッカーは社会を映す鏡だとよく言われるが、国情が異なればサッカー界やサポーター文化も当然のように異なってくる。ましてや島国の日本は世界情勢に関して疎いし、我々は外に目を向けようとしてこなかった。

日本に住んでいる限り、わざわざ外国の苛烈な現実を知らなくても事足りる。むしろその方が、穏やかな気持ちで幸せな人生を送ることができる。

それでも本書を訳出したのは、「知らないよりは知っておいた方がいい」からだ。

世界は小さくなり、対岸の火事からも火の粉が直接降りかかるようになった。コロナウイルス禍で明らかになったように、平和で安泰に見える日本も、意思決定プロセスの透明性の低さ、情報の秘匿、官僚主義による非効率、メディアの独立性の乏しさなど多くの問題を抱えている。そこに潜む宿痾は、本書が紹介している諸外国の状況にも通底している。

愚者は自らの経験に学び、賢者は他者の経験に学ぶと言われるが、他者の経験から学ぼうとする姿勢は決して無駄にならない。

カンゼン、ジェームス・モンタギュー、田邊雅之訳『ULTRAS 世界最凶のゴール裏ジャーニー』P531-532

「本書は良質なドキュメンタリーがお好きな方、あるいはサッカーはもとより、スポーツと政治・経済のつながり、さらには文化論に興味がある方にはたまらない一冊だと思う。」

私もまさにそう思います。

過激なサポーター達の姿を通して社会のなぜ、歴史のなぜを問うていくこの作品は非常に刺激的でした。かなり驚くようなこともたくさん書かれています。

私はユーゴ紛争についても強い関心がありましたので、それについて詳しく書かれていたのもとてもありがたかったです。

現在、メディアを通してロシア・ウクライナ情報が洪水のように私たちに押し寄せています。ですがそうした押し寄せてくる情報とは別に、「テレビではこう言っているけど、実際にそれはどういうことなのだろう」と違った視点から調べていくことは非常に重要なことだと思います。

サッカーという、いつもとは違った切り口から世界を見れるこの作品は非常に意義のあるものなのではないでしょうか。

「世界中の過激なサポーターたちと国際政治」という知られざる世界を覗くことができるこの作品!ぜひぜひおすすめしたい1冊です!

以上、「J・モンタギュー『ULTRAS 世界最凶のゴール裏ジャーニー』ウクライナ情勢を違った視点から見ることができる衝撃の書!」でした。

Amazon商品ページはこちら↓

ULTRAS ウルトラス 世界最凶のゴール裏ジャーニー

ULTRAS ウルトラス 世界最凶のゴール裏ジャーニー

次の記事はこちら

あわせて読みたい
森住卓『イラク 湾岸戦争の子どもたち』あらすじと感想~NATOのユーゴ空爆でも用いられた劣化ウラン弾と... 1999年、コソボ紛争の中NATO軍は「セルビアによる虐殺を止めること」を理由に、ベオグラードやセルビア人居住地に対し激しい空爆を行いました。そしてその時に使用されたのが「劣化ウラン弾」でした。この兵器は撃ち込まれたエリアに放射能汚染を引き起こします。そんな危険な兵器をNATO軍が大量に撃ち込んでいた・・・私はそのことにショックを受け、「この兵器が引き起こした実態をもっと知らなければならない」と考えこの本を手に取ったのでありました。 この記事ではそんな劣化ウラン弾の恐ろしさについてお話ししていきます。

前の記事はこちら

あわせて読みたい
木村元彦『オシム 終わりなき闘い』あらすじと感想~紛争後も民族対立が続くボスニアで何が起きているの... オシム監督は2007年66歳の歳に脳梗塞で倒れられ、日本代表監督を退任しました。ですが彼はそこから驚異の回復を遂げ、後遺症を残しながらも精力的に祖国の融和のために活動しています。本書はそんなオシム監督の帰国後の活動を通して、紛争から20年経った今のボスニアについて知ることができる作品となっています

関連記事

あわせて読みたい
J・モンタギュー『億万長者サッカークラブ』あらすじと感想~ロシアのオリガルヒ・アブラモビッチ氏とチ... ロシア・ウクライナ戦争をきっかけに知ることになったロシアのオリガルヒ(新興財閥)。 その中でも最近ニュースで取り上げられているのが名門サッカークラブチェルシーのオーナー、アブラモビッチ氏です。 経済制裁によってアブラモビッチ氏の資産が凍結され、それに伴いチェルシーの運営が立ち行かなくなるというニュースには私も衝撃を受けました。 この本はそんなアブラモビッチ氏とは何者なのか、そしてなぜチェルシーのオーナーとなったのかを知ることができる作品です。
あわせて読みたい
J・クラブツリー『ビリオネア・インド』あらすじと感想~インド版オリガルヒの存在!腐敗、縁故主義のイ... この本で語られるインドの腐敗は凄まじいです。「これからの世界はインドが牽引する」とメディアなど様々な場所で語られていますがそんな単純にことが進むだろうかと疑問になるほどです。インドの発展がどうなるかというのは全くわかりません。一寸先は闇とはまさにこのこと。このカオスな国の行く末がどうなるか全く想像がつきません。
あわせて読みたい
長束恭行『東欧サッカークロニクル』あらすじと感想~ユーゴ紛争の火種ともなった「5.13」事件も知れる... この本はサッカーを通して東欧の国々の歴史や文化を見ていく作品です。 特に一番最初に紹介されるクロアチアではユーゴスラビア紛争のきっかけとなったとも言われる1990年の「5.13」暴動事件について詳しく語られます。 著者は東欧を揺るがしたこの事件について詳しく検証していき、さらにはこの地で荒れ狂っていた民族対立の構図を取材していきます。サッカーを通して見えてくる民族対立の背景は非常に興味深いものがありました。
あわせて読みたい
宇都宮徹壱『ディナモ・フットボール』あらすじと感想~旧共産圏の過去と今をサッカーから知れる衝撃の... ディナモ・ザグレブやディナモ・キエフなどのチームは知ってはいました。ですがまさかそれが内務省や秘密警察から来ていたとは・・・! 内務省といえばロシアいうとあのKGBです。現在はFSBに名前が変わっていますが、KGBはプーチン大統領が在籍していたことでも知られる組織です。ソ連時代の恐るべき組織が「ディナモ」の由来だったと知り本当に驚きました。 これは名著です。思わぬところでものすごい本と出会うことになりました。
あわせて読みたい
木村元彦『誇り ドラガン・ストイコビッチの軌跡』あらすじと感想~ピクシーことストイコビッチ氏とユー... 1990年生まれの私はピクシーことストイコビッチ氏といえば監督のイメージがあったのですが、この本を読んでストイコビッチ氏がいかにすごい選手だったかがよくわかりました。 全世界から悪者と一方的に報道され制裁を受けたセルビア。そのセルビア(ユーゴ)代表として苦難の道を歩むこととなったストイコビッチ氏のサッカー人生は凄まじいものがあります。 私はこれまでボスニア紛争について学んできましたが、セルビア側から見たユーゴ紛争を知れたのは非常に貴重な読書になりました。
あわせて読みたい
木村元彦『悪者見参 ユーゴスラビアサッカー戦記』あらすじと感想~報道によって絶対的な悪者は作られる... 先に言わせて頂きます。この本は凄まじいです。とにかく読んでほしいです。それも今すぐ!できるだけ早く! ロシア・ウクライナ戦争に揺れている今だからこそ大切な一冊です。 この本で語られることはあまりに衝撃的です。引用したいところが山ほどあるのですが分量の制限もありますので今回の記事ではこの本の中でも特に印象に残った箇所を紹介していきます。
あわせて読みたい
木村元彦『オシムの言葉』あらすじと感想~サラエボ出身の名将の半生とユーゴ紛争について知るのにおすすめ これまで「ユーゴサッカー三部作」としてストイコビッチ氏とユーゴ紛争について語られてきましたが、最終作はサラエボ出身のオシム氏とボスニア紛争についてじっくり見ていくことになります。 この三部作を読めばユーゴ紛争についてかなり広い視点を得ることができます。 オシム監督の偉大さにただただ圧倒される一冊です。オシム監督が病に倒れられたことが本当に悔やまれます。 サッカーファンだけでなく、すべての方におすすめしたい作品です
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次