小崎哲哉『現代アートとは何か』あらすじと感想~「アートがわからない!難しい!」という方にこそおすすめの入門書!私もこの本に救われました
小崎哲哉『現代アートとは何か』概要と感想~「アートがわからない!難しい!」という方にこそおすすめの入門書!
今回ご紹介するのは2018年に河出書房新社より発行された小崎哲哉著『現代アートとは何か』です。
早速この本について見ていきましょう。
現代アートを司るのは、いったい誰なのか?世界的企業のトップや王族などのスーパーコレクター、暗躍するギャラリスト、資本主義と微妙な距離を保つキュレーター、存在感を失いつつも反撃を試みる理論家、そして新たな世界秩序に挑むアーティストたち…。日本からはなかなか見えてこない、グローバル社会における現代アートの常識=本当の姿を描きつつ、なぜアートがこのような表現に至ったのか、そしてこれからのアートがどのように変貌してゆくのかを、本書は問う。さらに、これら現代アートの「動機」をチャート化した「現代アート採点法」によって、「難解」と思われがちなアート作品が目からウロコにわかりはじめるだろう。アートジャーナリズムの第一人者による、まったく新しい現代アート入門。
Amazon商品紹介ページより
この本は「アートがわからない!難しい!」という方にこそおすすめな作品です。
かく言う私も現代アートがさっぱりわからないことにコンプレックスを感じていた人間でした。
私は元々現代アートどころか美術そのものにもほとんど縁がなく、名画もさっぱりわかりませんでした。
ですが宗教を学ぶために西洋のキリスト教絵画などを見ていく過程で、ミケランジェロやラファエロなどの有名どころの絵の美しさを知ることになりました。
そして2019年に世界一周の旅で訪れたバチカンやスペインで私はそうした美しい芸術たちと直接触れ合うことになりました。
その中でもサン・ピエトロ大聖堂のミケランジェロ作『ピエタ像』の衝撃は忘れられません。
この記事の中でもお話ししましたが、私はこの像に完全に心を奪われてしまいました。これが美の力なんだということを実感した体験でした。
そしてこの後にも様々な美術館で美しい絵画や彫刻を目にし、芸術っていいものだなぁという思いを募らせながら私は旅を続けたのでありましたが、そんな私にもどうしてもわからないものがあったのです。
それが現代アートでした。
こちらはスペイン、マドリードのソフィア王妃芸術センターという美術館です。ここにはあの『ゲルニカ』も展示されています。
私も『ゲルニカ』を観るためにここを訪れたのですが、悲しいかなあのゲルニカの本物を観ても私にはそのすごさがわからず、立ち尽くすのみだったのです。
この美術館は近代、現代アートがたくさん展示されていたのですが、どれを観てもさっぱりわからない・・・
こんなに有名な美術館に展示されているほどの「すごいアート」が山ほどあるのに、どれもわからない・・・
「これは何だ?」
「何の意味があるのだろう」
「何がすごいの?」
「だめだ・・・さっぱりわからない・・・」
まったくその良さがわからない私はだんだん悲しくなってきて、その美術館からとぼとぼ去っていったのでした。
この時の体験もなかなかに忘れられないものでした。
「現代アートも生で観れば面白いよ」とアート好きの友人から言われたことがあり、さすがにここに来れば楽しめるだろうと思っていたのにまったくダメでした。
あぁ・・・私はやはりセンスがないのだ・・・とがっくり来た一日でした。
そして帰国後しばらくして手に取ったのがこの『現代アートとは何か』でした。
前置きが長くなってしまいましたがこの本はそんな私の悩みを吹き飛ばしてくれる素晴らしい作品でした。
この本ではまず「現代アートとは何か」ということに入る前に、現代アート界を動かしているのはどんな人たちなのかということを教えてくれます。先程紹介した商品紹介にも次のように書かれていました。
現代アートを司るのは、いったい誰なのか?世界的企業のトップや王族などのスーパーコレクター、暗躍するギャラリスト、資本主義と微妙な距離を保つキュレーター、存在感を失いつつも反撃を試みる理論家、そして新たな世界秩序に挑むアーティストたち…。日本からはなかなか見えてこない、グローバル社会における現代アートの常識=本当の姿を描きつつ、なぜアートがこのような表現に至ったのか、そしてこれからのアートがどのように変貌してゆくのかを、本書は問う。さらに、これら現代アートの「動機」をチャート化した「現代アート採点法」によって、「難解」と思われがちなアート作品が目からウロコにわかりはじめるだろう。アートジャーナリズムの第一人者による、まったく新しい現代アート入門。
Amazon商品紹介ページより
この本を読んで私はとにかく驚きっぱなしでした。アート界ってこんな風になっていたのかと度肝を抜かれました。
素人の私にはよくわからない作品に何十億何百億という値がぽんぽん飛び交う世界。
アートがわかるわからないということの前に、そもそも巨額のお金が動くアート業界の実態、グローバル市場の仕組みをこの本で学ぶことができます。あの超有名高級ファッションブランドについての話には特に驚きました。「え?そうだったの!?」ということがどんどん出てきます。
そして後半からいよいよ現代アートとはそもそも何か、どのように観ればいいのかということが語られます。
できるなら全文紹介したいくらいですがここでは不可能ですので、現代アートとは何かということを端的に述べた箇所を引用します。
インパクト、コンセプト、レイヤーが現代アートの3大要素
インパクトは「かつてなかったような視覚・感覚的な衝撃」。コンセプトは「作家が訴えかけたい主張や思想、知的なメッセージ」。そしてレイヤーは「鑑賞者に様々なことを想像、想起、連想させる重層的に作品に組み込まれた感覚的・知的要素」。近代までの「美術」と違い、性的、スカトロ的、暴力的、抽象的、概念的な現代アートは必ずしも美しくない。良いアート作品はこの3要素によって鑑賞者の想像力を刺激する。
河出書房新社、小崎哲哉『現代アートとは何か』P397-398
これには思わず「なるほど!」と声を上げてしまいました。そういうことなのかと!
「現代アートは必ずしも美しくはない」
これを読んでこれまで感じていたモヤモヤが晴れるような気がしました。
そもそも私は見る視点がずれていたんだと。
アートは美しいものだと思い込んでいたからこそ、現代アートがわからない。
現代アートを楽しむには 、上に説かれているように「インパクト・コンセプト・レイヤー」を感じなければならない。
そこにかつての絵画や彫刻のように美しさを求めてしまっては、見えるものも見えなくなってしまう。
これは目から鱗でした。
もちろん、この3つさえわかれば現代アートが全部わかるという話でもありません。この本ではこの3つの観点をベースに現代アートの鑑賞の仕方、楽しみ方を懇切丁寧に教えてくれますので、興味のある方はぜひこの本を読んでみて下さい。現代アートに対する見方ががらっと変わると思います。
私もこの本を読んでから、ある画家さんの作品が大好きになりました。
ひょんなことから出会うことになったのですが、これはもう一目惚れでした。
MAHO KUBOTA GALLERYでの武田鉄平展にすべりこみ。大胆な構図とエッジの効いたカラーリングが好みで気になっていた。なんといっても注目すべきは、油絵の具をパワフルかつダイナミックに塗りたくったような、この凹凸あるテクスチャ。それが実はすべて筆で緻密に描かれているという衝撃! pic.twitter.com/zLmFikDeUy
— Sali (@s58rd) October 13, 2019
次の記事でこの絵の作者武田鉄平さんの画集『PAINTINGS OF PAINTING』をご紹介していきますが、こうして知らなかった世界と繋がれることができたのも『現代アートとは何か』のおかげだったように思えます。
この本ではそんな現代アートの見方だけではなく、現代アート界が抱える問題にも鋭く切り込んでいきます。私たちが素朴に感じている疑問にも答えてくれるのがこの本です。
正直、私はこの本を読むまで現代アートが富裕層の単なるマネーゲームになっているのではないかという疑問を持っていました。本当にそのアートにそこまでの価値があるのか。美術って何なのか。そこに美しさは本当にあるのか?わけがわからぬものがわかるというのがステータスになっているのではないか。そもそも彼らも本当にわかっているのかなどなど、若干やっかみの混じった皮肉な疑問を持っていました。
そのような疑問に対してずばりな回答をしてくれるのがこの本のありがたいところです。
この本は非常におすすめです。私の現代アートへのアレルギーを癒してくれた入門書です。
もちろん、だからといって現代アートすべてを好きになったわけでもありません。いまだにわからないものだらけです。ですが、以前よりもフラットに現代アートに接することができるようになった気がします。
「現代アートはそもそも美しいとは限らない」という大前提を知ったことで、かなり肩の荷が下りたような気がします。
これは非常にありがたいことでした。現代アートが苦手な方にこそおすすめしたい入門書です。
以上、「小崎哲哉『現代アートとは何か』「アートがわからない!難しい!」という方にこそおすすめの入門書!私もこの本に救われました」でした。
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