H・C・ヴォルプス『大作曲家 メンデルスゾーン』あらすじと感想~曲紹介が充実のおすすめ伝記!
曲紹介が充実のおすすめ伝記!H・C・ヴォルプス『大作曲家 メンデルスゾーン』概要と感想
今回ご紹介するのは1999年に音楽之友社より発行されたハンス・クリストフ・ヴォルプス著、尾山真弓訳の『大作曲家 メンデルスゾーン』です。
早速この本について見ていきましょう。訳者あとがきでわかりやすくまとめられていましたのでそちらを引用します。
メンデルスゾーンは裕福な銀行家の長男に生まれ、幅広い豊かな教養を身につけることができた。三十八年の短い生涯とはいえ、幸福な結婚をして平和な家庭生活も送り、確かに、恵まれた音楽家だった。しかし、だからと言って、彼の生涯が苦しみや悲しみとは無縁の、平板なものだったわけでは決してない。彼は、さまぎまな経験を積み重ねながら、人間として、また芸術家としての成長を遂げているが、その様子は、彼が旅先などから家族宛に書いた多くの書簡からも窺うことができる。数多く残されている彼の書簡やスケッチには、彼の魅力的な人柄が反映されており、それらを通して、メンデルスゾーンという天才的作曲家を、より身近な、共感できる人間として捉えることができる。
本書は、ドイツのローヴォルト社から刊行されているロ・ロ・口伝記叢書の一巻であり、このシリーズの基本方針に従って、豊富を図版と文書によるドキュメント、本書の場合はとりわけメンデルスゾーンの書簡によって、作曲家の人生が語られている。メンデルスゾーンの周辺の人々の証言も多く引用されており、彼が生きた時代、彼の人間性が、立体的に浮かび上がってくる。メンデルスゾーンに興味のある一般読者にとって、格好の入門書といえよう。また、これまであまり演奏される機会のなかった作品についての解説も含まれており、今後さらにメンデルスゾーンの音楽の理解を深めていくうえで、貴重な指針を与えてくれる一冊にもなるだろう。
メンデルスゾーンの音楽は、彼自身のように、優美で、上品で、穏やかであるが、また、彼自身のように、それだけでは言い尽くせない奥深い魅力を湛えている。二十世紀も終わりに近づいている現在、彼の作品は、明らかに再評価の方向に向かっている。本書が、日本語で気軽に読めるメンデルスゾーンの伝記として、彼の音楽を愛好する人々の一助となれば、この上ない幸せである。
音楽之友社、ハンス・クリストフ・ヴォルプス著、尾山真弓訳『大作曲家 メンデルスゾーン』 P189-190
このあとがきにありますように、この伝記はメンデルスゾーンの入門書として非常に優れています。
メンデルスゾーンの生涯が130ページほどでコンパクトにまとめられており、しかも読みやすく、面白い。
読みやすさと内容の濃さのバランスが素晴らしいです。
絵も豊富でビジュアル的にも親しみやすい伝記となっています。
また、この伝記の特徴として、伝記部分を終えた後に60ページほどを使ってメンデルスゾーンの曲の紹介をしている点が挙げられます。
実際に彼の曲を聴いていく上でこれは非常にありがたいです。メンデルスゾーンの有名な曲はもちろん、まだあまり知られていない名曲たちも紹介されています。
この本はメンデルスゾーンの曲を聴く際の貴重なガイドとなります。
また、巻末の著名人によるメンデルスゾーン評も興味深いです。
あのニーチェがメンデルスゾーンを絶賛しているのには驚きました。
せっかくですのでここで引用します。
フリードリヒ・ニーチェ
そのうえ、ロマン派のすべての音楽は、劇場や大勢の聴衆の前以外の場所でも権利を保持できるほど十分に高級ではなかったし、十分に音楽と呼べるようなものではなかった。それは元来、真の音楽家の間ではほとんど考慮されないような二流の音楽だった。しかし、フェーリクス・メンデルスゾーンの場合は違った。彼は、その軽やかで、純粋で、恵まれた心のおかげで、すぐに崇拝されるようになり、そしてまた、同じようにすぐに忘れ去られた大家である。それは、ドイツ音楽の美しい突発事象だった。 (『善悪の彼岸』より 一八八六年)
音楽之友社、ハンス・クリストフ・ヴォルプス著、尾山真弓訳『大作曲家 メンデルスゾーン』 P 186
ニーチェの『善悪の彼岸』は読んだことがあったにもかかわらず、恥ずかしながら私はこの文章を素通りしていたようです。
メンデルスゾーンを知ったのは最近でしたので、やはり知らなかったり関心がないものはなかなか目につかず、記憶にも残らないということを改めて痛感したのでした。
さて、話は戻りますがこの伝記はメンデルスゾーンの入門書としてとても優れた1冊です。
ひのまどかさんの『メンデルスゾーン―美しくも厳しき人生』と共にぜひおすすめしたいメンデルスゾーン伝記です。
以上、「曲紹介が充実のおすすめ伝記!H・C・ヴォルプス『大作曲家 メンデルスゾーン』」でした。
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