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いよいよこの旅も終わりを迎える…キューバ最後の夜と日本帰国 僧侶上田隆弘の世界一周記―キューバ編⑯
ビニャーレス渓谷のローカルツアーを終え、ぼくは再び3時間をかけハバナへと帰っていく。
ハバナに着いた頃にはすっかり外は暗くなり、ハバナの街は夜の世界へと姿を変えていた。
キューバらしい建物の並ぶ街並みを進む。ビニャーレスの農村から帰ってくると改めてその違いに気付く。
ハバナは大都市だ。繁華街はクラブやバーで賑わい、眠らない街の様相を呈している。
農村では夜はきっと深い暗闇に支配されていることだろう。電気が煌々と街を照らし、夜通し遊ぶことができるのは都会だからだ。
あんな山の中では電気も水道もまともに通っているかは怪しい。
いや、水道も通っていないから包丁を洗うのにタンクの水を使っていたのではないか?
電気があるかないかはよくよく考えてみれば恐ろしいほどの違いだ。
想像してほしい。ここに生きるということは、暗闇との生活になることなのだ。
夜になればこの写真に写る風景もすべて真っ黒な暗闇に塗りつぶされる。
電気の存在がいかに人間の生活を変えたのか、それを思わずにはいられなかった。
カサに戻り、ベランダからぼんやりとハバナの路地を眺める。
このカサはハバナ旧市街のメイン通りオビスポ通りのすぐそばなので夜になっても人通りが多い。
現地の人々が楽しそうにおしゃべりしながらぼくの眼下を横切っていく。
街行く人々の姿も、聞こえてくる言葉も、すべてが日本とは異なる。ここは別世界だ。
最初の国タンザニアでは大自然のあまりの迫力に圧倒された。
あのときは帰国なんてまだまだ先のことだと思っていた。
でも、それがもう・・・明日なのだ。
80日にも及ぶぼくの旅はいよいよ終わりを迎える。
翌朝、ハバナ空港へ。
身体にまとわりつくようなキューバの熱気も今となっては名残惜しい。
飛行機に乗ると、いよいよ終わりであることを実感させられる。
よくぞここまでなんとか無事にやって来れたものだ。小さな安堵のため息と共にこれまで感じてきた緊張感も吐き出す。
さよならキューバ。
ぼくはこれから日本に帰るのだ・・・日常に帰るのだ。
キューバからはエルサルバドル、メキシコを経由して成田へ。
メキシコシティから成田へは14時間のフライト。
日本時間6月14日早朝、日本上空に差し掛かる。
なんと、はるか彼方に富士山が!
これは嬉しい気持ちになる。
帰って来たなと心から実感。やはり富士山は日本人の心の故郷だ。
間もなく着陸。
ぼくは旅が終わるときどんな気持ちになるのだろうかと、この旅が始まる前からずっと考えていた。
ぼくは泣くだろうなと思っていた。
でも、違った。
不思議と涙は出てこなかった。
あるのはこれからやるべきことが山ほどあるぞという気持ち。
旅は終わったけど、むしろここからが始まりなのだという気持ち。
自分がまったく感傷的な気分になっていないことに自分で驚いた。
成田から実家までも地味に時間がかかる。
成田から函館の直行便がないため羽田まで移動。
その移動中、目に映る景色が日本であることに感動した。
日本は思っていたよりもずっと日本だ。ここにしかない景色だ。
たった80日しか離れていないのにこんなに違って見えるものなのか。
6月14日午後。
北海道函館、実家の錦識寺に到着。
1年半以上も前から計画し、80日に及んだぼくの旅もついに終わりを迎えたのであった。
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