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バロック建築とプラハの聖ミクラーシュ教会~彫像から見えてくるメッセージを考える チェコ編⑫

プラハ
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バロック建築とプラハの聖ミクラーシュ教会~彫像から見えてくるメッセージを考える 僧侶上田隆弘の世界一周記―チェコ編⑫

さて、今回は前回の記事「ロマネスク、ゴシック、バロック~教会建築とそれに秘められたメッセージとは チェコ編⑪」で考えた教会建築の違いをふまえて、聖ミクラーシュ教会で実際にぼくがどのように教会からのメッセージを受け取ったのかをお話ししていきたい。

もちろん、これからお話しすることは全てぼくの主観だ。

残念ながら彫像の一体一体についてぼくは正確な知識を持ち合わせていない。

もしかしたら間違ったことをお話しするかもしれない。

しかしここで重要なことは、バロック建築とは何かということを前提とした上で、どのように教会を見てそこに物語を見出すのかというところにある。

ぼくが教会を鑑賞するときに気を付けているポイントは大きく2つ。

どの像が中心に置かれて、どのように配置されているのか。

そしてもう一つが、それぞれの像が何を持っていて、何をしようとしているのかを観察することだ。

この2点を抑えるだけで漠然と見るよりもずっと情報量が増えてくる。

さて、早速教会の中を見ていこう。

ぼくがまず気になったのは、正面の主祭壇。

下の方にあるイエスの十字架が明らかに小さい。

そしてその上の聖人が明らかに大きく、目を引く作りになっている。

イエスそのものよりも上に置かれ、さらに大きな黄金の像として描かれるのは一体何を意味するのだろうか。

もしかしたら、イエスの力を受けたこの聖人こそ私達がお祈りすべき対象なのだということなのかもしれない。

いずれにせよ、イエスと聖人の大きさと配置は重要な意味を持つものだと思われる。

さて、主祭壇から少し視野を広げていこう。

やはり目を引くのは左右に2体ずつ配置された大きな4体の像。

左下に映った女性と比べてみればその大きさも想像できると思う。

そしてぼくは,まず左側の像の姿に注目してみた。

左側はおそらく教会の偉い司祭。

服装や被り物からも高い位の人物であることが想像できる。

杖で人間のあごを押さえつけている。

押さえつけられた人間はかっと目を見開き、身動きが取れないでいるようにも見える。

この杖には聖なる力が宿っているのだろうか。

だとすると、杖で押さえつけられた人間はなんらかの罪人なのだろうか。

それとも悪魔か・・・

武力ではなく聖なる力で悪を打ち倒す。

教会の聖職者はこのような悪を打ち倒す力があることを示しているのかもしれない。

そして隣の像。

明らかに先ほどの像とは姿かたちが違う。

髪型を見てみると、教会の司祭というよりはまるで貴族のようだ。

手にしている物も明らかに杖ではない。これは武器のようにも見える。

よく見ると、右手の人差し指で光輝く武器の先端を指している。

まるで、「これが神の力だ」と言っているかのようだ。

そして体全体から力強さを感じる。

明らかに先ほどの偉い司祭とは戦い方が違う。

こちらの像はおそらくキリスト教を守る戦士のような存在なのかもしれない。

聖なる力により敵を押さえつける司祭、それに対して自らの強さと神の加護によって敵を打ち倒す戦士。

まるで魔法と腕力の対比を見ているかのようでとても面白い。

では続いて、右側の2体にも目を向けてみよう。

左側の像とは違って、こちらは二人とも武器を手にしていない。

さて、この二人は一体何をしているのだろうか。

こちらも手前側の像から。

おそらくこの像も聖職者であろう。そこまで年は取ってないように見えるが被り物や服装からして高い位にいてもおかしくない。

顔つきが凛々しい。いかにも頭が良さそうだ。

右手には聖書だろうか、何やら大きな書物を持っている。

そして左手を掲げ天を指し、視線は足元にいる天使に向けられている。

まるで、幼子に「さあ、こちらにおいでなさい」と優しく導いているかのような姿だ。

続いて、隣の像は一体どのような姿をしているのか見てみよう。

面白いことにこちらの像も被り物を被っていない。

しかし先ほどの貴族のような髪型と違って、こちらは教会の聖職者と言われてもまったくわからない姿をしている。

高く掲げた右腕にイエスの十字架がしっかりと握られている。

左手はそのイエスの姿を指し示しているかのように見える。

この像は一体何を言わんとしているのだろうか。

おそらくその鍵は、彼の脇にいる青年にあると思われる。

おそらく、彼が持っているのは聖書。

その彼が、聖人の言葉によってはっと目を見開かれているような場面に見える。

青年の胸に当てられた右手がその驚きを表しているかのようだ。

ここでバロック建築の基本に立ち返ると、バロックは反プロテスタント。

ここでもしや、とぼくは想像する。

この青年は聖書のみが大切だというプロテスタントの教えに流れされてしまいそうになっていた。

そこでこの聖人が優しく彼の誤りを指摘し、イエス様に帰りなさいと教え諭しているのではないか・・・

ぼくはこの像をじっくり眺めていて驚いたことがある。

近くで見てみると、ほんの少し口角が上がっているように見えたのだ。

きっと見る角度によって表情が少し違って見えるのかもしれない。

そしてまなざしの優しさも感じる。

優しく教え諭し、正しい道に導く教師。

そのような印象をぼくはこの像から感じたのであった。

さて、ここまで一体一体をじっくり見てきたが、改めて全体を眺めてみよう。

中央には小さなイエス、そしてその周りに巨大な聖人像が居並ぶ姿。

イエスという中心から放射状にその力が広がり、それぞれの聖人に力が注がれてるかのように感じる。

そして左側の2体からは教会の、悪を討つ聖なる力を、

また、右側の2体は迷える人々を正しい道に導こうとする教師としての力をこれらの彫像達が示しているのではないだろうか。

というのがぼくがこの教会でじっくりと眺めていた時に頭の中で思い浮かび、考えたことだった。

人によっては聖人像よりも、周りの豪華な装飾に目が行くかもしれないし、天井に描かれた絵に惹き付けられる人もいるかもしれない。

人によって取っ掛かりはそれぞれだ。

だが、それがなぜそのように作られたのかを意識することで見え方ががらっと変わってくる。

それによってそれまで見えてこなかったものが姿を現してくるかもしれない。

まるで謎解きをするかのように教会を楽しむことができる。

ぼくがこの教会を好きになったのも、その謎解きの延長線でお気に入りの像ができたからだ。

教会の雰囲気も素晴らしい。

カトリック文化の水準の高さには驚くばかりだ。

ぜひ日本でもお寺参りの際は謎解きをする気分でいろいろと観察してみてはいかがだろうか。

続く

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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