エーリク・チュルヒャー『仏教の中国伝来』概要と感想~初期中国仏教を詳しく学ぶのにおすすめの参考書
エーリク・チュルヒャー『仏教の中国伝来』概要と感想~初期中国仏教を詳しく学ぶのにおすすめの参考書
今回ご紹介するのは1995年にせりか書房より発行されたエーリク・チュルヒャー著、田中純男、成瀬良徳、渡会顕、田中文雄訳の『仏教の中国伝来』です。
早速この本について見ていきましょう。
仏教が中国に流布していく過程を、その時代の政治的動向と思想潮流の変遷に緊密に擦りあわせて、資料の公式的記述に隠された歴史的コンテキストを読み解き、さらに政治的状況の劣悪化や反仏教陣営の攻撃から仏教を護り、中国に根づかせようと努めた仏教者たち、道安のように学問的探求に生涯を棒げた人、単に学匠であるだけでなく中国人の知らなかった信仰世界を発見した廬山の慧遠といった人々に注がれる崇敬の念を込めた、著者の熱い願差が写し出す、初期中世中国に繰り広げられる驚嘆のドラマ。
紀伊國屋書店商品紹介ページより
本書『仏教の中国伝来』は初期中国仏教を学ぶのにおすすめの参考書です。中国への公式な仏教伝来は1世紀後半頃という伝承もあれば、2世紀の西域訳経僧の安世高や支婁迦讖らの中国入国をもって本格的な始まりとする説もありますが、そこから仏教が中国に根付くまでは様々な紆余曲折がありました。伝来してすぐに流行したわけではなかったのです。
本書ではそんな中国仏教の最初期について詳しく語られることになります。『仏教の中国伝来』の原著は1959年に発行されたものです。なんと、今から65年も前のことです。しかしその輝きは今なお衰えることはありません。巻末の訳者あとがきでは次のように述べられています。
本書が世に出て以降も、中国仏教に関する研究書は欧米でも数多く出版されているが、初期中国仏教に関してこれほど精繊で周到な文献学的著作は他に類を見ないように思われる。少なくともヨーロッパでは今でも、中国仏教を学ぶ者の基本的な必読の書である。
せりか書房、エーリク・チュルヒャー著、田中純男、成瀬良徳、渡会顕、田中文雄訳『仏教の中国伝来』P479
そうです。たしかにこの本は驚くほど詳しく初期中国仏教について見ていくことになります。外国人の著者がこれほど膨大な漢字文献をよくここまで調べられたなと私も驚きました。
そして本書の特徴について次のように述べられます。
われわれにとって中国仏教とは身近に感ぜられるもので、特に異質な宗教であるとの認識はないであろう。しかし欧米人にとっては中国が異質であり、仏教が異質なのではなかろうか。中国仏教を親しいと感ずる者の視点と、逆に異質なものと見る者の視点はおのずから異なるのではないか。この視点の差異が本書の第一の特徴で、それはテキスト解釈の姿勢にも現れ、中国仏教にわれわれの看過しがちな冷厳たる事実を読みとろうとする。
せりか書房、エーリク・チュルヒャー著、田中純男、成瀬良徳、渡会顕、田中文雄訳『仏教の中国伝来』P480
これは大きなポイントです。異文化の研究者だからこそ見えてくる視点というものが必ずあります。しかも著者はオランダ人であり、欧米の読者に対してこの本を執筆しています。これはもう日本人による日本人のための仏教参考書とは違うのは当然ですよね。
ですがだからこそ私たち日本の読者にとって新鮮な発見もあるというものです。
異邦人だからこその一歩引いた目線で仏教を見ることができるのも本書の魅力です。
ただ、本書は入門書としてはかなり厳しいこともお伝えしなければなりません。
実は私はこの本に一度挫折しています。
中国仏教を学び始めの頃にこの本を手に取ったのですがとてもじゃありませんが太刀打ちできませんでした。人物名や地名などの固有名詞が多く、しかも私自身当時は中国の時代や都市の位置もわかっていなかったのでこの本があまりに難しく感じたのです。
ですがそこから時を経て、中国史の本を改めて読み直し、時代背景や位置関係なども把握した上で再チャレンジするとこれが面白いのなんの!やはり時代背景や地理を学ぶことは大事ですね。一見遠回りなように思えますが、やはり歴史を学ぶということが結局一番の近道であることを実感しました。
塚本善隆『世界の歴史4 唐とインド』や川勝義雄『魏晋南北朝』、平田陽一郎『隋ー「流星王朝」の光芒』など中国の歴史を学んだ上でこの本を読むとものすごくわかりやすくなると思います。
ぜひこれらの本とセットで読まれることをおすすめします。
以上、「エーリク・チュルヒャー『仏教の中国伝来』概要と感想~初期中国仏教を詳しく学ぶのにおすすめの参考書」でした。
Amazon商品ページはこちら↓
次の記事はこちら
前の記事はこちら
関連記事
コメント