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平田陽一郎『隋ー「流星王朝」の光芒』あらすじと感想~隋の成立と興亡を広い視野で見ていけるおすすめ参考書

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平田陽一郎『隋ー「流星王朝」の光芒』概要と感想~隋の成立と興亡を広い視野で見ていけるおすすめ参考書

今回ご紹介するのは2023年に中央公論社より発行された平田陽一郎著『隋ー「流星王朝」の光芒』です。

早速この本について見ていきましょう。

581年に誕生した隋王朝。589年には文帝楊堅が南朝の陳を滅ぼして、長き分裂の時代に終止符を打った。草原世界、中華世界、江南世界を束ねた初の「帝国」である。二代目の煬帝は運河を築き親征を行い、帝国を拡大したが、高句麗遠征に失敗して動乱を招き、618年には唐によって滅ぼされる。南朝、高句麗、突厥といったライバルが割拠したユーラシア大陸東部の変動を視野に、流星のように輝き消えた王朝の実像に迫る。

Amazon商品紹介ページより
煬帝(在位604-618)Wikipediaより

当ブログでは以前宮崎市定著『隋の煬帝』という本を紹介しましたが、今回ご紹介する平田陽一郎著『隋ー「流星王朝」の光芒』は2023年発行ということで最新の知見も反映されたおすすめの隋の参考書になります。

『隋の煬帝』はその書名通り煬帝にスポットが当てられていましたが、本書では隋の成立から滅亡まで幅広く学ぶことができます。

そして本書の特徴は隋を「漢民族、漢字文化」の歴史観で見るのではなく、そこに多くの異民族の存在が関わっていることを重要視している点にあります。

隋の創始者文帝はその名を楊堅といいます。

文帝(541-604)Wikipediaより

しかしこの楊堅には別名もあり、それが普六茹那羅延(ふりくじょならえん)という名になります。那羅延は日本では金剛力士を意味する言葉です。また「普六茹堅」とも彼はかつて呼ばれていました。このいくつもある文帝の名が何を意味するのか、著者は本書冒頭で次のように述べています。

読者のみなさんは、同一人物を示す「普六茄那羅延」「普六茄堅」、そして「楊堅」という三つの固有名詞から受ける印象の違いに、果たしてお気づきであろうか。

一般に、北朝やその系譜を継ぐ隋について考える際には、漢文で書かれた史料を利用するケースがほとんどである。「普六茄」の原語は、モンゴル系ないしトルコ系に属する鮮卑語であろうと推測はできるが、実態を知る術はほとんど残されていない。「那羅延」と音訳されていれば、サンスクリットの原語にたどり着くこともできようが、漢字で「堅」と意訳されてしまったら、ほぼお手上げである。

非漢語資料にあまり恵まれていないこの時代について、歴史の実像に迫ろうとするならば、こうした事情をしっかり踏まえておく必要がありそうだ。すなわち、鮮卑をはじめとする非漢族の活動も、漢文で記録された瞬間、漢族や「中国」の出来事にすり替わってしまいかねない怖さがあり、意識的・無意識的とを問わず、強力な印象操作が常に行われているということを、忘れてはならないのである。

では、それを知った上でどうするのか。毒を食らわば皿まで、である。漢文史料の深みにとっぷりと沈み込み、張りめぐらされたワナには尽く引っかかって、身を挺してトラップを暴いていく覚悟が必要だ。その一方で、わずかに残された真の手がかりを拾い集める。そうした危険で地道な作業を繰り返していってはじめて、漢文史料の分厚いカーテンの向こう側に、隋の本当の姿をとらえることができるのではなかろうか。

中央公論社、平田陽一郎『隋ー「流星王朝」の光芒』Pⅳーⅴ

「すなわち、鮮卑をはじめとする非漢族の活動も、漢文で記録された瞬間、漢族や「中国」の出来事にすり替わってしまいかねない怖さがあり、意識的・無意識的とを問わず、強力な印象操作が常に行われているということを、忘れてはならないのである。」

これは非常に重要な指摘です。私達は中国というとつい漢字で全て考えてしまいがちですが、その漢字を使った瞬間に「漢民族」あるいは「中国」の文脈に入り込んでしまうという問題があります。なるほど、これは盲点でした。

たしかに文帝の名前を楊堅として考えるのと、「フリクジョナラエン」とでは全く雰囲気が違いますよね。

本書ではこのように隋を単に中国的なものと捉えるのではなく、様々な民族が入り乱れるユーラシアという文脈で見ていくことになります。

前回の記事で紹介した『魏晋南北朝』ではまさにこの様々な民族についても知ることができましたが、その知識を得てこの本を読むとさらに興味深く読むことができました。

また、本書後半では暴君として悪名高い煬帝の様々な政策が本当に愚策だったのかを検証していきます。大運河の建設や派手な船団行幸、高句麗遠征などは民を苦しめた悪政だったとされがちですが、本書を読むとまた違った面が見えてきます。思わず「なるほど!」と唸ってしまうような見解を知ることになります。これは面白いです。

隋の全体像を知る上でも本書はおすすめの参考書です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「平田陽一郎『隋ー「流星王朝」の光芒』~隋の成立と興亡を広い視野で見ていけるおすすめ参考書」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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