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ジャック・バーザン『ダーウィン,マルクス,ヴァーグナー 知的遺産の批判』あらすじと感想~なぜ彼らは世界を席巻したのか!その秘密に迫る名著!

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ジャック・バーザン『ダーウィン,マルクス,ヴァーグナー 知的遺産の批判』概要と感想~なぜ彼らは世界を席巻したのか!その秘密に迫る名著!

今回ご紹介するのは1941年にジャック・バーザンより発表された『ダーウィン,マルクス,ヴァーグナー 知的遺産の批判』です。

まず、先に言わせて頂きますが、この本は「ダーヴィンとマルクスがなぜこんなにも世界を席巻したのか」という、私が最も知りたかったことを解説してくれる刺激的な作品でした!これは面白いです!

この作品は以前マルクスの『資本論』を読んだ際にも参考にしました。

『資本論』はあまりに難解で膨大な作品ですが、「その理解不能さが逆に世の中から聖書のように扱われる大きな理由となった」という著者の説は非常に興味深いものがありました。

訳者はこの本について次のように述べ、讃嘆しています。少し長くなりますがこの本の特徴について端的に語っている箇所ですのでじっくり見ていきます。

それにしても、なんという奇抜な発想であろうか!なんと正確な歴史の遠近法であることか!『種の起源』、『政治経済学批判』、『トリスタンとイゾルデ』が一八五九年、まるで「神の摂理でもある訳かのように」(本書五ぺージ)同時に世に出た事実に着目するとは。

そして、この年をして知的文化遺産批判の戦略の起点、ないし基点とするとは。

ダーウィン、マルクス、ヴァーグナーが十九世紀後半の時代精神、機械論的唯物主義的進化思想の三位一体的現われであると洞察するとは。

ダーウィンとマルクスの思想の類似ならだれもがいうことだろうが、一体、だれがヴァーグナーの楽劇の神秘主義を唯物的進化論のゆきついた一つの究極的な形と見てとることができただろうか。

これら生物学・社会学・芸術上の三つの〝革命〟がどこから、どのようにして起こったか、その歴史的脈絡の解析、そしてこれら三様一体の〝進化〟論がいかに二十世紀現代を今なお呪縛しつづけているか、その思想状況の分析はをきわめて、バーザンならではの鮮烈な冴えを見せている。

『ダーウィン、マルクス、ヴァーグナー』が世に出たのは第二次世界大戦のさなかであった。それから半世紀たったこの世紀末においても、この本で語られたことはいささかも古びてはいない。

バーデンがいったように、わたしたちは意識しようとしまいと、依然、進化論者なのだ。かの〝三人一組トリニティ〟の進化論が生み、そして強いた「〝進歩〟と〝宿命論〟〔決定論〕というヨーロッパの二つの偶像」(一五ぺージ)に、わたしたちはときにあらわに、、、、、ときにひそかに、、、、、今なお跪拝している。

科学万能主義サイエンティズムは衰えるどころか、ますますその力を強めているようすだ。ダーウィニズムはよりいっそう強力な科学的決定論と化して甦っている。

なるほどソヴィエト連邦は滅んだが、マルキシズムの歴史的必然論が滅びることはあるまい。ヴァーグナー崇拝は第二次大戦終結とともに終息しはしなかった。それは現代もなお多くの人びとの心をとらえる美的宗教たりつづけている。

実証的科学という一種の〝呪物崇拝フェティシズム〟は、あいかわらず今日の人びとの心を奴隷状態につないだままである。現に、人びとはコンピューターという、一切を文字通りに機械的唯物的に計算し尽さずに措かぬ簡便かつ残酷な魔法テクノロジーの専制支配に、唯々諾々と身を委ねている。

そしてこのような科学信仰、いいかえれば「物質と理性の神秘主義」(四七五ぺージ)がそのまま「激情と無謀の神秘主義」へと転化するのは、なにも実証哲学者オーギュスト・コントの晩年のみがゆきついた悲喜劇ではない。

あるいは進化論者、、、、ヴァーグナーのみかたどった、「啓蒙は神話に回帰する」といったホルクハイマーとアドルノのいう「啓蒙の弁証法」のイロニーでもない。

あるいはまた、ヒトラー一人の綿密・科学的な狂気の専売特許でもない。

それは今日現在の世界いたるところにうごめいている不気味な現象ではないか。

人びとは〝癒やし〟を求めて、あてどなく彷徨している。〝ヒトラー〟はいつどこでも復活しうる。「熱狂と行動への必要に目標が与えられれば、どこでも起こりうる」とは、バーザンの言葉である(二三ぺージ)。このままでは「わたしたちは間違いなく破滅する」、これは本書結末近くに見られるバーザンの警告である(四七六ぺージ)。

要するに、彼は半世紀前つとに今日の状況を見とおしていたのである。
※一部改行しました

法政大学出版局、ジャック・バーザン、野島秀勝訳『ダーウィン,マルクス,ヴァーグナー 知的遺産の批判』P490-491

ダーヴィン、マルクス、ヴァーグナーが世界にここまで大きな影響を与えたのはなぜなのか。

そしてそこからそれは過去の歴史の特別な現象だったのではなく、現代を生きる私たちにもそのメカニズムは生き続けていると著者は説きます。

彼らがなぜ世の中にここまで神聖なものとして扱われるようになったのか、それを時代背景や彼らの作品を通して分析してみると驚くべき事実が浮き上がってきます。

まさに彼らは「時代が望んでいた存在」であったのであり、まさしく「宗教的なプロセス」を経て世に現れてきたのでした。

私にとっては特にマルクスにおけるそのような現象が非常に興味深く思われました。ダーウィンとヴァーグナーと比較しながら考察していくことで『資本論』がなぜ聖書のごとく扱われるようになったのかがとてもわかりやすく解説されていきます。

まさに目から鱗の衝撃的な話がこの本では語られます。

時代背景と作品分析を通して彼らの影響力の秘密を探っていくこの作品は非常におすすめです。この本を読んでから『種の起源』や『資本論』を読むと驚くような発見がどんどん出てきます。

この本で語られる驚くべき事実をここで紹介したいのはやまやまなのですが、かなり長くなってしまうので、詳細はぜひこの本を読んで確かめてみて下さい。

非常におすすめな作品です。

以上、「ジャック・バーザン『ダーウィン,マルクス,ヴァーグナー 知的遺産の批判』~なぜ彼らは世界を席巻したのか!その秘密に迫る名著!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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