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A.ビルショフスキ『ゲーテ その生涯と作品』あらすじと感想~おすすめ伝記!ゲーテの圧倒的巨大さを知れる奇跡の一冊!

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A.ビルショフスキ『ゲーテ その生涯と作品』概要と感想~おすすめ伝記!ゲーテの圧倒的巨大さを知れる奇跡の一冊!

ゲーテ(1749-1832)Wikipediaより

今回ご紹介するのは1996年に岩波書店より発行されたアルベルト・ビルショフスキ著、高橋義孝、佐藤正樹訳の『ゲーテ その生涯と作品』です。

早速この本について見ていきましょう。

ゲーテの評伝としてまず第一に指を屈すべきもの.と同時に,20世紀へと手渡された本書は,多くの読者が豊富で混沌としたゲーテ世界に心を躍らせつつ,自らの懐に永遠の全一なる人間像を育んだ破格のベストセラー.巨大なゲーテを追体験し,人間の失われた全体性を今新たに問い,その模索へと誘う骨太の一巻!(原著は1896-1904刊)


Amazon商品紹介ページより

まずはじめに言わせてください。この本は文字通りスケールが違います・・・!

まずこのサイズ感!文庫本と比べたら一目瞭然です!

この分厚さ!なんと、圧巻の1200ページ超えです!「辞書か!」ってくらい重いです。鈍器本と言われる部類ですね。

ですがこの本は見た目だけにあらず。その内容も驚くほど濃厚です。この伝記はものすごいです。私はこの本に度肝を抜かれっぱなしでした。これほどの本はそうそう出会えるものではありません。

この本について訳者後記で次のように解説されています。

ビルジョフスキの『ゲーテ』は、ゲーテの生活上の事実の客観的、具体的な叙述において詳細をきわめ、個々の作品の成立史、歴史的評価にすぐれたゲーテ伝の傑作の一つということができる。作品の成立史と解釈は、主として詩人の伝記的な個々の事実、文学的、個人的な影響関係とのかかわりにおいて把握されているが、これはシェーラー学派の一般的な特徴でもある。むろん今日のゲーテ学の水準からみれば、本書が多くの欠点をもっていることは紛れもない事実である。独創的人間の魂の深淵、いわゆるデモーニッシュなものに対する洞察にやや乏しく、詩人の創作行為にともなう苦痛というものに関して十分な考察がなされていないこと、詩人の身近な人々や書物からの影響に比べ彼をとりまく時代の社会、政治、経済、法生活、風俗、精神などの影響に十分な評価が行われていないことなど、リンデンの卓抜な改訂にもかかわらず、ここにはビルショフスキにかぎらずシェーラー学派全体についても当てはまる欠点があることは否めない。

しかし右に述べた長所のかずかずが、学術書というよりも、その平易な語り口によってすぐれて家庭的な書となっているその性格と相まって、本書をゲーテ伝の傑作たらしめているという事実にかわりはないのである。ゲーテの伝記的事実に関する知識をふんだんに提供してくれる詳細かつ平明な叙述そのものに、すでにわたしたちは本書の得がたい価値を見出すものであるが、そうした伝記的事実のなかから、あのかずかずの傑作が生れていく過程をわたしたちはかたずをのんで見守るのである。(中略)

ゲーテが、本書にいうように、ドイツ人にとっていわば帰り行くべき「師表」であり、リンデンが力説するように「世界と精神の統一を成し遂げた」偉人、「引き裂かれた傷をいやしてくれる偉大な文化的統合」であるとすれば、それはある意味でうらやましいことである。そのようなゲーテ崇敬の精神と熱意、ゲーテという文化財を所有していることに対する誇りは、本書のたぐいまれな優れた美点であるということができるし、ドイツが宿願を果して一つの国となった歴史的瞬間を目の辺りにして、本書に繰返し力説されている、人間の精神的陶冶に対する信頼を喚起する師ゲーテ、理念と現象、精神と世界の統合者ゲーテの精神が、今なおドイツ人の胸に生きていることを信じないわけにはいかない。本書において追求されているのは、そのような高い希望の星としてのゲーテである。そして、仰ぎ見るべきゲーテという存在の本質に一歩一歩肉薄していこうとする著者の敬虔な態度、畏敬の念、熱意、忍耐に、読者は心を打たれる。訳者が十代のころ、はじめてゲーテの作品に触れて深い感動を覚え、ゲーテに触れることは高い喜びであり、ゲーテを人生の師としたいと、誇りをもって自分に言い聞かせたあのときの熱い思いは、たしかに本書をつらぬく精神の一部であったと思う。


岩波書店、アルベルト・ビルショフスキ著、高橋義孝、佐藤正樹訳『ゲーテ その生涯と作品』P1229-1231

この伝記ではゲーテの少年時代から晩年までのあまりにスケールの大きい生涯を知ることができます。

そして著者の語り口が絶妙で、ものすごくドラマチックな小説を読んでいるかのような気分になります。いや、もはや並の小説をはるかに超えるレベルの面白さと言ってもいいでしょう。著者の溢れるゲーテ愛がこの伝記を単なる事実の羅列ではなく、生き生きとしたゲーテ像を可能にしています。

この本を読んで驚くのはやはりゲーテの巨人ぶりです。ゲーテは子供の頃から並の人間ではありませんでした。学生時代のエピソードも読んでいて驚くものばかりです。スケールの違う天才というのはこういう人間のことを言うのかととにかく圧倒されます。

そしてゲーテと言えば有名な『イタリア旅行』のくだりです。

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彼にとってこの旅がいかに大きなものであったかをこの伝記ではドラマチックに見ていくことができます。とにかく面白い!

また、この伝記は彼の作品の解説も詳しくなされるのも嬉しいところです。その作品がどのような背景で書かれたのか、何を意図して書かれたのか、そしてそれはどのように世の中に受け入れられていったのかということも知ることができます。

この本はとにかく圧倒的でした。読むのにものすごく時間がかかりはしたものの、満足感は半端ないです。

こんな盛りだくさんな本はなかなかありません。

これを読めば確実にゲーテを好きになり、その影響を受けることになります。日々生活しててもゲーテ的な思考がふと頭をよぎるようになってしまいます。私は特に影響されやすい人間なのでこの症状はかなり長く続きそうです。

次の記事ではゲーテの代表作『イタリア紀行』を紹介していきます。

以上、「A.ビルショフスキ『ゲーテ その生涯と作品』~おすすめ伝記!ゲーテの圧倒的巨大さを知れる奇跡の一冊!」でした。

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ゲーテ: その生涯と作品

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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