MENU

渡辺二郎・西尾幹二編『ニーチェ物語 その深淵と多面的世界』あらすじと感想~様々な視点からニーチェを知れる画期的な参考書

目次

渡辺二郎・西尾幹二編『ニーチェ物語 その深淵と多面的世界』概要と感想~様々な視点からニーチェを知れる画期的な参考書

フリードリヒ・ニーチェ(1844-1900)wikipediaより

今回ご紹介するのは1980年に有斐閣より発行された渡辺二郎・西尾幹二編『ニーチェ物語 その深淵と多面的世界』です。

早速この本について見ていきましょう。まえがきより引用していきます。

ニーチェはじつに豊富な世界である。簡単には汲みつくせない底深さをたたえているがゆえに、時代に応じそのつど違った読まれ方をされてきた、いわば多面体、、、である。おそらくこれからも、時代の思潮が変わるにつれ、変わった読まれ方をされつづけるだろう。切り込んでいくべき問題の数だけ、ニーチェが存在する。いったいニーチェは哲学者だろうか?当然そう考えるべきだが、既成の哲学の知識をもってニーチェはどうしても片づかない。それならニーチェは文学者だろうか?これも然り、であって否である。それなら宗教家だろうか?古典学者だろうか?歴史哲学者だろうか?教育者だろうか?言語思想家だろうか?……と問い出せば、ニーチェはその全てであって、そのいずれでもない、と答えるほかないだろう。

有斐閣、渡辺二郎・西尾幹二編『ニーチェ物語 その深淵と多面的世界』Pⅰーⅱ

「ニーチェとは何者なのか。」

これは永遠のテーマなのかもしれません。

読まれる時代、読む者それぞれの違いによって違った姿で現れてくるニーチェ。

この本ではそんな「多面体」というべきニーチェについて考えていく参考書となっています。

この本の特徴について、編者は次のように述べています。

多方面から、多くの人の手で光を当て、その光の束の交叉する焦点に、意図せずしてニーチェの像を浮かびあがらせてみようというやり方は、案外、この思想家を研究する場合にはふさわしい方法かもしれない、と思えてきた。というのも、それほどニーチェは一つの視点、一つの専門枠で整理され得ない存在で、ヨーロッパでも日本でも、ニーチェの根本問題はこれだ、という決定的な答の出し方をした場合には、あらかた失敗し、たちまち古くなってしまうという宿命があったからである。多元的なニーチェ像を、ばらばらのままに投げ出すようにして並べたこのような相対的なニーチェ研究書は、今のところまだヨーロッパにもないが、今述べた理由から、予想外にニーチェ研究という課題に適った、面白い結果を生み出していると言えないことはない。(中略)

ニーチェ研究はいまドイツでも、フランスでも新しい段階に入っている。本書はそういう最新の学問研究の事情に通じ、かつ永年ニーチェを読解することに苦心してこられた第一線の専門家のご協力を得て成った。また、哲学にも文学にも偏らず、ドイツ一辺倒でもなく、美学、ギリシア古典学、フランス文学、宗教学、歴史学、音楽学、精神医学など広範囲の隣接学問の、それぞれにおける一流の専門家に御寄稿いただけたことも、類書に例のない試みであり、特色である。

有斐閣、渡辺二郎・西尾幹二編『ニーチェ物語 その深淵と多面的世界』Pⅱーⅲ

ここで述べられますように、この本ではそれぞれの項目がたくさんの専門家によって書かれています。

目次を見て頂ければ一目瞭然です。

そしてありがたいのが単にニーチェの解説だけでなく、彼と関係のある作家や哲学者との関係も書かれている点です。

1枚目の目次にありますように、ドストエフスキーについての言及もあります。これはとてもありがたかったです。

また、ニーチェの生涯や思想面についても簡潔にまとめられていますので、困った時の参考書としても非常に便利な1冊となっています。

通読するにはやや厳しいなという思いもありますが、自分の関心のある部分を参照したい時には非常に助かる参考書です。

以上、「渡辺二郎・西尾幹二編『ニーチェ物語 その深淵と多面的世界』画期的なニーチェ参考書」でした。

Amazon商品ページはこちら↓

ニーチェ物語―その深淵と多面的世界 (1980年) (有斐閣ブックス)

ニーチェ物語―その深淵と多面的世界 (1980年) (有斐閣ブックス)

次の記事はこちら

あわせて読みたい
R.ザフランスキー『ニーチェ その思考の伝記』あらすじと感想~ニーチェの思想はいかにして生まれたのか... この本の特徴は何と言っても、単なる伝記ではなく、「思考の伝記」であるという点にあります。ニーチェの生涯を辿りながらその思考のプロセスをこの本では見ていくことになります。

前の記事はこちら

あわせて読みたい
W.シューバルト『ドストエフスキーとニーチェ その生の象徴するもの』あらすじと感想~2人のキリスト教... 著者は絶対的な真理を追い求める両者を神との関係性から見ていきます。 さらにこの本では『罪と罰』の主人公ラスコーリニコフや『カラマーゾフの兄弟』のイワンとニーチェの類似についても語っていきます。理性を突き詰めたドストエフスキーの典型的な知識人たちの破滅とニーチェの発狂を重ねて見ていきます。これもものすごく興味深かったです。

ニーチェおすすめ作品、参考書一覧記事はこちらです

あわせて読みたい
ニーチェおすすめ作品7選と解説記事一覧~ニーチェは面白い!哲学だけではなくその人生、人柄にも注目です ニーチェの哲学書と言えばとにかく難解なイメージがあるかもしれませんが、それでもなお現代まで多くの人に愛され続けているのも事実です。難解なだけでなく、やはりそこに何か読者の心を打つような強いメッセージがあるからこそ多くの人に読まれ続けているのだと思います。 今回はそんなニーチェの哲学書の中でも私がおすすめしたい7つの作品とニーチェに関する興味深い解説をまとめた記事をいくつか紹介していきます。
あわせて読みたい
おすすめニーチェ解説書10選~ニーチェとは何者なのか、その思想を学ぶために この記事では私のおすすめするニーチェの解説書10冊をご紹介していきます。 これから紹介する本を見て皆さんは驚かれるかもしれませんが、一般的に「ニーチェ 入門」と検索しておすすめされる本とはたしかに違うラインナップです。ニーチェ入門の本を探している方にはハードルが高いと思われるかもしれませんが、実際読んで頂ければわかると思いますがとても丁寧でわかりやすい解説書ばかりです。

関連記事

あわせて読みたい
ニーチェとドストエフスキーの比較~それぞれの思想の特徴とはー今後のニーチェ記事について一言 ニーチェの言葉には悪魔的な強さがあります。その感染力たるや凄まじいものがあります。 しかし、最近ニーチェ関連の参考書を読んだり、ニーチェ作品を改めて読み返してみると、これまでとは違ったニーチェが私の前に現れてきました。
あわせて読みたい
おすすめドストエフスキー解説書一覧~これを読めばドストエフスキー作品がもっと面白くなる! この記事ではこれまで紹介してきましたドストエフスキー論を一覧できるようにまとめてみました。 それぞれの著作にはそれぞれの個性があります。 また、読み手の興味関心の方向によってもどの本がおすすめかは変わってくることでしょう。 簡単にですがそれぞれのドストエフスキー論の特徴をまとめましたので、少しでも皆様のお役に立てれば嬉しく思います。
あわせて読みたい
シェストフ『悲劇の哲学 ドストイェフスキーとニーチェ』あらすじと感想~『地下室の手記』に着目した... ドストエフスキーの思想を研究する上で『地下室の手記』が特に重要視されるようになったのもシェストフの思想による影響が大きいとされています。そのためシェストフの『悲劇の哲学 ドストイェフスキーとニーチェ』はドストエフスキー研究の古典として高く評価されています。
あわせて読みたい
ニーチェ発狂の現場と『罪と罰』ラスコーリニコフの夢との驚くべき酷似とは 1889年1月、ニーチェ45歳の年、彼は発狂します。彼が発狂したというエピソードは有名ですがその詳細に関しては私もほとんど知りませんでした。 しかし、参考書を読み私は衝撃を受けました。その発狂の瞬間がドストエフスキーの代表作『罪と罰』の主人公ラスコーリニコフが見た夢とそっくりだったのです。
あわせて読みたい
ドストエフスキーおすすめ作品7選!ロシア文学の面白さが詰まった珠玉の名作をご紹介! ドストエフスキーといえば『罪と罰』や『カラマーゾフの兄弟』など文学界では知らぬ者のない名作を残した圧倒的巨人です。彼は人間心理の深層をえぐり出し、重厚で混沌とした世界を私達の前に開いてみせます。そして彼の独特な語り口とあくの強い個性的な人物達が織りなす物語には何とも言えない黒魔術的な魅力があります。私もその黒魔術に魅せられた一人です。 この記事ではそんなドストエフスキーのおすすめ作品や参考書を紹介していきます。またどの翻訳がおすすめか、何から読み始めるべきかなどのお役立ち情報もお話ししていきます。
あわせて読みたい
ドストエフスキーとキリスト教のおすすめ解説書一覧~小説に込められたドストエフスキーの宗教観とは ドストエフスキーとキリスト教は切っても切れない関係です。 キリスト教と言えば私たちはカトリックやプロテスタントをイメージしてしまいがちですが、ドストエフスキーが信仰したのはロシア正教というものでした。 そうした背景を知った上でドストエフスキーを読むと、それまで見てきたものとは全く違った小説の世界観が見えてきます。 キリスト教を知ることはドストエフスキーを楽しむ上で非常に役に立ちます。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次