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『ハヴェル自伝 抵抗の半生』あらすじと感想~劇作家からチェコ大統領へープラハの春からビロード革命へ

目次

ヴァーツラフ・ハヴェル『ハヴェル自伝 抵抗の半生』概要と感想

今回ご紹介するのは岩波書店より1991年に出版されたヴァーツラフ・ハヴェル著、佐々木和子訳『ハヴェル自伝 抵抗の半生』です。

ヴァーツラフ・ハヴェルについては前回の「V・ハヴェル『力なき者たちの力』チェコ大統領による必読エッセイ~知らぬ間に全体主義に加担する私たち」の記事でも紹介しました。

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ヴァーツラフ・ハヴェル(1936-2011)Wikipediaより

ヴァーツラフ・ハヴェルはチェコスロバキアの大統領を務めた人物ですが、元々は劇作家です。しかしソ連抑圧時代では自由な活動は望むべくもありませんでした。ですがそんな中でも芸術、文化の力を信じ、国民を鼓舞し続けていたのでした。

そんなハヴェルの波乱万丈な半生がこの自伝では語られます。

ではこの本の内容を見ていきましょう。

昨日の反逆者,今日の大統領.チェコ人劇作家ハヴェルが語る演劇・政治・人生.小劇場での演劇活動,“プラハの春”後の人権擁護闘争,苛酷な獄中生活…….真実と自由を求めて不条理と闘う反逆的芸術家の「希望の政治学」.

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訳者あとがきでは次のように述べられています。

『ハヴェル自伝ー抵抗の半生』(原題『遠方からの尋問』)というこの本は、チェコスロヴァキア現大統領ヴァーツラフ・ハヴェルが、まだ”国家の反逆者”だった一九八六年、五〇歳になったのを契機に、西独のボンに滞在していたチェコ人ジャーナリスト、カレル・フヴィージジャラの申し出により、監視の間隙を縫う交信、密会によるインタビューの草稿をもとに、自らの半生を綴ったものだというわけである。

そのころの著者は、家にいるときは近所の工事現場を装った小屋からの監視、一歩外に出ると公然たる尾行、人に会うとその相手にたいする執拗な追及、電話の盗聴は言うにおよばず、しばしば無断の家宅捜索等々とあらゆるかたちで見張られ、家族や親族におよぶいやがらせのなかで、くじけることなく権力と闘っていた。

チェコ語で書かれたものの、正式に刊行されたのは八七年に西独から出た独訳が最初で、(タイプライターの手打ちコピーで綴られた。”エクスぺディツェ”からの地下出版はべつとして)母国での公刊はもちろん不可能だった。

二年後、国名から「社会主義」の文字が取れて革命が勝利した直後の八九年一二月、最初の記念すべき本としてチェコ語の第一版が出た。一四〇〇万の人口のこの国で一〇万部。それが発売日も早朝に売り切れてしまった。
※適宜改行しました

岩波書店、ヴァーツラフ・ハヴェル著、佐々木和子訳『ハヴェル自伝 抵抗の半生』P323-324

他の本を読んでハヴェルがどれだけ苦しい状況に置かれていたかは知っていましたが、この自伝を読むとさらにその厳しさが伝わってきます。

ソ連による言論弾圧の中、劇作家として文化の力、言葉の力を信じ続けたハヴェルの精神力には驚かされます。

この自伝の中で特に印象に残った箇所をご紹介したいと思います。

私はかなり頻繁に希望について思案しているが(とくに、ことさら絶望的な状況にあるとき、たとえば牢獄のなかで)、とりわけ私が理解している希望とは、もともと主として精神の状態であり、世界の状態ではないということです。

われわれは希望を自分のなかに持つか、それとも希望を持たないかであり、それはわれわれの魂の次元であって、その本質において世界の観察や状況判断などに依存するものではありません。(中略)

希望の尺度は、事態の好転による喜びとか、近い将来の成功が見てとれる企業に投資する意欲などの尺度ではなく、むしろ、成功が保証されているからではなくて、良いことだからそのために努力する、われわれの能力の尺度なのです。自分が希望を抱いているものの状況が悪化すれば、それだけこの希望は深まるのです。

希望は決して楽観ではありません。なにかがうまくいくという確信ではなく、なにかの意味を持つという保証ーどういう結果になるかを顧慮することなくーなのです。つまり、この最も奥深く最も大切な希望は、ただひとつ、すべてに抗して私たちを水面上に保ち、価値ある行為へとおもむかせるものであり、そして人間の精神と努力の偉大さの唯一の真の源泉であるこの希望を、私たちはいわば、”どこか別のところから”手に入れるのです。そしてまたこの希望こそが、一見きわめて絶望的な、たとえばここのような条件下においてさえ、私たちが生きて行き、つねにくり返しなにかを試みる力を与えてくれるのです。

岩波書店、ヴァーツラフ・ハヴェル著、佐々木和子訳『ハヴェル自伝 抵抗の半生』P277-278

この中でも特に私が心打たれたのは、希望とは「成功が保証されているからではなくて、良いことだからそのために努力する、われわれの能力の尺度なのです」という言葉でした。

何か善なるもののために、真実を求めるために戦い続ける。

それは暴力における戦いではなく、精神的な方法での戦い。

プラハにおける革命は暴力革命とは一線を画したものでした。

プラハは2019年の旅でも訪れ、私が最も好きになった国でした。文化の香りが漂い、とにかく強烈に心が惹かれたのを覚えています。

私がなぜそれほどこの街にこんなにも惹かれたのか、それをこの本を読んでさらに感じられたように思います。

プラハの歴史を知る上でも非常に興味深い本でした。プラハを愛する方はたくさんおられると思います。ぜひこの本を読んでもっともっとプラハのことを知って頂けたら嬉しく思います。

以上、「『ハヴェル自伝 抵抗の半生』劇作家からチェコ大統領へープラハの春からビロード革命へ」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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