ネパール仏教の象徴スワヤンブナート~こちらを見つめる目!目がそこにある!
【インド・スリランカ仏跡紀行】(74)
ネパール仏教の象徴スワヤンブナート~こちらを見つめる目!目がそこにある!
これから私が向かうのはネパール仏教の象徴たるスワヤンブナート。この寺院はネパール仏教最古の仏教寺院として知られる世界遺産である。
田中公明、吉崎一美共著『ネパール仏教』によればこの寺院は4世紀末から5世紀初頭の創建ではないかとされている。そして上の画像にあるように、ネパール仏教寺院の特徴は何と言ってもその目である。その塔部分に巨大な目が描かれていて、私達をじっと見つめるのだ。これはネパール仏教ならではの文化である。これから私もそんな目と出会いにスワヤンブナートを訪れる。
スワヤンブナートの駐車場までやって来た。スワヤンブナートはカトマンドゥ市内西部の丘の上にある。そのためここからは階段を上って寺院本殿まで歩いていくことになる。
境内に入るといきなりその目が現れた。仏塔に描かれたその目。これは神羅万象を見通すブッダの目を象徴しているのだそう。ブッダは我々を見ている。そしてその目を我々も見ているのだ。
さあ、これから上りだ。
少し上るだけでカトマンドゥの景色が見渡せるようになってきた。
さて、本殿近くに到着である。ゆっくり景色を眺めながら歩いてきたので思ったよりも疲労感は少ない。道の途中にはお土産屋や食べ物のお店も並んでいた。
こちらがスワヤンブナートの大塔(マハーチャイトヤ)だ。饅頭型の白い土台の上に立つ黄金の仏塔。その仏塔の四方に目が描かれている。まさに全世界を見渡すブッダの目だ。仏塔の先端には仏旗が結ばれ、青い空に鮮やかな色合いを添えている。
違う角度からも。この大塔付近には大小様々な仏塔や祠堂が建てられていて、目まぐるしく世界が変わっていく。
小さな仏塔が並ぶこの独特な雰囲気に私も心打たれるものがあった。
そしてここは「モンキーテンプル」と呼ばれるように猿も多い。油断すると持ち物が奪われるので要注意だ。
大塔からさらに進むと広場に出る。この広場にはお土産屋が軒を連ねていて買い物客で賑わっている。
せっかくなので私も置物店を少し覗いてみた。いい仏像があれば記念にでもと思ったのである。ここスワヤンブナートの雰囲気が気に入ったのでぜひ何か形に残るものを持ち帰りたくなったのだ。
店先の仏像を見物していると店主がやって来て、「中へおいで」と定番のやりとりが始まる。私は仏像が欲しいと店主に伝え、小さめのサイズでハイクオリティのものを出してくれと聞いてみた。すると店主は「ブッダ!ブッダ!」と言いながらいくつもの仏像を持ってきた。ふむふむ、これは悪くないぞ?
店主も手応えを感じたのかさらにどんどん仏像を持ってくる。
そして私が驚いたのが店主が「アミタ!アミタ!」と言って出してきた仏像だった。
おお!ここに阿弥陀仏があるのか!と私は期待したのだが、その像を見て驚いた。どう見ても阿弥陀仏には見えないのである。
結跏趺坐で心穏やかに座っている仏像であるが、手に壺のようなものを持っている。手に壺を持つ仏様といえば薬師如来ではないか?私はこの店主に騙されているのではないか。不審そうに仏像を見る私を見て店主も心配になったのか、私に本を見せてきた。仏像の解説の本らしい。「これは間違いなくこの仏像だ。アミタだ」と店主はあるページを指して私に見せたのである。
おぉ!そうか!そういうことか!
これはチベット密教のアミダなのだ!だから私が知っている阿弥陀仏とは違うのだ!
阿弥陀仏にはもともと2つの由来がある。それがアミターバ、アミターユスという2つの名だ。アミターバはサンスクリット語で無量光、つまり無限の光を意味する。そしてアミターユスは無量寿、つまり無限の命という意味である。
阿弥陀仏はこのアミターバ、アミターユス両方の特性を持った仏様なのだ。それを私達日本人は阿弥陀仏と呼んでいる。浄土真宗では『正信偈』というお経を唱えるのだが、まさに「帰命無量寿如来 南無不可思議光」というフレーズからこのお経が始まる。つまり、「無量寿仏(アミターユス)、不可思議光=無量光(アミターバ)に深く帰依いたします」という信仰告白からこのお経は始まるのである。
そして今私が見せられたのはそのアミターバの仏像だった。密教にはたくさんの仏や菩薩が登場する。皆さんも曼陀羅図というものが見たことがあるだろう。
このように、密教では無数の仏や菩薩達がその世界に顕現する。浄土教では阿弥陀仏は阿弥陀仏として信仰されるが、密教においてはさらに細分化されてアミターバやアミターユスとして具現化されたのだろう。
となればもしかするとアミターバだけでなくアミターユスの仏像もここに売っているのではないか。思い切って私は聞いてみた。
すると、某超人気ドラマのごとく「あるよぉ」と店主はにこりと笑い持ってきてくれた。
こちらがアミターユスである。
私達日本人にはほとんど馴染みのない姿であるが、実に優美な姿をしている。
私はすっかりこの2体の仏像が気に入り、購入することを決めた。この仏像は今、当寺の本堂に大切に安置されている。
ネパール仏教は密教色が強いことで知られている。チベットが近いため古くから交流があったのだ。こうした土地で自分の全く想像していなかった「アミタ」と出会ったのは実に刺激的な体験だった。
スワヤンブナートは独特な空気が漂う場所であった。インドともスリランカともやはり違う。そしてやはりあの目である。「ネパールといえばこれ」というほど私の中で強烈な印象を残した。「神羅万象を見通すブッダの目」というのは理屈ではわかる。だがなぜそれを仏塔に描かねばならないのか。なぜネパールだけそれが行われたのかというのは非常に興味深い問題である。きっと宗教的な問題だけでなく、地理的、歴史的要因も大きく絡んでいるのだろう。興味が尽きない。
次の記事ではそんなネパール仏教の特徴について少しだけお話ししていく。なんと、ネパール仏教は日本と同じ妻帯する仏教が残っているのである。私にとっても驚きの事実がネパール仏教の歴史にあったのだ。
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※以下、この旅行記で参考にしたインド・スリランカの参考書をまとめた記事になります。ぜひご参照ください。
〇「インドの歴史・宗教・文化について知るのにおすすめの参考書一覧」
〇「インド仏教をもっと知りたい方へのおすすめ本一覧」
〇「仏教国スリランカを知るためのおすすめ本一覧」
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