エローラのカイラーサナータ寺院に驚愕!100年かけて岩山を彫り進めた驚異の彫刻建築とは!
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【インド・スリランカ仏跡紀行】(22)
エローラのカイラーサナータ寺院に驚愕!100年かけて岩山を彫り進めた驚異の彫刻建築とは!
前回の記事「(21)エローラ石窟寺院の仏像は全身に電気が走るほどの衝撃だった!インドのベストスポットとしてぜひおすすめしたい!」ではエローラの素晴らしい仏教寺院を紹介したが、今回の記事ではエローラ遺跡を代表するヒンドゥー教建築カイラーサナータ寺院をご紹介する。
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復習になるが、こちらがエローラ全体の見取り図だ。見ての通り、エローラは石窟群と呼ばれるように、数多くの石窟が彫られている。目の前の岩山を文字通り彫り抜いてこれらの寺院を作り上げたのである。
そして上の見取り図のように右(南)から第1窟が始まり、第12窟までが仏教窟、第13~29窟がヒンドゥー教窟、第30~34窟がジャイナ教窟となっている。
この見取り図の中でも一際大きく描かれている第16窟がこれから紹介するカイラーサナータ寺院だ。
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前回の記事でも少しお話ししたように、エローラ石窟群の入場口を抜けてすぐ正面に現れるのが第16窟のカイラーサナータ寺院だ。
正直、遠くから見ただけではここが本当にインドを代表する傑作建築なのかどうかはわからなかった。いや、むしろ拍子抜けというのが正直なところだった。
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しかしいざこの石窟寺院の目の前までやってくるとその巨大さに驚いた。近くで見てみると全く違うのである。
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まさにそびえ立つ石の壁だ。しかもこれはあくまで入り口に過ぎない。この向こうに何があるのか緊張感が高まる。
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な、何だこれは・・・!
正直、私は言葉を失ってしまった。あまりのスケールにこれをなんと表現してよいのかわからない。
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色彩も残っている場所がある。だが、やはり何と言ってもデカイ・・・!自分の語彙力のなさを呪うしかない。だが、ここに来たならば誰だってこうなるのではないか?トルストイだってこの光景を目にしたら言葉に詰まるのではないだろうか。
そしてさらに先に進んでいくとそれこそ私は度肝を抜かれてしまった。
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寺院の両側はまさに岩の壁なのだが、見ての通り岩が屋根のように突き出ているのである!なぜ落ちない!?
このカイラーサナータ寺院は8世紀頃に造営が始まったとされている。
しかもこの寺院の造営方法がまさに狂気としか言いようがない。なんと、岩山の上から真下に彫り進めて寺院を作ってしまったのである。洞窟のように横方向に穴を掘ったのではない、この寺院そのものが巨大な岩山をくり抜いた彫刻作品なのである。
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この写真を見て頂ければその雰囲気が伝わるのではないだろうか。ここは元々一つの岩山だったのである。それを文字通り上から地道に彫り続け、下まで貫通させたのだ。どうしてインド人はこんなとてつもないことを思いついたのだろう!しかもこの作業はなんと、100年近くも続いたのだという。
完成まで約100年、ひたすら彫り続けたのだ。さすが悠久の国インド・・・時間感覚があまりに雄大すぎる。
これを見た上で先程の写真をもう一度見てみよう。
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私たちが今立っている場所も本来岩山があったのだ。目の前の塔の上まで全部岩山だったのである。それを全部上から彫り進めてこの空間が出来上がっているのだ。信じられない。
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せり出た岩の迫力が伝わるのではないだろうか。この非現実的な空間に、私はもう何が何だかわからなくなってきた。
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寺院を支える象の彫刻群。そのひとつひとつも実に精緻に彫られている。
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また、寺院を囲む岩壁の奥は回廊になっており、その庵室のひとつひとつにシヴァ神、ヴィシュヌ神などの彫刻が施されている。
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そしてこちらがカイラーサナータ寺院の本殿だ。
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その最奥部にはシヴァ・リンガが祀られていた。
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内部の構造や彫刻も驚くほど細かく彫られている。これほど巨大な寺院であるが、そのひとつひとつの仕事が実に細かい。そして何と言ってもセンスが良い。ごてごてしたものやこれ見よがしの装飾などもほとんど見当たらないのである。やり過ぎない絶妙な加減が実に素晴らしい。
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この寺院の圧倒的なエネルギーに感化を受けているのだろうか、ここは歩いているだけで不思議と力が湧いてくる。
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そしてこの寺院はシヴァ神を祀る寺院ということで数多くのシヴァ神像とも対面することになるのだが、そのバリエーションも様々だ。そのどれもがダイナミックで生命のほとばしりとでも言えるような力があるのである。
これは前回の記事で紹介した仏教窟とまさに対照的と言えるだろう。
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仏教窟の静謐で穏やかな空気とはまるで異なるものがここにはある。
このことについて立川武蔵、大村次郷共著『アジャンタとエローラ―インドデカン高原の岩窟寺院と壁画』では次のように説かれていた。
ヒンドゥー教では神々がすこぶる人間的だ。恋し、嫉妬し、他の者に呪いをかけ、戦い、そしてときにはクリシュナのように死ぬ。一方、仏教の「神々」である釈迦や阿弥陀如来は、恋したり嫉妬したりはしない。また、ヒンドゥーの神々は世界の創造や崩壊にも深くかかわる。仏たちは、八、九世紀以降の密教(タントリズム)の場合を別にすれば、宇宙創造神話の主役となることはない。
エローラのヒンドゥー窟のどれにでも入ってみると、神々が踊り、魔神たちと戦い、妃あるいは夫と戯れている。行為への意欲も捨て、生き物であるかぎりどうしようもなく湧きあがってくる食欲、性欲さえ止滅させようという強靭な意志は、エローラの神々の躍動するすがたからは感じられない。感じられるのは、誕生、成育、消滅というサイクルをくり返す世界が展開するときに放出するエネルギーである。
集英社、立川武蔵著、大村次郷写真『アジャンタとエローラ―インドデカン高原の岩窟寺院と壁画』P111-112
仏教窟を出てこのヒンドゥー教窟に入ると、窟院内部のプランはそれほど異なっていないにもかかわらず、自分が異質な空間に入ってきたと感ずる。すべてを寂静へと導こうとする仏教窟とは対照的に、すべてのものを奮い立たせて身を踊らせる力を感じるのである。
集英社、立川武蔵著、大村次郷写真『アジャンタとエローラ―インドデカン高原の岩窟寺院と壁画』P58
そう。まさに私も仏教窟からこのカイラーサナータ寺院にやって来て衝撃を受けたひとりだ。
仏教とヒンドゥー教の世界観、人間観の違いがこれでもかと感じられるのがここエローラなのである。
カイラーサナータ寺院はまさにエネルギーの爆発だ。ここに来ればヒンドゥー教のエネルギー、莫大な質量を全身で感じることができる。
ここエローラ石窟群はインドのベストであることは間違いない。卓越した仏教窟、ヒンドゥー教窟を同時に堪能できる奇跡のような場所である!
エローラは私のインド体験のハイライトと言えよう。
主な参考図書↓
アジャンタとエローラ インドデカン高原の岩窟寺院と壁画 (アジアをゆく)
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【インド・スリランカ仏跡紀行】の目次・おすすめ記事一覧ページはこちら↓
※以下、この旅行記で参考にしたインド・スリランカの参考書をまとめた記事になります。ぜひご参照ください。
〇「インドの歴史・宗教・文化について知るのにおすすめの参考書一覧」
〇「インド仏教をもっと知りたい方へのおすすめ本一覧」
〇「仏教国スリランカを知るためのおすすめ本一覧」
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