MENU

三島由紀夫、芥正彦他『三島由紀夫VS東大全共闘 1969-2000』あらすじと感想~あの伝説の討論は何だったのか。学生達の思想、関係性も知れるおすすめ作品!

三島由紀夫
目次

三島由紀夫、芥正彦他『三島由紀夫VS東大全共闘 1969-2000』概要と感想~あの伝説の討論は何だったのか。学生達の思想、関係性も知れるおすすめ作品!

今回ご紹介するのは2000年に藤原書店より発行された三島由紀夫、芥正彦他著『三島由紀夫VS東大全共闘 1969-2000』です。

早速この本について見ていきましょう。

伝説の激論会「三島vs東大全共闘」、そして三島の自決から30年。当時三島と激論を戦わせたメンバーが再会し、三島が突きつけた問いを徹底検証する。

Amazon商品紹介ページより

この本はあの伝説の討論を闘った東大全共闘メンバーが再集結し、あの日のことや今だからこそ語れる話題を語り合うという作品です。

私が三島由紀夫に関心を持つきっかけとなったのもまさにこの1969年の討論でした。以前当ブログでも紹介した小阪修平著『思想としての全共闘世代』を機に観た上の映画に私は度肝を抜かれたのです。

あわせて読みたい
小阪修平『思想としての全共闘世代』あらすじと感想~60年代からの時代精神を著者個人の語りから感じる... 本書は著者の個人的な語りを通して全共闘や赤軍まで見ていきます。 全共闘や学生紛争についての入門として本書は非常におすすめです。この時代を知らない私達若い世代こそこの本を読むべきではないかと思います。

この記事の中でもお話ししましたが、私はこの後学生紛争やセクトの暴力化についての本を読むことになりました。三島由紀夫の作品に取りかかったのはその後のことです。

ですが、私はモヤモヤしたものを抱えていました。

結局、あの東大全共闘は何だったのか・・・安田講堂に立てこもり火炎瓶を投げつけた学生達や内ゲバを繰り返したセクトたちと何が違うのか・・・。

私にはこれがどうしてもわからなかったのです。三島由紀夫と討論した彼らは一体何者だったのか。彼らも内ゲバや暴力をしていたのだろうか・・・。

そんな疑問を抱えていた私にとって本書『三島由紀夫VS東大全共闘 1969-2000』はあまりにありがたい作品となりました。

先程も述べましたように、この本はあの討論に参加したメンバーが再結集しています。上で紹介した『思想としての全共闘世代』の著者小阪修平氏もまさにその中心メンバーですし、司会を務めた木村修氏も参加しています。彼らの話を聞いていると、東大全共闘におけるあの討論はセクト間の争いを離れたノンセクトの学生によるものだったということがわかりました。特にその中心人物である小阪氏、木村氏の考え方もこの本で率直に語られることになります。やはり彼らはセクト間抗争や内ゲバとは異なるところにいたのです。学生紛争という形で一概に安田講堂事件やあさま山荘事件、赤軍とごっちゃにしてはいけないということを改めて感じることになりました。

そしてこの本では映画でも一際異彩を放っていた芥正彦氏も登場します。

私にとってこの本で一番刺激的だったのはこの芥正彦氏の存在だったかもしれません。あの映像を観るだけでは氏の突飛な行動や難解極まる言葉の数々をどう捉えてよいのかわからなかったのです。そんな中この本では氏の言葉を活字でじっくりと読んでいくことができます。そしてそれに対しての他のメンバーのコメントや対応がとにかく面白い!小阪氏や木村氏は学生の頃から芥氏のことを深く知っています。ですので明らかに芥氏に対する扱いがこなれています。論点がずれている時や疑問がある時は正確に指摘し、さらには割って入って議論をかき混ぜる芥氏をスルーするなど、旧知の仲だからこその空気感も感じることができます。

この本はメンバー間での討論が活字にされています。ですので議論がそのまま文字となって記されています。最初から本として書かれた言葉ではないところにその臨場感があります。よくぞまあこれほどの議論を交わし続けることができるなと驚くばかりです。

また、この本では難解な言葉や出来事の注釈も豊富で、当時の状況に詳しくない方でも読めるようになっています。もちろん、映画を観てからこの本を読むのがベストだとは思いますが、読者への配慮も行き届いた作品です。写真も豊富で当時の状況や、現在の彼らの写真も掲載されているので討論の雰囲気がより伝わってきます。いや~ものすごい本です。計15時間にも及ぶ濃密な討論がこの本で文字化されています。東大全共闘とは何だったのか、三島由紀夫との対談は何だったのかということを知るのにこの本は最高の資料になります。この時代の雰囲気を感じるためにもぜひぜひこの本はおすすめしたいです。

そして1969年の討論そのものについては角川文庫より『美と共同体と東大闘争 三島由紀夫・東大全共闘』という本が出ていますのでこちらもおすすめです。

以上、「三島由紀夫、芥正彦他『三島由紀夫VS東大全共闘 1969-2000』~あの伝説の討論は何だったのか。学生達の思想、関係性も知れるおすすめ作品!」でした。

Amazon商品ページはこちら↓

三島由紀夫vs東大全共闘: 1969-2000

三島由紀夫vs東大全共闘: 1969-2000

次の記事はこちら

あわせて読みたい
三島由紀夫『潮騒』あらすじと感想~古代ギリシャをモチーフに書かれた恋愛小説。三島らしからぬディズ... 三島由紀夫といえば『金閣寺』や『仮面の告白』のえげつない内面描写や『憂国』の血のしたたりというイメージがあります。しかし、彼は『潮騒』のような純粋無垢なディズニー的な作品も書けてしまうのです。 「あの三島由紀夫がディズニー的な作品を書いていた」 私にとってはこれはかなりの衝撃でした。

前の記事はこちら

あわせて読みたい
三島由紀夫『仮面の告白』あらすじと感想~三島の自伝的小説。幸福を求めあがいても絶対に得られないと... 今作『仮面の告白』は三島由紀夫の初の長編となった作品です。しかもそうした「始まりの作品」でありながらこの小説はかなりどぎついです。後の三島を予感させる内面の苦悩、葛藤、嵐がすでにここに描かれています。

関連記事

あわせて読みたい
キャンディのペラデニヤ大学で1971年のマルクス主義学生による武装蜂起について考える 私はここ数年、ドストエフスキーを学ぶ過程で主にヨーロッパの歴史を学んできました。そして今インドやスリランカを学んでいます。 しかし「自分は本当にヨーロッパやインド、スリランカのことを知っているのだろうか。私は一体何を知ったと思い込んでいるのだろうか」とペラデニヤ大学にやってきてそのことを改めて意識させられました。
あわせて読みたい
東大安田講堂を訪ねて~あの安田講堂事件は何だったのか。当時の学生紛争について思う 私はインド・スリランカを旅しながら学生紛争についての本を読み漁っていました。特に佐々淳行著『東大落城安田講堂攻防七十二時間』ではこの安田講堂事件の裏側が生々しく描かれていました。 その安田講堂にこれから向かうのです。私にとって何度も来たはずの東京大学が全く違って見えた1日でした。
あわせて読みたい
三島由紀夫の自決現場、自衛隊市ヶ谷駐屯地(現防衛省)市ヶ谷記念館を訪ねて 市ヶ谷記念館での見学は三島の「力」への憧れや最後の瞬間を感じられた素晴らしい体験となりました。三島由紀夫に興味のある方にはぜひおすすめしたいツアーです。 私はこの部屋で過ごした時間を忘れることはないでしょう。三島はここで死んだのだ。この場所が残されていることに心から感謝したいです。
あわせて読みたい
三島由紀夫おすすめ作品15選と解説書一覧~日本を代表する作家三島由紀夫作品の面白さとその壮絶な人生とは この記事では三島由紀夫のおすすめ作品と解説書を紹介していきます。 三島由紀夫という尋常ならざる巨人と出会えたことは私の幸せでした。 三島文学というととっつきにくいイメージがあるかもしれませんが、しっかり入門から入ればその魅力を十分すぎるとほど味わうことができます。まさに三島文学の黒魔術です。ぜひおすすめしたい作家です。
あわせて読みたい
E・サラッチャンドラ『明日はそんなに暗くない』あらすじと感想~マルクス主義の学生による武装蜂起が起... この小説とこのタイミングで出会えたことに縁を感じずにはいられません。スリランカに行く前に、私はこの小説を読まねばならなかったのだと強く感じています。 日本の学生紛争について考える上でもこの作品は非常に重要な示唆を与えてくれる作品です。 小説としても非常に読みやすく、私も一気に読み切ってしまいました。さすがスリランカを代表する作家です。 スリランカについてまた新たな視点をくれた素晴らしい作品でした。 ぜひぜひおすすめしたい作品です。
あわせて読みたい
三島由紀夫『金閣寺』あらすじと感想~「金閣寺を焼かねばならぬ」。ある青年僧の破滅と内面の渦 私は『罪と罰』をかつて「ドストエフスキーの黒魔術」と呼びました。ドストエフスキーの作品は私たちに異様な感化力を以て襲いかかってきます。 そしてまさに三島由紀夫の『金閣寺』もそのような作品だと確信しました。この文体。この熱量・・・!恐るべき作品です
あわせて読みたい
「プラハの春」とは何かを学ぶのにおすすめの参考書10冊を紹介~ロシア・ウクライナ侵攻を考えるためにも この記事では以前当ブログでも紹介した1968年の「プラハの春」ソ連軍侵攻事件(チェコ事件)について学ぶためのおすすめの参考書をご紹介していきます。 現在、ロシアによるウクライナ侵攻が危機的な状況を迎えていますが、ソ連、ロシア、東欧の歴史を知る上でも「プラハの春」事件は非常に重要な意味を持っています。 大国に囲まれながらも誇り高い文化、歴史を紡いできたチェコという国を学ぶことは私たち日本人にとっても非常に意味のあることだと思います。
あわせて読みたい
三島由紀夫『憂国』あらすじと感想~後の割腹自殺を予感?三島のエキスが詰まったおすすめの名作! 私自身、最初の三島体験となった『金閣寺』の次にこの作品を読んだのですが、この『憂国』を読んで私はいよいよ三島の魔力に取り憑かれてしまったのでした。 『憂国』は三島作品の中でも特におすすめしたい作品です。30ページほどの物語の中に三島由紀夫のエッセンスが凝縮されています。
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次