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渋谷利雄『祭りと社会変動—スリランカの儀礼劇と民族紛争—』あらすじと感想~スリランカの伝統文化と紛争の背景を学ぶのにおすすめ

祭りと社会変動
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渋谷利雄『祭りと社会変動—スリランカの儀礼劇と民族紛争—』概要と感想~スリランカの伝統文化と紛争の背景を学ぶのにおすすめ

今回ご紹介するのは1988年に同文舘出版より発行された渋谷利雄著『祭りと社会変動—スリランカの儀礼劇と民族紛争—』です。

早速この本について見ていきましょう。

民衆儀礼からシンハラ・タミル間のエスニック紛争を見る。祭りと社会変動との関連を考察しながら見えてきたのは、西欧モデルの「発展」と国づくりを追求すればするほど、民族間の矛盾が深まり、国家分裂の危機が進行している事実である。

Amazon商品紹介ページより

本書『祭りと社会変動—スリランカの儀礼劇と民族紛争—』はスリランカの民族儀礼や祭りの実地調査から見た民族紛争の構造について学べる作品です。

著者の渋谷利雄氏は以前当ブログでも紹介した『スリランカ現代誌―揺れる紛争、融和する暮らしと文化』の著者です。

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この本では現代スリランカの社会情勢を幅広く学ぶことができましたが、本書『祭りと社会変動—スリランカの儀礼劇と民族紛争—』ではよりディープなスリランカを知ることができます。

本書について著者は「あとがき」で次のように述べています。少し長くなりますが当時のスリランカ事情を知る上でも重要な箇所ですのでじっくり読んでいきます。

本書のテーマは、高地のシンハラ農村を基点にしてスリランカの民衆文化と社会変動を理解することである。基礎資料はコロンボ大学留学中(一九八〇-八ニ年)の実地調査により準備した。調査は農村や寺院に長期間住みこむ形をとっており、資料は収集したというよりはむしろ村人たちとの日々のつき合い、おしゃべりのなかから創られたものである。私が接した人々は、田畑の耕作だけで日々を過ごしているわけではなく、また儀礼にあけくれているわけでもない。彼らはけっして牧歌的光景に埋没している素朴な農民などではない。雨季(九-二月)には水田と焼畑の作業がいっせいに始まり、みな忙しく立ち働いていた。一年分の食糧と現金収入のほとんどが、この時期の収穫にかかっているからだ。子供たちも手伝いのため学校を休みがちとなる。農作業は集団労働としての手間替え労働(アッタン)が基本である。家事・育児も担う女性はとくに多忙で、水浴びもせいぜい一日おきである。収穫期が近づくと男たちは焼畑の見張り小屋で夜を明かす。象やイノシシ、牛の侵入と盗難を防ぐためである。

乾季(三-八月)は農閑期で、祭りや儀礼にふれる機会が多い。農作でしかも現金収入が多ければ、盛大な正月を迎えることができる。ウェサック祭、ポソン祭では寺院に喜捨が行われる。カタラガマや仏足山への巡礼団が組まれる。若者たちは町に出て映画を観、写真館で写真をとってもらう。エサラ祭では雨と病気予防が祈願され、人々はぺラヘラに歓喜しソカリに笑う。

村人の生活はけっして平準ではない。土地をほとんど持たぬ者は食糧にも困窮する。村社会ではみな顔見知りで、その多くが親族同士ということもあって、多少の盗みは大目にみられる。それでも牛一頭ともなると容赦されない。相対的に人口過剰で土地不足のため、土地をめぐる争いが多い。とりわけ相続のさいには熾烈で、裁判で争う場合もしばしばある。若者たちは、ホワイト・カラーへの就職や外国への出稼ぎを切望する。半失業状態が、未婚者の増加を招いている。ある者は軍隊に志願し、北部の対ゲリラ戦に従事している。若者たちの苦悩は深く、被抑圧感、焦燥感は強い。近年の厚生省の統計でも、スリランカでの自殺率は日本のそれを若干上まわっている。

ナショナリズムの大衆化により、議会をめぐる二大政党(統一国民党とスリランカ自由党)の抗争も村社会をまきこんでいる。就職や補助金などについては、国会議員のコネは絶大である。選挙のさいには両派の対立が激化し、しばしば暴力ざたとなる。こうしたなかで、階級・階層間の矛盾や経済矛盾が民族矛盾へと転じられる。とはいえ、村人たちはエリート層の権力争いにたんに振り回されているわけではない。コロンボ・セブン(コロンボ七区:官庁や大使館、高級住宅がある)にあこがれながらも、エリートの言動に対しては冷やかにしたたかに対処している。政府から、ときには外国から村に対するさまざまな援助を引き出すことこそ人々の関心事だ。彼らは多くの困難のなかにあって、酒落や冗談をとばすしなやかさも持ち合わせている。

村人たちは、農作業に汗し、寺院に詣でて僧侶の説教に耳傾けるが、ときには土地争いの裁判や選挙を闘い、民族戦争に参与する。私自身も、村人たちとのさまざまな利害のからみ合い、誤解、中傷、同情、共感、反感のなかで生活し仕事をしてきた。本書で描いているのは、私と村人たちとが取り結んだ多様な関係を通して得られた一つの現実・・にほかならない。もちろん私の方法や本書の内容については、不充分な点も少なくないであろう。たとえば、祭りのもつ暴力やエクスタシーの問題は入念に掘り下げる必要があると実感しており、今後の課題としたい。

本書を通して私は、スリランカの民族紛争の「解決」のための提言をしようなどというおこがましいことは意図していない。祭りと社会変動との関連を考察しながら見えてきたのは、西欧モデルの「発展」と国づくりを追求すればするほど、民族間の矛盾が深まり、国家分裂の危機が進行している事実である。私としてはスリランカの不幸な現実を直視しながら、むしろ日本において朝鮮人や中国人、アイヌ、アジア諸国からの出稼ぎ労働者・花嫁との共存や、これまでの自治、独立、国家のあり方を再考する契機としたい。

同文舘出版、渋谷利雄著『祭りと社会変動—スリランカの儀礼劇と民族紛争—』P259-262

この本では農村における人々の生活を見ていくことになります。特に本書のタイトルともなっている儀礼劇についての考察はとても貴重です。一見非科学的にも見える伝統儀礼に込められた深い意義やそこから見えてくるスリランカの複雑な社会事情にきっと驚くと思います。

こうした伝統的な儀礼については以前当ブログでも紹介した上田紀行『スリランカの悪魔祓い』もおすすめです。二冊セットで読むとさらに理解が深まること間違いなしです。

ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「渋谷利雄『祭りと社会変動—スリランカの儀礼劇と民族紛争—』~スリランカの伝統文化と紛争の背景を学ぶのにおすすめ」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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