A・C・クラーク『スリランカから世界を眺めて』あらすじと感想~『2001年宇宙の旅』で有名なSF作家のスリランカ愛を知れるエッセイ集
アーサー・C・クラーク『スリランカから世界を眺めて』概要と感想~『2001年宇宙の旅』で有名なSF作家のスリランカ愛を知れるエッセイ集
今回ご紹介するのは1988年に早川書房より発行されたアーサー・C・クラーク著、小隅黎訳の『スリランカから世界を眺めて』です。
早速この本について見ていきましょう。
宇宙を愛し、海を愛する現代SF界の巨匠クラークがさがしあてた地上の楽園、スリランカ。彼はこの伝説に彩られた美しき島を拠点に、持前の軽妙でユーモアあふれる語り口をもって、世界各地で科学解説・啓蒙活動をくりひろげてきた。宇宙計画の将来は?真空中で人は生きのびられるのか?地球外生命の可能性は?2001年の世界は?本書はこういった疑問に答える科学エッセイのほか、最愛の地スリランカでの生活点描、難破船の財宝引揚げをめぐる海洋冒険譚など60~70年代のクラークの活躍をあますところなく伝える自伝的エッセイ集である。
Amazon商品紹介ページより
アーサー・C・クラークはスタンリー・キューブリックと共にあの『2001年宇宙の旅』を手掛けたSF界の巨匠です。
そのアーサー・C・クラークがなんとスリランカを愛し、スリランカへの想いを述べたエッセイを書いていた!
それを知った私は迷うことなくこの一冊を手に取ったのでありました。
本書は「セレンディピティのこと」というエッセイから始まります。このセレンディピティという言葉はまさにスリランカゆかりの言葉であります。「何かを探し求めていると、思いがけない掘り出し物が見つかる」これがセレンディピティです。この言葉は元々スリランカの呼び名であった「セレンディップ」から来ています。アーサー・C・クラークはまずこの本の冒頭でこの言葉の由来を語り、そして彼自身がスリランカという島をセレンディピティ的に発見することになったいきさつを述べていきます。
そして本書中盤ではスリランカについての紹介がおよそ20ページにわたって語られていて、これが巨匠ならではの素晴らしい解説となっています。その冒頭部分をここに紹介します。
セイロン島は一つの小宇宙だ。そこには、この十二倍もの面積を持つどこかの国に匹敵するくらいいろいろな文化や、風景や、気候の変化がある。そこから何が得られるかは、あなたの行動しだいだ。ホテルのレストランや、西欧化したコロンボの市街から外に出てみなければ、一週間もするうちに、退屈さに身をこがしてしまうのが、当然の報いであらう。しかし、いったんこの地の住民や、歴史や、自然や、芸術―真に重要なあらゆること—に関心を抱くなら、あなたもわたしと同様、一生かけても充分ではないことに気づかれるだろう。
もちろん、みんながそのように感じるとはかぎらない。作家のエリック・リンクレーターは、愛想をつかしてこの地を離れ、「セイロンは鼻もちならぬところだ」と世界に公言してはばからなかった。以来セイロンの人々は、注意ぶかく彼の名前の発音を間違えて呼ぶようにしている。彼以外の著名な訪問者たちはもっとずっと好意的だった。マルコ・ポーロは、セイロンを「この大きさの島の中では世界中でいちばんすばらしいところだ」といっているし、同様の発言はあらゆる時代に見つけだすことができる。しかし、これまで捧げられた中で、もっとも美しい讃辞は、六世紀前にローマ法王の使節が語ったつぎのことばであろう—「この伝承によれば、セイロンから天の楽園までは四十マイル。そこでは楽園の泉の音さえ聞こえよう」と。
早川書房、アーサー・C・クラーク著、小隅黎訳『スリランカから世界を眺めて』P170-171
そしてその最後にはこう締めくくっています。
単調でつめたい北の海、わたしがしばしば身ぶるいを感じたイギリスの夏のそれは、つまりは究極的な、そして長いあいだ夢にも思わなかった美の、おぼろな反映にすぎなかった。セレンディップの三人の王子のように、わたしは、さがし求めていた以上のものを発見したのだーそれもセレンディップその地において。
生まれた場所から一万キロも離れたところで、わたしは、自分の故郷にたどりついたのである。
早川書房、アーサー・C・クラーク著、小隅黎訳『スリランカから世界を眺めて』P187
「生まれた場所から一万キロも離れたところで、わたしは、自分の故郷にたどりついたのである」
そう言わせてしまうほどのスリランカへの愛!
アーサー・C・クラークがいかにスリランカを居心地よく思っていたかがこのエッセイから感じられます。
上の引用にも出てきたセレンディップについては前回の記事で紹介した『セレンディップと三人の王子』が元ネタになっていますのでぜひこちらの物語もおすすめしたいです。彼がセレンディピティにここまで思いを懸けたのもこの物語があったからこそです。ぜひ合わせて手に取ってみてはいかがでしょうか。
さて、ここまでアーサー・C・クラークの『スリランカから世界を眺めて』を紹介してきましたが、一番最初の本紹介にありますように本書はスリランカに関するエッセイだけでなく自伝的な趣もある作品となっています。いや、というより、本書のほとんどが宇宙や科学に関するものとなっています。その中でスリランカそのものに直結する話は実はそれほど多くありません。ですので本書はスリランカについて関心のある方だけでなく、SFファンにとっても刺激的な一冊となることでしょう。
もちろん、その少ないながらもスリランカについて書かれた箇所がいかに優れたものであるかは言うまでもありません。スリランカについて知りたい私としてはこの国に関する珠玉のエッセイを読むことができて大満足でした。
『2001年宇宙の旅』は多くの人が知る名作中の名作ですが、この作者がスリランカを愛していたというのは私も今回初めて知ることになりました。きっと皆さんの中にも驚かれた方もおられるのではないでしょうか。これをきっかけにスリランカについて興味を持って頂けましたら私としても嬉しい限りでございます。ぜひおすすめしたい一冊です。
以上、「A・C・クラーク『スリランカから世界を眺めて』~『2001年宇宙の旅』で有名なSF作家のスリランカ愛を知れるエッセイ集」でした。
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