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肥塚隆、田枝幹宏『美術に見る釈尊の生涯』概要と感想~中村元推奨!仏伝をインド美術のビジュアルで見ていく画期的作品!

釈尊の生涯
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肥塚隆、田枝幹宏『美術に見る釈尊の生涯』概要と感想~中村元推奨!仏伝をインド美術のビジュアルで見ていく画期的作品!

今回ご紹介するのは1979年に平凡社より発行された肥塚隆著、田枝幹宏写真『美術に見る釈尊の生涯』です。

釈迦が白象になって母の胎内に入る場面 Wikipediaより

この本はブッダの生涯をインドにある仏教美術を通して見ていく作品です。ブッダの生涯を説く本は数多くあれど、本家本元のインド美術を中心にそれを解説していく作品は実はかなり貴重です。

私がこの本を手に取ったのは中村元著『ゴータマ・ブッダ』でこの本が絶賛されていたからでした。その本の中で中村元先生は次のように述べています。

釈尊を仰ぎ見る人びとにとって、釈尊の生活と生涯はどのようなものであったかということは、切なる想いを籠めた憧れにも似たものであった。われらの祖先は、単に仏像を礼拝し読誦するだけでは満足できないで、釈尊の生涯を具象的に絵画で表現しようとした。仏伝の一種である『過去現在因果経』の経文本文のあいだに美麗な絵を挿入した「絵因果経」という特殊な芸術作品をつくりあげたのは、まさにこのような憧れの結晶であった。

ところがその絵を見ると、六朝時代また唐時代の中国人の生活・服装・建築をもとにして描いてあるので、かつてインドに出現した歴史的人物としてのゴータマ・ブッダの実際の生活とはかなりかけ離れたものになってしまった。

では歴史的人物としてのゴータマ・ブッダの実際のすがた、行動を如実に把捉するにはどうしたらよいか。

今日ではこの偉大な師のすがたに肉迫する道がかなり開かれてきた。

⑴インドの風土を知り、それが現実の人間に対してどのような威力・影響力をもっているかを体験することである。

⑵さらに進んで当時の遺跡、いわゆる(仏跡)を考古学的に検討することである。遺されたものは、現在のわれわれになにごとかを語ってくれる。

⑶インドには仏伝に関する彫刻が多数残されている。絵画は、グプタ王朝以前のものとしてはほとんど残っていないが、彫刻は相当に発見されている。それらには仏伝の諸場面を克明に表現しているものがある。

これらを綜合して文献と精細に対比考察するならば、釈尊の生涯を具象的に把捉することができるであろう。

こういう効果を目ざしたものとしては、ここに刊行されるこの『美術に見る釈尊の生涯』なる書はまさに絶好の労作である。

むろんいままでにこのような試みが全然なされなかったわけではない。しかしこの書のように、現実に肉迫した書はいままでになかったといっても過言ではないであろう。

主要部分の写真はすべて田枝幹宏氏が撮影されたというが、さすがに専門の写真家の手になるものであるから、細部にわたって明暗がくっきりと写し出されているし、また現地にたびたび赴かれて苦労されただけあって視点も確かである。

これらの写真を肥塚隆氏が精細に検討・解説され、さらに自身の撮影になる写真を解説のなかに加えられたが、その分析は解りやすく、鋭い。同氏はインド美術史専攻であるが、サンスクリット原典についての基礎的研究をされ、両方を兼ねている珍らしい研究者である。

この両篤学者の緊密な協力になったものであるから、この書が断然すぐれたものであるということは言をまたないであろう。とくにこの書の特徴として世に推奨し得るのは、従前のインド美術史には出ていない独自の珍らしい写真がいくつもあるということである。さすがに見識をもって実地に踏査された両氏の業績であると感嘆する。

春秋社、中村元『ゴータマ・ブッダ』上巻P15-17

中村元先生がここまで絶賛する本ならばぜひ読んでみたいと思い、私はこの本を手に取ったのでありました。

そしてこの本を読んで、中村元先生が言わんとしていたことの意味がよくわかりました。たしかにこの本では普段私たちがあまり見ることのないブッダの姿を見ることができます。中国や日本で書かれた絵ではなく古代インドの彫刻でブッダやその社会を見ると明らかにその印象が違います。その彫刻が作られた当時のインドの風習や雰囲気がリアルに伝わってくるようです。

こういう世界に実際にブッダが生きておられたのだということを感じることができます。

解説も非常にわかりやすいので、パッと見てはわからないような彫刻もその意味するところをクリアに理解することができます。

本のサイズ自体もかなり大きいので写真もかなりアップで見れるのも嬉しいポイントです。

この本を読んでいると実際に現地でこれらのインド美術を見てみたくなります。どこで出土してどこに展示されているのかも掲載されていますのでインド旅行の際の参考になることも間違いなしです。

これはいい本と出会いました。中村元先生が推奨するのもよくわかります。なかなか手に取りにくい作品ではありますがぜひおすすめしたい一冊です。

以上、「肥塚隆、田枝幹宏『美術に見る釈尊の生涯』~中村元推奨!仏伝をインド美術のビジュアルで見ていく画期的作品!」でした。

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美術に見る釈尊の生涯 (1979年)

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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