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M・J・ドハティ『インド神話物語百科』~ヒンドゥー教の大枠や時代背景を知れるおすすめ解説書!
今回ご紹介するのは2021年に原書房より発行されたマーティン・J・ドハティ著、井上廣美訳の『インド神話物語百科』です。
早速この本について見ていきましょう。
象の頭のガネーシャから凶暴な青い女神カーリーまで、魅力的な神々を紹介し、インドの宗教の発展、主要な経典や詩・神話・物語をわかりやすく説明。多数の図版・写真により、ヒンドゥー世界とインド神話の歴史を、インド二大叙事詩にしてもっとも重要な聖典「マハーバーラタ」と「ラーマーヤナ」を主軸に解説する。
Amazon商品紹介ページより
この本はインドの宗教を学ぶ入門書としておすすめの作品です。著者のマーティン・J・ドハティは以前当ブログでも紹介した『図説アーサー王と円卓の騎士』の著者でもあります。
ドハティは単に物語の内容を語るだけでなく、その時代背景や文化の奥深さまで語ってくれます。
今作『インド神話物語百科』においても「どのような宗教であれ、その宗教を理解するには、その背景となる社会や文化、その文化が形成された歴史を知ることが不可欠である(P13)」とドハティが述べるように、ヒンドゥー教が成立していく時代背景も知れる非常にありがたい構成となっています。
では、この本の中で特に印象に残った箇所をここで紹介したいと思います。
全体的に見ると、ヒンドゥー教の文献は宇宙の創造や本質についての事実を提示してはいない。その代わりに、思索と疑問の提起がある。読んでも答えが示されているわけではなく、宇宙の謎についてじっくりと考えるよう促しているように感じられる。しかも多くの文献は、死すべき運命の人間が宇宙のような広大なものを正しく理解することなどとても無理だと認めている。
原書房、マーティン・J・ドハティ著、井上廣美訳『インド神話物語百科』P21
こうした神々の数や呼称・属性・事績についてさえ認識の一致が不可能だということがフラストレーションの種になるのか、それともインスピレーションの源になるのかは、これをどのような視点から見るのかによって大きく異なる。ヒンドゥー神話は世界に向けてきちんと提示された一連の事実ではなく、むしろ、じっくり考えれば新たな真理や新たな疑問をもたらしてくれるような無限の謎だ、と言う人が多い。ヒンドゥー神話は宇宙を解き明かすどころか、人間の頭を悩ます謎を提示する。たとえ万物の成り立ちが不明確なままだとしても、そこには自己認識が存在する。
原書房、マーティン・J・ドハティ著、井上廣美訳『インド神話物語百科』P77
人間には世界の真理を知り尽くすことができない。神話そのものも答えを与えてくれない。だが、「そこには自己認識が存在する」。
この解説に私はぐっと来ました。これまで私は「親鸞とドストエフスキー」をテーマに4年ほど学んできましたが、キリスト教的な世界観では「絶対的な真理などない」という発想はほとんど出てきません。絶対者・創造主である神の存在は自明のものとしてそこに存在しています。しかしインドではそうではなかった。こうした西洋東洋の違いを感じられるのも興味深い点です。
そしてこの本を読んでいると、ヒンドゥー教の死生観や来世観についても知ることになります。当時の時代背景と絡めながらそれらのことを考えていくと、仏教というものがまさに「インドの文脈」から生まれてきたのだということを強く感じることになりました。
仏教の思想やそこで使われる用語、概念がまさにヒンドゥー教の世界から生まれてきたのだということを改めて実感したのです。仏教から遡りインドの歴史や文化を知ることで見えてくるものがある。それを確信した読書になりました。これは面白いです。仏教に対する新たな視点をくれる素晴らしい作品だと思います。
ぜひぜひおすすめしたい一冊です。
以上、「M・J・ドハティ『インド神話物語百科』~ヒンドゥー教の大枠や時代背景を知れるおすすめ解説書!」でした。
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