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松岡和子『すべての季節のシェイクスピア』概要と感想~シェイクスピア演劇の奥深さ、楽しさを学べる珠玉のエッセイ集!
今回ご紹介するのは2022年に筑摩書房より発行された松岡和子著『すべての季節のシェイクスピア』Kindle版です。
早速この本について見ていきましょう。
2021年、シェイクスピア全集、個人全訳を完結した著者は、翻訳を開始する直前、年間100本以上のシェイクスピア劇を観続けていた。代表的14作品を、演じられた舞台に即して「男と女の力学」「闇の中の輝き」「この世は仮装パーティ」等のテーマに分類し、掘り下げていく。シェイクスピア劇が10倍楽しくなるエッセイ。文庫化にあたり、全集最終巻「終わりよければすべてよし」についての書下ろしと全作品翻訳開始後のインタビューを加えた。
Amazon商品紹介ページより
正直、私は今困っています。
この本をどう紹介していいのかどうしても頭に浮かんでこない・・・
面白かったところ、興味深かったところを引用して、それについて思う所を書けばいいではないか。
いや、そうなのです。ですが、それがうまくできないから困っているのです。
と言いますのも、どの章を読んでも面白かったのと、そのどの部分を紹介したらいいのかというのがうまくまとまらないのです。
言うならば、「全方位的に面白過ぎてどこをどう切り取ってお話ししても中途半端になってしまう」というのが今の私の状況なのです。これはブログ泣かせの本です。
「どこが面白かったの?」ー全部です。
う~ん、これでは何とも情けない・・・
もちろん、強く印象に残った箇所や面白かった箇所はたくさんあります。ですがそれを断片的に紹介してもどうにもならないといいますか、著者の松岡和子氏の様々な体験の中から大きな文脈を経て書かれているのがそれらの箇所であって、単独でその文を紹介したとしてもどうも宙に浮いてしまうような気がしてしまうのです。
さて、苦肉の策としてこの本の目次をご紹介しましょう。
第1幕 男と女の力学(『ロミオとジュリエット』―別れがこんなに甘く切ないなら
『夏の夜の夢』―何もかもが二重に見える ほか)
第2幕 闇こそ輝く(『リチャード三世』―歩きながら俺の影法師を眺めていられるよう
『ヴェニスの商人』―ああ、俺のキリスト教徒の金 ほか)
第3幕 この世は仮装パーティ(『間違いの喜劇』―この世界にとって俺はひとしずくの水
『お気に召すまま』―ひと目惚れでなければ恋にあらず ほか)
第4幕 時間がみた夢(『リア王』―忍耐だ。我々は泣きながらここへやってきた
『冬物語』―並居る皆様を驚かせて差し上げて ほか)
第5幕 視線の政治学(『ハムレット』―見られずに見て…
『終わりよければすべてよし』―失ったものを褒め称えれば、思い出は貴重になる)
筑摩書房商品紹介ページより
このように、それぞれの作品についてのエッセイが書き連ねられているのが本書になります。
本紹介にもありましたように圧倒的な数の演劇、演劇人と触れ合ってきた著者の経験はすさまじいものがあります。
私はこの本を読んでいて、そのシェイクスピア演劇の奥深さと言いますか、無限の幅を感じました。「あ、ここはそう理解していけばいいのか!」「なるほど、ここはそうやって作られていったのか!」「え?そこからそういう解釈の演劇もありなんだ!」という目から鱗の発見がどんどん出てきます。
シェイクスピア作品を私は舞台に観に行ったり本で読んでいるわけですが、舞台と本の違いということを特に意識させられた読書になりました。
これは盲点でした。「書かれていること」だけでなく、「書かれていないこと」にまで思いを馳せることができるのか、これが演出家の腕の見せ所なのだということをこの本から教えて頂きました。
あら不思議、あんなに困っていたのに目次を引用してみたら自然とここまで書けてしまえました。
いやぁ素晴らしい本でした。シェイクスピアファンだけでなく、演劇に興味のある方にもぜひおすすめしたい作品です。
以上、「松岡和子『すべての季節のシェイクスピア』~シェイクスピア演劇の奥深さ、楽しさを学べる珠玉のエッセイ集!」でした。
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すべての季節のシェイクスピア (ちくま文庫)
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私もシェイクスピアが好きなのですが、この本を読んだらもうものすごく現地に行ってみたくなります。そういう意味ではある意味危険な書物かもしれません(笑
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