C・ハメル『中世の写本ができるまで』あらすじと感想~意外と知らない中世の筆記具や本の作り方!本好きにおすすめ!
C・ハメル『中世の写本ができるまで』概要と感想~意外と知らない筆記具や本の作り方!本好きにおすすめ!
今回ご紹介するのは2021年に白水社より発行されたクリストファー・デ・ハメル著、加藤磨珠枝監修、立石光子訳の『中世の写本ができるまで』です。
早速この本について見ていきましょう。
解説を聞きながら鑑賞するような楽しみ
写本制作は盛期ルネサンスまで千数百年にわたって、多様な環境のもと、ヨーロッパの津々浦々で行なわれてきた。その特徴としてすべての事例にあてはまるものがないほどだ。本書はそんな中世の彩飾写本(彩色だけでなく金か銀が施されているものをこう呼ぶ)が作られる工程を、制作に携わったひとびとの視点に寄り添う形で、写本研究の第一人者が解説していく。
中世に使われていたインクやペンは、今日使われているものとは性質も製法も異なった。挿絵の中の写字生は現代のペンとは違った持ち方をし、文字もじっくり観察すれば、現代のアルファベットとは書き順が異なる。同様に、「挿絵のデザインは誰がどうやって決めたのか」?「インクで書き間違えてしまったら、どう対処したのか」?「羊皮紙ヴェラムの最高級品は本当に牛の胎児の皮製なのか」?といった、写本を鑑賞するうちに浮かんでくる疑問の数々が、オックスフォード大学ボドリアン図書館所蔵の写本を中心とする多数の図版とともに検討される。
西洋中世写本の愛好家にその魅力を伝えつつ、専門家にも貴重な写本の細部について、新たな世界を開いてくれる一冊。
Amazon商品紹介ページより
この本は中世の写本がいかに作られていたのかということを解説した作品になります。
写本といえば私も2019年にプラハのストラホフ修道院でその現物を目にしてきました。
まずは『聖書』。
これは羊皮紙に手書きで書かれたもの。
正確な年代は失念してしまいましたが、何百年も前に書かれたものがこんなにきれいに残っています。
羊皮紙は読んで字のごとく、ヒツジの皮でできた紙。
大量生産はできないが非常に丈夫です。
そのためこのような大きくて重要な書物に使われるようになっていきました。
では、なぜここに手書きの『聖書』が展示されているのでしょうか。
それはこの修道院がどのような目的を持って組織されているのかということを示す鍵になるものだからです。
修道院とは何かということについては、「教会と修道院の違いを考える-ベツレヘム・断崖絶壁のマルサバ修道院 イスラエル編⑲」の記事でも紹介しましたが、基本的には神への祈りのために俗世を離れて修行する場所とお話ししました。
それから時代を経て、ものを生産しながら祈る修道院や、学問を中心とした修道院など様々な形をとった修道院が現れていきます。
そしてこのプラハのストラホフ修道院はその中でも学問を中心にした修道院なのでした。
この修道院がどのように学問の中心として有名になっていったのか。
それを辿るためにはこの手書きの『聖書』が一番重要な鍵になります。
かつて本は大変高価なものでした。
キリスト教を学びたいと志しても、本が手に入らなければそもそも学びようがありません。
そこで多くの人と本を共有し、さらにその本を書き写すことで貴重な『聖書』の数を増やしていこうとしたのです。
これがお祈りに並ぶ、修道院の重要な役割です。
そしてこのストラホフ修道院のように、学問を重視した修道院だとヨーロッパ中から有能な学生が集まってくるようになります。
するとその分だけ『聖書』の需要は増し、さらにはその注釈書などの様々な本が持ち込まれ書写が続けられていくのでした。
そしていつの間にかこの修道院は膨大な書物と優秀な知性が集う大学のような場所になっていったのです。
それから1492年のコロンブスによるアメリカ大陸発見の後、世界は大航海時代の幕開けとなり、教会もはるか遠方の地へ宣教の旅へと漕ぎ出していくことになります。
その一人が日本でもお馴染みのザビエルです。
そうなってくると必要なのは何でしょうか。
天文学の知識です。
星が読めなければ大いなる海のど真ん中でただ死を待つしかありません。
そしてさらには、
航海日誌です。
こうなってくるとありとあらゆるジャンルの学問がこの修道院に集められ、優秀な頭脳によって研究が進められていきます。
そしてまた新たな発見が生まれ、その発見はまたさらなる研究の材料となります。
こうした循環が修道院の中で生まれ、世界の知識はここで加速度的に増えていくことになったのでした。
その知識は国王や貴族、そして当時力をつけてきた商人も見過ごすことはできないほど。
修道院で学ぶ優秀な知能を持つ人間をいかに自分たちの側に引き入れるのか・・・
強力なライバルが世界規模で覇権を争う時代に、修道院で磨かれた知性はいつしか彼らの世界戦略にはなくてはならないものとなっていったのでした。
さて、ここまでストラホフ修道院の写本についてお話してきましたが、ガイドさんの解説と共に見た写本のことを思い出しながら本書『中世の写本ができるまで』を読むのはとても楽しい読書になりました。上に述べた事柄は直接この本で語られていたこととは異なる点もありますが、写本がなぜ修道院でたくさん残されていたのかという点は共通でした。
そしてこの本で特に興味深かったのが写本を作るために必要な道具の解説でした。
文字を書く羽ペンはガチョウや白鳥の羽を用い、ペン先をナイフで削って作っていたということや、インクの作り方など、意外と目がいかないポイントもわかりやすく解説してくれたのはとても面白かったです。
また、写本に付き物の美しい絵を描くために使った染料、特にラピスラズリについて知れたのはとてもありがたかったです。
ラピスラズリはウルトラマリンとも呼ばれ、あのフェルメールが愛用した染料として有名です。希少なものだったのでかなり高額ではありましたがその色合いの美しさは圧倒的なものがありました。これも豪華な写本で用いられていたそうです。
他にも写本に関する様々な豆知識をたくさん知ることができます。写真が多数掲載されていますので非常にイメージしやすいのもありがたいです。この本の前半に羊皮紙の作り方も写真で見れるのですがこれはかなり衝撃です。「こうやって作るのか!」と私も驚きました。ぜひぜひ見て頂きたい写真となっています。
この作品は本好きにぜひおすすめしたい作品となっています。私たちが愛する本はかつてどのように生産されていたのか。これは意外と目が行かない部分ではありますがいざ知ってみるとものすごく面白いです。
ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
以上、「C・ハメル『中世の写本ができるまで』意外と知らない中世の筆記具や本の作り方!本好きにおすすめ!」でした。
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