『グローバル経済の誕生 貿易が作り変えたこの世界』あらすじと感想~世界市場の歴史を知るのに最適な1冊!マルクス主義を学ぶためにも
ケネス・ポメランス、スティーブン・トピック『グローバル経済の誕生 貿易が作り変えたこの世界』概要と感想~世界市場の歴史を知るのに最適な1冊!
今回ご紹介するのは2013年に筑摩書房より発行されたケネス・ポメランス、スティーブン・トピック著、福田邦夫、吉田敦訳の『グローバル経済の誕生 貿易が作り変えたこの世界』です。
早速この本について見ていきましょう。訳者あとがきではこの本について次のように述べられています。
本書は幅広い読者を対象として書かれたものであり、世界経済が誕生するプロセスやグローバリゼーションの流れが様々な実例を通してわかり易く描かれている。本格的な論考ではあるが、専門書として書かれたものではなく、そのため原書には注がないので、訳注によって補った。
本書は簡潔なストーリーで構成されているので、タイトルを見て興味をもった章や節から読み始めることができる。民衆や奴隷、移民、名もない農民の姿に焦点を当てているのも特徴であり、また、何よりも歴史上、「遅れた地域に文明の光をたずさえた英雄」とされてきた人物(コロンブスやラッフルズ等)も、実は強力な欲望に突き動かされていたということが明らかにされる。
それだけではない。砂糖やジャガイモ等、われわれが何気なくロにしている食べ物の背景には、人びとの深い悲しみやよろこびの歴史があったということがわかる。歴史は決して現在から切り離された出来事ではなく、まさにわれわれの日常生活と深い関係を持っているということを実感するだろう。
本書の目的について著者は以下のように述べている。
「われわれは本書で、グローバル経済とは何か、またグローバル経済はどのようにして形成されたかということに関する幾つかの主要な考えを統合することを試みた。多くの人々が認めているヨーロッパ人こそが歴史の原動力である、というヨーロッパ中心主義に基づく教義には根拠がない。そうではなくて、世界経済は長年にわたって存在してきたのであり、非ヨーロッパ人こそが世界経済を形成する上で決定的に重要な役割を果たしたということを主張したいと思う。確かにヨーロッパ人は大いに有利な立場に立っているが、彼らは暴力を行使することによって、あるいは運によって歴史に登場したのだ(ヨーロッパ生まれの病気が新世界の社会を荒廃させ、広大な地域を征服することを可能にしたことを銘記すべきだ)。ヨーロッパ人は、一八世紀になってから優れた生産テクノロジーを持つようになったのであり、最初からヨーロッパ人だけが旺盛な企業家精神を持ち、また社会的適応性を持っていたという疑問である」(一三頁)。
また本書を読めば、近代の企業家たちの経済的土台の多くが、勤勉や節約によって築かれたのではなく、暴力や略奪によってもたらされたのだということがよくわかるだろう。
筑摩書房、ケネス・ポメランス、スティーブン・トピック著、福田邦夫、吉田敦訳『グローバル経済の誕生 貿易が作り変えたこの世界』 P417-8
今作の著者二人のプロフィールもご紹介します。
マルクスを学ぶために手に取ったこの本でしたが、この本はマルクス主義者によって書かれた本ではありません。歴史学の研究者によって書かれたグローバル経済、世界市場の歴史解説書が本書になります。
上の解説にもありましたように、本格的な内容ながら非常に読みやすい作品となっています。
この本は世界全体を見渡し、あらゆる角度からグローバルな市場を見ていきます。どのようにしてヨーロッパが世界中を市場化していったかを学ぶのに最適な一冊となっています。
この本がどれだけ多岐にわたって論じているかは以下の目次を見て頂ければきっと伝わるのではないかと思います。
この本はとにかく視野が広いです。あらゆる地域のローカルな社会事情に注目して貿易の歴史を探っていきます。
この本の中で特に私の印象に残ったのは第3章の「ドラッグ文化の経済学」でした。ここでは私たちがもはや手放すことのできない砂糖やチョコ、コーヒー、茶の歴史が語られます。さらにその名の通りアヘンやコカなどの危険な薬物についてもここでは語られます。
私たちが普段親しんでいる砂糖やコーヒーはどのようにして世界に流通していったのか、そしてそれは世界にどのような影響を与えたのかということがわかりやすく解説されます。
砂糖やコーヒー、茶、チョコも元々はドラッグとして服用されていました。そしてその味や効用、中毒性はたちまちに人々を魅了し高価な貿易商品になりました。そしてこのドラッグ食品は世界を動かす品物へとなっていきます。少し長くなりますが特に私が印象に残った箇所を紹介します。
コーヒーに砂糖を入れて飲みながら、また新世界で奴隷によって生産されたタバコをパイプでふかしながら、フランスの革命家は、気高い『人権宣言』の下書きを書いたが、何の矛盾も感じていなかった。
イギリス人貿易業者は、中国人を麻薬中毒者に陥れるために船の右半分に積んできたアヘンを売りさばき、左半分には麻薬中毒者を救済するための聖書を積んで持ち込んできて配ったという史実がある。これは、「宗教は一般大衆のアヘンだ」と言ったマルクスの名言と、「アヘンは一般大衆の宗教となった」と言ってマルクスに反論したニ〇世紀のイギリスの知識人双方の主張を裏付けている。
こうしたドラッグ食品でヨーロッパや北アメリカの消費者は、大いに楽しんだにもかかわらず、アフリカやアジアの生産地では、ドラッグの生産者に対して過酷な搾取が行われ、農民からは土地が奪われ、貧困が生み出されているということを気にかけることなどしなかった。
ドラッグ食品は、豊かな地域で消費されるのに、貧しい国々で生産され、金持ちをさらに豊かにしてしまった。ドラッグ食品は、消費国よりも生産する国に対し、実に様々な影響を与えた。ドラッグ食品は、ヨーロッパや北アメリカで、一部の人々の富を増やし、社会全体を貨幣社会に変え、賃労働者を増大させるという役割を担ったが、生産する国では奴隷制度を次々に拡大したのである(3章6節、5章1節・5節参照)。
こうしたドラッグを栽培するためには、強制的な奴隷労働が必要とされたからだ。欧米の国家は、アフリカの奴隷貿易の場合と同じように、奴隷が逃げ出さないように監督したり、ドラッグの生産を効率的に組織したりした。
一九世紀の中国の南西部、今日のビルマやコロンビアに当たる地域では密輸品が生産されていたが、これは暴力や犯罪を増幅させた。ドラッグは、国家の経済的基礎であったが、同時に国家を破滅させるものでもあったのだ。
このように、最初、それがもたらすこの世の楽しみのために消費されたドラッグ食品、すなわち「天国の味覚」は、生産に携わった人々が後になって、実は悪魔のものだったと気づくような産物となった。いずれにせよ、ドラッグ食品は、世界経済を築いたものとして認識されなければならない。
※一部改行しました
筑摩書房、ケネス・ポメランス、スティーブン・トピック著、福田邦夫、吉田敦訳『グローバル経済の誕生 貿易が作り変えたこの世界』 P123
コーヒーに砂糖を入れて『人権宣言』を書いていたフランス人というのは絶妙な表現だなと思いました。フランス革命は理想視されがちですが、当時の時代を学ぶとその実態も知ることになります。この革命については当ブログでも何度もお話ししてきましたが、その実態を端的に表しているなと感じました。
また、一番最後の『「天国の味覚」は「悪魔のもの」だった』という恐るべき一文。
私もコーヒーが大好きで毎日飲んでいます。ですがそれは「悪魔のもの」に他ならない・・・もちろん、時代は違えど今もそうした構図はなくなってはいません。
こうした世界市場について広い視野で学べるのがこの作品です。
マルクス主義においては、「資本主義がこんな世界にしたのだ」と述べられることが多いですが、この本を読めばことはそんなに単純ではないことに気づかされます。
たしかに「資本主義」が多大な影響を与えているのは事実です。ですが個々の場においては様々な事情や要因が働いて社会は成り立っています。単に「資本主義がすべて悪いのだ」で止まってしまったら重要なものを見落としてしまいかねません。
世界は複雑に絡み合って成り立っていることをこの本では学べます。
幅広い視野から貿易の歴史を知ることができるおすすめの1冊です。
以上、「『グローバル経済の誕生 貿易が作り変えたこの世界』世界市場の歴史を知るのに最適な1冊!マルクス主義を学ぶためにも」でした。
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