マルクス『賃労働と資本』あらすじと感想~マルクスの代名詞「剰余価値」とは。『資本論』の入門書として評価される作品
マルクス『賃労働と資本』概要と感想~マルクスの代名詞「剰余価値」とは。『資本論』の最適の入門書として評価される作品
今回ご紹介するのはマルクスによって1849年以降に『新ライン新聞』で一連の論説として掲載されたものをまとめて発表した『賃労働と資本』という作品です。
私が読んだのは岩波書店より1935年に発行された長谷部文雄訳の『賃労働と資本』2015年第89刷版です。
早速この本について見ていきましょう。
労賃とは何か,それはいかにして決定されるか,という身近な問題から出発して価値法則を簡潔に説明し,剰余価値の成立を明らかにする.マルクスがこれを『新ライン新聞』に連載してから百数十年,資本制的搾取の仕組を暴露したこのパンフレットは世界各国の労働者に広く読みつがれて来た.『資本論』研究のための最良の手引書.
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この作品は上の引用にもありますように『資本論』の入門書として評価されている作品です。
この本の序言では次のように書かれています。
いまや、『賃労働と資本』が、マルクスによって指導された最初の共産主義的日刊新聞たる『新ライン新聞』の欄に現われてから、すでに八十四年になる。しかもなお、資本制的搾取にかんするこの立派で平易な叙述は、ちっとも陳腐になってはいない。それは爾来、数多くの版で、また数多くの国語で、大衆パンフレットとして労働者たちの間に流布された。そして、なお資本制的搾取が存続するかぎりは、マルクス主義の宣伝の主要な道具としてのその意義を失わないであろう。
岩波書店、マルクス、長谷部文雄訳『賃労働と資本』P9
実はこの序文は1933年にモスクワの「マルクス・エンゲルス・レーニン研究所」によって書かれました。「資本制的搾取が存続するかぎりは、マルクス主義の宣伝の主要な道具としてのその意義を失わないであろう」という言葉からもソ連的なイデオロギーが感じられる点が興味深いです。
そしてこの序文ではさらにこう述べていきます。
マルクスが彼の経済学的諸発見を最も広汎な労働者大衆のまえに説明したこの著述の「導きの糸」は、ブルジョワジーとプロレタリアートとの階級利害は宥和しないということである。換言すれば、ブルジョワジーの転覆のみが、プロレタリアートの独裁獲得のみが、賃銀奴隷状態を打破しうるという理論である。この理論を普及させることがまさに今日こそ特に緊急だということを。誰が否認しようか?
岩波書店、マルクス、長谷部文雄訳『賃労働と資本』P10
そして最後にこう述べます。
第一次五カ年計画の厖大な諸成果は、レーニンおよびスターリンによって継続されて現在の時代に適用されたマルクスの経済学説の正しさの、より広大な確証である。第二次五カ年計画がソヴェト連邦の労働者たちの課題としている「経済における・および人力の意識における・資本主義の残滓」の除去のための闘争においても、『賃労働と資本』は、依然として価値多い宣云用の武器である。
岩波書店、マルクス、長谷部文雄訳『賃労働と資本』P16-17
ソ連がマルクスをどのように利用していたかが非常にわかりやすい文章ですよね。マルクスの思想を「宣伝用の武器」であると捉えている点は注目すべき点であると思います。
そしてこの本ではこの序言のあとにエンゲルスによる前書きが掲載されています。こちらではこの作品の成立過程や解説が述べられています。
そして『賃労働と資本』本文ではマルクスの代名詞である「剰余価値」とは何かということが語られていきます。
これを読んでいると「労働者は資本家に不当に搾取されているのだ」という気分にたしかになってきます。理論的なことも書かれているのですが、入門書として最適と言われてはいるもののやはり難しい。
そしてこうした理論的なところを読んでいてふと思ったのは、「当時の労働者はこれを読んではたしてその理論を理解していたのだろうか」ということでした。
さらに言えば、「この本で労働者が受け取るものは『資本家は不当に搾取する悪人だ』という感情しかないのではないか」という疑問でした。
当時の労働者の教育水準はどれくらいだったのか私には詳しい所までわかりません。ですが高度な理論をすぐに理解できる労働者がどれだけいたのでしょうか。
この作品は大衆の宣伝として用いられることが多かった作品です。いくら剰余価値の理論の解説をわかりやすく語っているとされているとはいえ、なかなか厳しい内容なのではないでしょうか。
そうなってくるとこの本の中のわかりやすくてセンセーショナルの部分が大衆に響いていくことになります。
「資本家は不当に搾取する悪人だ。なぜなら「剰余価値」が~~云々・・・」
資本とは何か、労働力とは何か、剰余価値とは何かとこの本では解説されるのですが、それはマルクスが資本における前提を設けて考察し、理論を述べたものです。その前提が本当に正しいものか、理論が正しいかをその場で検証することなど労働者にできたのでしょうか。彼らはこうした理論を聞いて、きっと次のように感じたのではないでしょうか。
「何かよくわからないがマルクスがこう断言しているのだし、教えてくれた人もそれが正しいって言っているのだしそうなのだろう・・・そうだ!資本家が搾取してるんだ!奴らは悪だ!剰余価値だ!」
こうして労働者の間に資本家への不満が広がっていったのではないかと私は想像してしまいました。
たしかにこの作品を読んでいて「なるほどなぁ」と思う点もありますし、いかにして搾取が行われているかわかりやすい流れで書かれています。
しかし、それが本当に正しい理論なのかというと、それはかなり厳密に検証していかなければならないものだと思います。簡単に矛盾を指摘できたりするようなやわな理論だったらここまで世界に影響を与えることなどできなかったでしょう。やはりマルクスの理論は難しい。ですがそれにも関わらず人を動かす圧倒的な煽動力がある。ここにマルクス思想の強さがあるように感じました。
以上、「マルクス『賃労働と資本』概要と感想~マルクスの代名詞「剰余価値」とは。『資本論』の入門書として評価される作品」でした。
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