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トーマス・ニッパーダイ『ドイツ史 1800-1866』あらすじと感想~ゲーテ、マルクスらを生んだ18~19世紀ドイツの時代背景を知るのにおすすめ!

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トーマス・ニッパーダイ『ドイツ史 1800-1866』概要と感想~ゲーテ、マルクスらを生んだ18~19世紀ドイツの時代背景を知るのにおすすめ!

今回ご紹介するのは2021年に白水社より発行されたトーマス・ニッパーダイ著、大内宏一訳の『ドイツ史 1800-1866』です。

この作品はマルクス・エンゲルスの伝記というわけではありませんが、彼ら二人を生んだ19世紀ドイツの時代背景を知るのに最適な作品です。

では、早速この本について見ていきましょう。

名著の誉れ高い「新しい古典」、待望の邦訳!

19世紀の幕開けから普墺戦争まで、ナポレオンからビスマルクまでを網羅する、泰斗による本格的な歴史書。バランスのとれた解釈の「全体史」。

ドイツ歴史学の泰斗、トーマス・ニッパーダイによる「十九世紀ドイツ史三部作」の第一巻である本書は、世紀の幕開けから普墺戦争まで、ナポレオンからビスマルクまでを網羅し、「新しい古典」として名著の誉れが高い大作だ。
ニッパーダイは、批判的・社会科学的な歴史学に対して、当時の状況や可能性に基づいて出来事を理解しようとする立場に立った。批判的歴史学の政治史解釈の一面性を鋭く指摘し、よりバランスのとれた解釈に道を拓いたといえる。本書では、政治的な出来事を中心とした叙述に留まらず、かつてカール・ランプレヒトが(「出来事史」に対して)「状態史」と呼んだもの、第二次大戦後の西ドイツでは「構造史」や「社会史」「社会構造史」などと呼ばれたものに、紙幅を大きく割いている。政治から生活・労働・経済・宗教・教育・学問・文化まで、各分野の研究成果を採り入れ、総合的・全体的に把握した圧巻の歴史書。
ニッパーダイはこの「十九世紀ドイツ史三部作」で「ミュンスター市歴史家賞」、「ドイツ歴史家賞」の栄誉に輝いた。図表多数・参考文献・人名索引収録。


Amazon商品紹介ページより

この本は上下巻合わせて1000ページを超えてくる大作ですが、中身も濃厚です。

この本は以下のような印象的な語りからスタートします。

出発点となったのはナポレオンだった。近代ドイツの最初の基礎が築かれた十九世紀初頭の十五年の間、ドイツ人の歴史、ドイツ人の生活と経験は、ナポレオンの圧倒的な影響の下に置かれる。この時代において、政治とは運命であり、そしてその政治とはナポレオンによる政治のことだった。

すなわち、戦争と征服、搾取と抑圧、ナポレオン帝国と新たな秩序がそれである。諸民族や他の諸国家が行動を起こす可能性は、それに順応するか抵抗するかのどちらかしか存在しなかった。この時代ほど、生活のあらゆる領域が権力政策と外部からの圧力に晒されていた時代は滅多にない。

国家と社会を大きく変えた大規模な諸改革も、自発的なものだったのであれ、あるいは不承不承のものだったのであれ、やはりこの圧力から決定的な影響を被っていた。

確かに、近代世界の基本的な諸原則が生命を吹き込まれた(そして同時代人たちに意識されるようになった)のは、フランス大革命によってであり、この大革命は世界史における画期となった。

しかしドイツ人にとって旧秩序の転覆が実際に体験されるようになったのは、ようやくナポレオンの下においてであり、軍人帝政という形を取ってであった。この基本的な事実を軽視することができるのは、イデオロギーに影響されて権力という現象に目を閉ざすようになり、もっぱら社会と「内政」のみに、そして構造のみに注目するような人たちだけであろう。
※一部改行しました


白水社、トーマス・ニッパーダイ、大内宏一訳『ドイツ史 1800-1866』P9

19世紀ドイツの思想、文化に決定的な影響を与えたのはナポレオンだった。そしてその影響はナポレオン後も国家による圧政という形で継続し、ドイツの思想に巨大な影響を与えていたと著者は語ります。

この本の特徴は18世紀末から19世紀にかけてのドイツの時代背景を様々な角度から詳しく見ていく点にあります。

上の引用の最後にありますように、思想、文化は当時の時代背景に大きな影響を受けます。ある一人の人間の思想や理論が世界を動かしたというのでなく、その背後には複雑な政治情勢、国際政治、歴史の流れが関係してきます。時代背景や歴史、文化を見ず、思想やイデオロギーありきで世界を語っていくことの危険性をこの本は指摘しています。

そして、私がこの本で特に興味深いと思った箇所は19世紀のドイツの宗教事情です。

無神論を説いたマルクスやエンゲルスを生んだドイツ19世紀は、社会的にもそのような空気が支配していたのかと思いきや、19世紀ドイツはものすごく宗教的な熱狂が強まっていった時代だったということがこの本では語られていました。

なぜこの時代にドイツでは宗教熱が高まっていったのか。

逆に言えば、なぜそのようなドイツでマルクス、エンゲルスのような人物が生まれてきたのか。

この流れは非常に刺激的で興味深いものがありました。

この箇所を読むだけでもこの巨大な本を読んだ価値があったなと思うほどでした。

このことについてはまた改めて紹介していく予定です。思想の流れもやはり時代背景に強力な影響を受けます。双方を学ぶことで見えてくるものがあるということをこの本を通して強く感じることになります。

これだけ大部な作品ですので読み切るのはなかなか大変ですが、ぜひおすすめしたい作品です。かなり多岐にわたって話が展開されますので自分の興味のあるところだけ読んでいくというのもありだと思います。全部を根詰めて読もうとしたらパンクすると思います。それほど情報量の多い作品です。

19世紀ドイツの全体像を眺めるのにとても役に立つ1冊だと思います。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「トーマス・ニッパーダイ『ドイツ史 1800-1866上下』ゲーテ、マルクスらを生んだ18~19世紀ドイツの時代背景を知るのにおすすめ!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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