『カレル・チャペックの闘争』あらすじと感想~ジャーナリスト・チャペックのファシズム・共産主義批判が説かれた魂の一冊!
『カレル・チャペックの闘争』概要と感想~ジャーナリスト・チャペックのファシズム・共産主義批判が説かれた魂の一冊!
今回ご紹介するのは1996年に社会思想社より発行されたカレル・チャペック著、田才益夫編訳『カレル・チャペックの闘争』です。
早速この本について見ていきましょう。
混迷する時代を読むためのヒントが一杯!!ナチ・ドイツの足音が近づき、脅威にさらされる小国チェコにあって、自らの良心をよりどころに四面楚歌の論陣を張った孤高のジャーナリストのコラム集。好評『コラムの闘争』に続くPART2。
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この作品は『ロボット』や『山椒魚戦争』、『白い病』などの作家として有名なチェコの天才カレル・チャペックの評論集になります。
チャペックは作家としてだけでなく、ジャーナリストとしての顔もありました。
そして彼は第二次世界大戦直前、ナチスに呑み込まれゆくチェコを憂い、筆で抵抗を続けました。
この本ではそうしたチャペックのファシズム批判や全体主義批判を読むことができます。
そして上の目次を見て頂ければわかりますように、この本では様々なジャンルの評論、コラムが掲載されていて、ジャーナリスト・チャペックの姿を知るには打ってつけの作品となっています。
その中でも特に印象に残ったのは『新聞讃歌』、『ペン試合の十二型または文字による論争の手引き』、『なぜ私はコミュニストではないのか』の三作品です。
『新聞讃歌』では新聞記者チャペックによる新聞論を聞くことができます。これが頗る面白いのでその一部をここで紹介します。
さて、みなさん方は新聞の中に猫が小鳥を捕まえたとか、三匹子供を産んだとかいう記事を見たことは一度もありませんよね。新聞の記事は常に、特殊な、異常な、しばしば、びっくりするような報道という形でみなさん方の目に止まります。
たとえば、怒った猫が郵便屋に噛みついたとか、ある学者が猫の血清を発見したとか、プリマスとかいうところでは九本の尻尾のある猫が生まれたとか、まあ、そういった類いの記事です。(中略)
したがって私が言いたいのは、すでにチェスタートンをさえも不安にしたように、新聞の世界は例外的な事件、非日常的な出来事、そしてしばしば驚異と奇跡そのものから作られているということです。
だから、もし新聞に家のことが書かれるとしたら、家が建っているということではなしに、焼けたとか、壊されたとか、少なくとも世界で一番大きいとか、とにかくこの世にある、あらゆる家の中でも飛び抜けて何かが普通とは違っているというのでなくてはなりません。
ウェイターは愛人を殺すような異常な性格である。出納係が保管すべき金を持って逃げるが、その愛人はレギオン橋からヴルタヴァ川に身を投ずるという悲劇的結末にいたる。自動車は記録樹立のための、衝突事故のための、子供または老婦人をはねるための機械であるとかです。
新聞に載るものはすべて劇的かつ多少警告的な様相をもってあらわれます。毎日の朝刊とともに世界は無数の驚愕、危険、それに叙事的出来事のひそむ野生の王国に生まれ変わるのです。
社会思想社、カレル・チャペック、田才益夫編訳『カレル・チャペックの闘争』P13-14
こう言われてみると「おぉ~なるほどぉ、たしかに!」と素直に頷ける言葉ですよね。
チャペックは小難しい言葉や文体を用いません。ジャーナリストとして誰にでも読みやすい文章を用い、本質を突いた鋭い見解を説いてくれます。
この新聞論も一見当たり前のことを言っているように見えますが、実はものすごく鋭い指摘ですよね。私達は新聞やメディア、今ではSNS等を用いて世の中の情報を得ていますが、それははたして本当に現実なのかとチャペックは問いを投げかけるのです。
ニュースは非日常を取り上げる。しかしそれを毎日毎日繰り返し見続ければそれが日常の現実に思えてくる。
いつの間にかニュースの世界が自分の世界へと変わっていき、自分達の周りの本当の日常の当たり前が見えなくなっていく。それをユーモアを交えながらチャペックは警告していきます。
ジャーナリストという、ニュースを書く側にいるチャペックだからこその説得力ある見解がここで説かれます。これは非常に興味深かったです。
そして次の『ペン試合の十二型または文字による論争の手引き』 。これはあまりにも面白かったので次の記事で改めて紹介します。これは私達が日々生きる上でも非常に有益なコラムです。
悪意ある人間がいかにして悪口や誹謗中傷を利用して敵をやっつけようとするのかをこのコラムでは見ていきます。
このコラムでは彼らの手口が非常にわかりやすく解説されます。
最近、誹謗中傷の問題がどんどん大きくなってきています。
正当な批判と誹謗中傷との違いを考える上でもこのコラムは非常に重要なものとなっています。詳しくは次の記事をご覧ください。
最後に、『なぜ私はコミュニストではないのか』。こちらもものすごい作品でした。
これまでも述べてきましたようにチャペックはファシズムに強い批判を加えていました。そして彼はナチスドイツだけではなく、全体主義と結びついているソ連のコミュニズム(共産主義)にもその批判を加えています。
このコラムの素晴らしい所は単にイデオロギー的にソ連のマルクス主義を否定しているのではなく、彼の思う所を一つずつ丁寧に語りかけるように述べていく点にあります。
感情的に相手をやっつけようとするような論争ではなく、理性的に、そして温かく人間味ある語りでコミュニズムのことや、社会のこと、貧困問題、経済問題について彼は語っていきます。
そして「はたしてコミュニズムとはいかなるものなのか」という核心にチャペックは進んで行きます。
それに、よくよく考えてみればそもそもこのコラムにおける「問いの立て方」からしてチャペックらしさが出ています。普通ならコミュニズムに不満があるならば「なぜコミュニズムは間違っているのか」という問いの立て方をすると思います。しかしチャペックは「なぜ私がコミュニストではないのか」という問いを立てます。
相手を否定するための問いなのか、自分の立場を表明するための問いなのか。
考えれば考えるほど、この違いはものすごく大きいように感じてきました。チャペックは絶対的な真理とか絶対的なイデオロギーというものに対して強い警戒心を持った作家です。それはこれまで当ブログでも紹介してきた『絶対製造工場』や『山椒魚戦争』でもその傾向が見られました。
当ブログではこの後にマルクスについても論じていきます。この記事ではチャペックのマルクス主義論は長くなってしまうので紹介できませんが、またの機会に改めて紹介していきたいと思います。
この本もチャペックらしさ全開で非常に面白い作品でした。ぜひぜひおすすめしたい一冊です。
次の記事では 『ペン試合の十二型または文字による論争の手引き』 より、悪口、誹謗中傷の手法を紹介していきます。悪口や誹謗中傷から自分の身を守るためにもとてもおすすめな内容となっています。
以上、「『カレル・チャペックの闘争』ジャーナリスト・チャペックのファシズム・共産主義批判」でした。
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