樋口裕一『ヴァーグナー 西洋近代の黄昏』あらすじと感想~ワーグナーの特徴を知るためのおすすめ参考書!
ワーグナーの特徴を知るためのおすすめ参考書!樋口裕一『ヴァーグナー 西洋近代の黄昏』概要と感想
ワーグナー(1813-1883) Wikipediaより
前回の記事「ニーチェとワーグナーとの出会い~ニーチェの思想形成におけるワーグナーの巨大な影響とは」でニーチェとワーグナーのつながりについてお話ししましたが、今回の記事ではそんなワーグナーの特徴を知るためにおすすめな参考書をご紹介します。
今回ご紹介するのは2010年に春秋社より発行された樋口裕一著『ヴァーグナー 西洋近代の黄昏』です。
早速この本について見ていきましょう。
ヴァーグナーの音楽と思想を中心にすえ、「書き方・話し方」の第一人者が解き明かす、近代文明の本質。「ひとつであること」をキーワードに、ヴァーグナー以前と以後のヨーロッパの精神や文化のあり方、その変化を描き出す。【「TRC MARC」の商品解説】
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内容(「BOOK」データベースより)
デカルト、バッハ、ベートーヴェン、スタンダール、R.シュトラウス…ヴァーグナーの音楽と思想を中心にすえ、「書き方・話し方」の第一人者が解き明かす、驚くほど分かりやすい近代文明の本質とは。著者について
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1951年大分県生まれ。早大で演劇を、立教大大学院でフランス文学を専攻。予備校における実績を活かした小論文と話し方に関する多数の著書で有名。クラシック音楽評論家としても活躍し、「熱狂の日」音楽祭にも2005年初開催時より関与。現在、多摩大学教授。
著者の樋口裕一氏は2004年に発行されたベストセラー『頭がいい人、悪い人の話し方』で有名です。
樋口氏はここで紹介されていますようにクラシック音楽に造詣が深く、特にワーグナーは40年以上も愛好しているそうです。そんな氏のワーグナー愛が溢れた作品となっています。
さらにこの本について見ていきましょう。上の本紹介にもありましたように著者は「ひとつであること」をテーマにワーグナーを論じていきます。序文ではその意味について次のように述べられています。
本書のねらい
では、なぜヴァーグナーは「ひとつであること」を、これほどまでに希求するのか。
私はこれについては、ヴァーグナーが「無前提の一体感」を失っていたからだと考える。ヴァーグナー以前には誰もが「ひとつである」ことを無前提に信じていた。すなわち、世界は統一の取れた秩序正しいひとつの全体であり、自分という存在もまた秩序正しい統一ある存在であり、世界と自分も統一をもってつながっているという確信を持っていた。ところが、ヴァーグナーにおいては、それが揺らいでいるのである。
いや、より正確にいえば、ヴァーグナーこそ、世界の誰よりも先にこのような確信に対して疑問を抱き、だからこそ必死に「ひとつであること」を求めた芸術家であった。
だが、考えてみれば、実は「ひとつであること」は、ヨーロッパ精神を、そしてヨーロッパ文化を、そしてもちろんのことヨーロッパ芸術を解く鍵ではなかったのか。
かつてヨーロッパの人々は、世界を、神が中心に存在する一体世界だと信じていただろう。しかし、そうした確信が徐々に揺らぎ、信仰を失い、そして、「世界がひとつの統一体である」という前提を失った。徐々に精神の一体性は崩壊し、世界は分裂したものとして認識されるようになった。
それにともなって文化や芸術も変化してきた。それこそがグレゴリオ聖歌からパレストリーナ、バッハ、モーツァルト、べートーヴェン、シューべルト、ヴァーグナー、そしてマーラー、リヒャルト・シュトラウス、シェーンべルク、ジョン・ケージへと続く音楽の変貌の背景だったのではないか。
本書は、そのような私の認識に基づいて企画したものである。
私は、「ひとつであること」という概念をキーワードにして、ヴァーグナー以前と以後のヨーロッパの精神、そしてヨーロッパの文化のあり方、その変化の仕方について描き出したい。
この試みは、ヨーロッパ精神の背景を描き出すと同時に、ヴァーグナーの精神を解きほぐし、近代の考え方の根本について肉薄するヒントになるはずである。そしてまた、あれほど豊穣であったヨーロッパ近代の〝クラシック音楽〟が〝現代音楽〟と言われるものになり、聴衆を失っていった背景を描き出すものにもなるはずである。
春秋社、樋口裕一『ヴァーグナー 西洋近代の黄昏』Pxixーxxi
この序文にありますように、この本では西洋文化の流れも知ることができます。
ワーグナーが歴史の流れにおいてどれだけ革新的なことを行ったのか。またそれはどんな意味を持っていたのかがこの本ではわかりやすく解説されます。
神が中心であり、神が創造した調和的な世界に生きていた時代と、近代以降の人間中心的な時代。その違いを端的に知ることができるのがワーグナー音楽の特徴です。
バッハの曲と比べてみるとその違いに驚きます。
伝統的な音楽では神を賛美した調和的な音楽が主流でした。聴いていて、厳かでありがたい気分になってくるような音楽です。
しかし、ワーグナーはそうした神への賛美ではなく、人間がこの世界を作っていくという姿勢で音楽を作っていきます。その曲は私たちのお腹の底からぐらぐら沸き立たせるような音楽です。ワーグナーは神中心の世界、調和の世界に反旗を翻し、人間中心の世界観を表現しようとしたとも言うことができます。比べて聴いて頂ければなんとなくその雰囲気はきっと感じて頂けるのではないかと思います。
また、この本ではマルクス、ドストエフスキー、ニーチェについても言及されます。
ワーグナーと思想、文学、哲学の関係についても著者はお話ししてくれますので、様々なジャンルがつながり非常に興味深いです。
ワーグナーの生涯や特徴だけでなく、西洋文化の歴史も知ることができるのでとても面白い本です。クラシック音楽に疎い私でしたが、とてもわかりやすくて夢中になって読むことができました。
中学高校と音楽の授業に大苦戦していた私でしたがこの本はあっという間に読み終えてしまいました。こういう本が教科書だったらもっと音楽が好きだったのにと思ってしまいました(笑)
この本も非常におすすめな1冊です。ワーグナーの音楽を通して西洋文化の歴史の流れまで知ることができる非常に興味深い1冊です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
以上、「樋口裕一『ヴァーグナー 西洋近代の黄昏』ワーグナーの特徴を知るためのおすすめ参考書!」でした。
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