トーマス・マン『チェーホフ論』~ドイツのノーベル賞作家が語る『退屈な話』の魅力とは
『魔の山』、『ヴェニスに死す』などで有名なドイツのノーベル賞作家トーマス・マンは『チェーホフ論』という論文を書いています。その中で彼は一番好きな作品として『退屈な話』を挙げています。
今回の記事ではその『チェーホフ論』を見ていきながら、彼の『退屈な話』評を見ていきたいと思います。
『魔の山』、『ヴェニスに死す』などで有名なドイツのノーベル賞作家トーマス・マンは『チェーホフ論』という論文を書いています。その中で彼は一番好きな作品として『退屈な話』を挙げています。
今回の記事ではその『チェーホフ論』を見ていきながら、彼の『退屈な話』評を見ていきたいと思います。
この作品のタイトルは『退屈な話』ですが、読んでみると退屈どころではありません。とてつもない作品です。
地位や名誉を手に入れた老教授の悲しい老境が淡々と手記の形で綴られていきます。
『魔の山』で有名なドイツの文豪トーマス・マンが「『退屈な』とみずから名乗りながら読む者を圧倒し去る物語」とこの作品を評したのはあまりに絶妙であるなと思います。まさしくその通りです。この作品は読む者を圧倒します。
そしてあのトルストイもこの作品の持つ力に驚嘆しています。ぜひおすすめしたい名著です
この作品はページ数にしてたったの10ぺージほどの短編です。しかしこの短編の中に驚くほどの思索が込められています。
真の自由とは何か。私たちは何に囚われているのかということをチェーホフはこの作品で問いかけています。
恐るべし、チェーホフ・・・
長編小説で長々と物語を語りながら根源的な深い問題について考えていくならまだわかります。しかし10ページほどの短編でこれだけ凝縮された思想問題を語ってしまうのは異常だと思いました。チェーホフには本当に驚かされます。
この小説の舞台は鉄道建設の現場という資本主義建設の最先端の場です。そこで技師のアナーニエフと学生のシテンベルクと出会った「私」が彼らの問答を通して人生を考えるという筋書きです。
この作品はショーペンハウアー思想に興味がある人には画期的な作品です。
と言いますのも、チェーホフ流のショーペンハウアー的ペシミズムとの対決というのがこの作品の主題となっているからです。
ページ数も50ページほどとコンパクトなので気軽に読めるのも嬉しいです。
『曠野』はチェーホフが実際に旅した見聞が基になって描かれました。
そして重要なことはこの作品がチェーホフという作家がいよいよロシア第一級の作家として文壇に登場するきっかけとなったという点です。
この作品までのチェーホフは「A チェーホンテ」というペンネームで作品を発表していました。「チェーホンテ」というペンネームが示すようにどこかおどけたようなユーモア作家らしい雰囲気を出していました。
ですが彼はこの作品から「A チェーホンテ」ではなく、本名の「アントン チェーホフ」の名乗ることになります。
この作品はチェーホフの作家としての目覚めを知る上で非常に重要な作品となっています。
目に見える姿と真実の姿のずれ。
特に傍から見れば羨ましく思えてしまうようなものにこそ実は悲しむべき真の姿がある。そうしたことを思わされます。
チェーホフ文学の特徴が非常にわかりやすく出ているのがこの作品です。
短い物語の中にチェーホフらしさが凝縮されています。非常におすすめです。
これからチェーホフの作品を見ていくにあたり、作家チェーホフの個性としてもっとも独特なのが、彼が医者であったということです。
医者でありながら作家として活動した。これは当時としても非常に珍しいケースでした。今回はそんな医者チェーホフについて少しお話ししていきます
医者としてのチェーホフは彼の文学作品を考えていく上で非常に大きなウエイトを占めています。
このことを念頭に置いておくとチェーホフ作品を読むときにより楽しむことができます。
チェーホフ作品を読んでいると、これはまるで仏教書ではないかと思うことが多々ありました。
彼の小説がそのまま仏教の教科書として使えてしまうくらい、それくらい仏教に通じる物語を書いていたのです。これは驚きでした。
なぜチェーホフがそのような思想を持つようになったのかということを、『チェーホフ芸術の世界』ではわかりやすく解説してくれます。
これから先チェーホフ作品をご紹介していきますが、基本的にはこの著作を参考にして読んでいきたいと思います。
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