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早朝の聖墳墓教会~お堂に響くミサの歌声 イスラエル編⑩

聖墳墓教会
目次

なぜ人は祈るのだろう―早朝の聖墳墓教会~お堂に響くミサの歌声 僧侶上田隆弘の世界一周記―イスラエル編⑩

4月6日。

今日は朝早くから行動を開始することにする。

前日の嘆きの壁の余韻がまだ残っている。

目に映るエルサレムの景色がこれまでと違って見えるのは気のせいなのだろうか。

まだ朝の7時を迎えていない時間帯だ。

この時間はまだまだ人通りも少ない。

静かで爽やかな朝の散歩だ。

今朝の目的地は聖墳墓教会。

先日行ったときには観光客でごった返していた、あの場所だ。

突然だが、ぼくには「水曜どうでしょう」という番組の中で発せられた言葉の中でも、特に好きな言葉がある。それが、

「寺は朝」

という言葉だ。

早朝から寺を回らなければならなくなった彼らが、その早朝の寺のすばらしさに感動して発したのが、この言葉だ。

ぼくは観光に行くときにはなるべくこの原則を守るようにしている。

寺を訪ねる時はなんと言っても、心を穏やかにしてゆっくりと味わうのが醍醐味だ。

仏閣や仏像の愛好家の方にはきっとわかっていただける感覚なのではないかと思う。

早朝は観光客もまだ少なく、何より朝の寺は気持ちがいい。

心が洗われるような、そんな感覚を味わうことが出来る。とにかく清々しい。

だからこそ、行ける時には出来るだけ朝早くからお寺にお参りに行く。

そして、お寺ではなく教会ではあるが、このエルサレムでもぼくはその原則を実行することにしたのだ。

朝7時の聖墳墓教会。

人もまばらだ。これは期待できそうだ。

早朝の聖墳墓教会はどんな姿をぼくに見せてくれるのだろうか。

中に入ると、ミサの歌声が奥の方から聞こえてくる。

前回とは打って変わって、教会内は整然としている。

がやがやした声もなく、雰囲気は厳かそのものだ。

明らかにこの前来た時とは違う。

ミサの歌声が聞こえる方に歩いて行く。

先へ進むと、イエスのお墓の前でミサが行われていたのであった。

今日も写真を撮れるような雰囲気ではなかったので、撮影は控えさせていただいた。

イエスのお墓の前で神父さんが儀式を執行しているのが見える。

お墓の前のスペースには左右両方に分かれて椅子が置かれてあり、50人弱の人がミサに参加しているようであった。

その様子は厳かそのものだった。

皆真剣に祈りを捧げている。

ここに集った人たちがどこから来て、何を祈っているのかはわからない。

でも、その祈りの真剣さはひしひしと伝わってくる。

中には涙を浮かべながら両手をぐっと握りしめている女性もいた。

大切な人を失ったのだろうか、それとも誰かの無事を祈っているのだろうか。

外から見ているぼくにはその心の内まではわからない。

だがやはり、心からの祈りというのは見る者の心を揺さぶる。

ミサの歌声がイエスのお墓のドームに響き渡る。

ぼくは天井を見上げ、目を閉じ、その歌声に耳を傾け続けた。

祈りとは一体何なのだろう。

どうしてぼくらは祈らずにはいられないのだろう。

大切な人を失ったとき、なぜぼくらはこんなにも心を痛めるのだろう。

誰かのことを祈るとき、人はどんなに遠く離れていても祈ることができる。

祈りは空間を超えて届く。

どんなに遠く離れていたって、あなたに届いてほしいという一念の力がそこにはある。

ぼくはしばらくイエスのお墓の前で彼らと共にお祈りをさせてもらうのであった。

ミサが終わり、改めてイエスのお墓を下から見上げてみる。

ドームの天井から太陽の光が差し込んでくる。

ぼく達の祈りが天に届くことを示してくれるかのような光景だった。

昨日に引き続き、今日もエルサレムはぼくに大きな世界を見せてくれている。

エルサレムは時間によって見せる顔がまったく異なる。

ぼくが今朝見た聖墳墓教会は厳かなる祈りの世界だった。

エルサレムに長い期間滞在することにして本当によかった。

そうでなければこのような世界を知ることもなく、ぼくはエルサレムを去ることになってしまっていただろう。

感動を胸に、ぼくは聖墳墓教会を後にした。

続く

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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