独ソ戦

スターリンとヒトラーの虐殺・ホロコースト

(6)まとめ~なぜイワンは戦ったのか。戦争という極限状態における兵士の内面を学ぶ意味

この本に書かれた内容は本当にショッキングです。目を反らしたくなるような蛮行が語られます。

ですがそんな地獄のような世界を生きたイワンたちも涙を流していました。

イワンたちの犯した悪行は許されるものではありません。しかしそれをただ弾劾するだけでは何も解決しません。

なぜそのようなことが起こったのか、そしてイワンたちは何に苦しみ、涙を流したのか。このことを突き詰めていくことこそ、同じ歴史をくり返さないためにも重要であると私は感じました。

スターリンとヒトラーの虐殺・ホロコースト

(5)ソ連兵たちは犠牲者を人間とみなさなかった~戦時下の兵士の心理と性暴力の悲劇

彼らが目指すはヒトラーの本拠地ベルリン。ソ連兵たちはその行く先々で暴虐の限りを尽くしました。

たしかに侵攻してきたナチスの残虐行為は悲惨なものでした。それに対し目には目をとばかりにソ連兵は侵攻した先々で略奪、殺人、レイプを繰り返したのです。

この内容はブログに書こうかどうかも迷ったほどです。ここから述べていく内容もそうです。この本では目を背けたくなるような事実が明らかにされます。

ただ、注意したいのはこうした行為がソ連兵だけのことで、私達には全く関係ないと思ってしまうことです。「ソ連兵が異常なだけだ」というように見てしまうと、この本の意味はまったく異なるものになってしまいます。戦争という極限状態では人間は誰しもこうなりうるということを忘れてはいけません。

スターリンとヒトラーの虐殺・ホロコースト

(4)スターリンによる戦争神話の創造と歴史管理~現実を覆い隠す英雄物語の効用とは

1943年になるとソ連がついに優勢に立ちます。ここから政治家たちはさらに国民の士気を高めるために戦争神話を作り出していきます。

ソヴィエト政府にとって都合のいいように事実は解釈され神話は作られていきました。それに合致しないものはすべて黙殺されていったのです。

そしてそうした歴史管理は戦後もずっと続くことになります。

見たくないものに蓋をする。これは誰しもがそうしたくなるものです。戦争という極限状態で自分が犯してしまったことに対しては特にそう言えるでしょう。スターリンはそうした人間の弱さに付け込んだのでした。

スターリンとヒトラーの虐殺・ホロコースト

(3)ソ連の人海戦術と決死の突撃~戦場における「ウラー!」という叫び声とは

殺しても殺しても次から次へ死を恐れずに突撃してくる。これほどの恐怖はありません。

そして無謀な突撃は案の定壊滅的な被害を出しソ連兵は撤退するのですが、驚くべきことに、撤退する兵士を今度はソ連司令部が殺戮するのです。

ソ連軍において撤退は許されません。この後で紹介しますが、死ぬまで戦えという指令が鉄の掟として存在していたのです。だから撤退して戻ってきた兵士を軍規違反として殺すのです。

ソ連兵はナチス兵に蹂躙され、逃げれば今度はソ連軍にも殺されるのです。

こうして最前線に立たされる無数の兵士の死体が累々と積み重ねられていったのです。「ウラー!」の叫びと共に人海戦術が行われていたのでありました。

スターリンとヒトラーの虐殺・ホロコースト

(6)アーレントの全体主義論と赤軍記者グロスマンの小説~独ソ戦や全体主義を論じた傑作について

アーレントといえば『全体主義の起源』や『イエルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告』などでホロコーストについて語ったことで有名ですよね。ナチスのホロコーストを語る上で、ハンナ・アーレントの名は今もなお世界中に轟いています。

そして著者のティモシー・スナイダーはこのアーレントと対置してソ連の作家ワシーリー・グロスマンを紹介します。私がグロスマンの作品を読もうと思ったのも、スナイダーによる賛辞の言葉を読んだからこそでした。日本ではあまり知られていないグロスマンですが、世界史上とてつもない人物がここに存在していたのでした。ぜひおすすめしたい作家です。

スターリンとヒトラーの虐殺・ホロコースト

(1)ナチスとソ連による1400万人の虐殺の犠牲者~あまりに巨大な独ソ戦の惨禍

『ブラッドランド ヒトラーとスターリン 大虐殺の真実』では独ソ戦で起きた大量虐殺の悲劇はナチス、ソ連の相互関係によってより悲惨なものになったことを明かしていきます。ナチスの残虐行為だけが世界史においてはクローズアップされがちですが、それだけではナチスの行動の全貌を知ることはできません。

ナチスとソ連というもっと大きな視点でホロコーストの実態を見ていくことがこの本の特徴です。

「ナチスは異常で残虐で悪い人間だった」と単に片付けるのではなく、もっと大きな視点からなぜ人間はそのようなことを行ってしまったのかということに迫っていくのが本書の素晴らしい点です。

スターリンとヒトラーの虐殺・ホロコースト

フランクル『夜と霧』あらすじと感想~生きるとは何かを問うた傑作!ドストエフスキーとのつながりも

この作品は心理学者フランクルがアウシュヴィッツやミュンヘンのダッハウ収容所での経験を綴ったものです。

前回の記事でご紹介したワシーリー・グロスマンの『トレブリンカ収容所の地獄』では絶滅収容所の悲惨さが描かれたのに対し、『夜と霧』では強制収容所という極限状態においてどのように生き抜いたのか、そしてそこでなされた人間分析について語られていきます。

この本は絶望的な状況下でも人間らしく生き抜くことができるという話が語られます。収容所という極限状態だけではなく、今を生きる私たちにとっても大きな力を与えてくれる本です。

この本がもっともっと多くの人に広がることを願っています。

独ソ戦~ソ連とナチスの絶滅戦争

S・D・ゴールドマン『ノモンハン1939 第二次世界大戦の知られざる始点』~日本はなぜ悲惨な敗北を繰り返したのか。衝撃の名著!

まず先に言っておきます。この本はものすごいです。

ノモンハン事件という、私たちも名前だけは知っている歴史上の出来事が想像もつかないほど巨大な影響を世界に与えていたということがこの本で明らかにされています。

日本はなぜ悲惨な敗北を繰り返したのか、なぜ軍部が暴走し無謀な戦闘を繰り返したのかもこの本では分析されています。読むとかなりショックを受けると思います。私もこの本を読んでいて何度も「嘘でしょ・・・」と唖然としてしまいました。それほどショッキングな内容となっています。

独ソ戦~ソ連とナチスの絶滅戦争

V・ザスラフスキー『カチンの森 ポーランド指導階級の抹殺』~ソ連が隠蔽した大量虐殺事件とは

アウシュヴィッツのホロコーストに比べて日本ではあまり知られていないカチンの森事件ですが、この事件は戦争や歴史の問題を考える上で非常に重要な出来事だと私は感じました。

国の指導者、知識人層を根絶やしにする。これが国を暴力的に支配する時の定石であるということを学びました。非常に恐ろしい内容の本です。ぜひ手に取って頂ければなと思います。

独ソ戦~ソ連とナチスの絶滅戦争

アレクシエーヴィチ『戦争は女の顔をしていない』~独ソ戦を体験した女性達の声に聴くー現在、日本で漫画化もされている名著

この本はアレクシエーヴィチが独ソ戦に従軍、あるいは戦禍を被った女性にインタビューし、その記録を文章化したものになります。独ソ戦という巨大な歴史の中では個々の人間の声はかき消されてしまいます。特に、女性はその傾向が顕著でした。戦争は男のものだから女は何も語るべきではない。そんな空気が厳然として存在していました。

そんな中アレクシエーヴィチがその暗黙のタブーを破り、立ち上がります。アレクシエーヴィチはひとりひとりに当時のことをインタビューし、歴史の闇からその記憶をすくいあげていきます。