木村元彦『誇り ドラガン・ストイコビッチの軌跡』あらすじと感想~ピクシーことストイコビッチ氏とユーゴ紛争を知るのにおすすめ
木村元彦『誇り ドラガン・ストイコビッチの軌跡』概要と感想~ピクシーの愛称で有名な伝説のサッカー選手とユーゴ紛争を知るのにおすすめ
今回ご紹介するのは2000年に集英社より発行された木村元彦著『誇り ドラガン・ストイコビッチの軌跡』です。
早速この本について見ていきましょう。
フィールドの妖精“PIXY”ドラガン・ストイコビッチ。人々を魅了する華麗なプレー。だが、その半生から浮かび上がるのは、政治に翻弄された祖国ユーゴスラビアへの熱き想いと誇りだった。来日当初「乱暴者」のレッテルを貼られた、彼の真の姿がここにある。過酷な運命を乗り越え世界を舞台に光り輝く、憂国のフットボーラーの軌跡を綴るヒューマン・ノンフィクション。一章分の書き下ろしを追加し、貴重な初公開写真も収録。
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1990年生まれの私はピクシーことストイコビッチ氏といえば監督のイメージがあったのですが、この本を読んでストイコビッチ氏がいかにすごい選手だったかがよくわかりました。
この本を読んでから見たストイコビッチ氏の映像にはそれこそ衝撃を受けました。ぜひ見てみてください。私はこの動画を見てなぜかわかりませんが涙が出てきました。スーパースターとはこういうことなんだなということを感じました。
さて、私が今この本を手に取ったのには理由があります。
ストイコビッチ氏はセルビア(旧ユーゴスラビア)出身のサッカー選手です。
彼がプロとしてキャリアを歩み始めたのは1981年、そこから彼は激動のユーゴ90年代を生きていくことになります。
著者は文庫版あとがきで次のように述べています。
本書『誇り』の単行本の発行は明年の4月末だったのだが、当時このタイトルをつけるにあたり編集サイドと大いにもめたことを昨日のように思い出す。時おりしも日本が初出場するワールドカップの直前。ユーゴ代表で出るにしてもまずJリーグ・グランパスのエースとしてのストイコビッチの本を、というのが版元の当初の意図だった。ゆえに内容も名古屋での活躍に主眼を置き「ストイコビッチ物語」との題名で、という要望があった。しかし、ムハマド・アリの半生を描くときに黒人という宿命に触れざるをえないように、マルセ太郎の芸を語るときに在日という視点が不可欠のように、この天才プレーヤーのプレースタイルを描く上でセルビア人としての背景を書き込むことは絶対に必要だった。無名のライターは話し合ってゆく中で、内容については「それでは自分が書く必然がないので俺は降りる」と見得を切り、タイトルはもう時効だろう、「ストイコビッチがこの題名じゃないと嫌だと言っている」と滅茶苦茶なハッタリで押し切った。結果全て自由にやらせていただいた。このことについては今でも感謝している。祖国空爆という悲劇を乗り越えて、日本でそのキャリアの終焉を間もなく迎えようとしている今、改めて彼の生き方に対するこれ以上ないタイトルであったと自負している。
集英社、木村元彦『誇り ドラガン・ストイコビッチの軌跡』P307-308
「ムハマド・アリの半生を描くときに黒人という宿命に触れざるをえないように、マルセ太郎の芸を語るときに在日という視点が不可欠のように、この天才プレーヤーのプレースタイルを描く上でセルビア人としての背景を書き込むことは絶対に必要だった。」
全世界から悪者と一方的に報道され制裁を受けたセルビア。そのセルビア(ユーゴ)代表として苦難の道を歩むこととなったストイコビッチ氏のサッカー人生は凄まじいものがあります。
紛争が始まる直前のワールドカップ伝説の試合が上の映像です。あのマラドーナと戦うピクシー。そして驚くことにこの時ユーゴスラビアを率いていたのがあのオシム監督でした。そんなすごい監督が日本で長くクラブを率い、代表監督を務めてくださったというのは信じられないくらいの幸運だったと思います。
ユーゴスラビアのサッカーは世界を魅了し、世界最強との呼び声も高いチームでした。しかし1991年から始まったユーゴ紛争により国は分裂し、チームもその影響を受けることになります。さらには92年のユーロ、94年ワールドカップへの出場も断たれることになりました。
ストイコビッチ氏はこうした中で1994年に来日し、名古屋グランパスに入団したのでありました。
名古屋でのピクシーといえばこの伝説のプレーですよね。
リアルタイムでピクシーのスーパープレーを見ることができた当時のサッカーファンが本当に羨ましいです。
この本ではそんなストイコビッチ氏の半生とユーゴ紛争について知ることができます。
ユーゴ紛争は当時の報道によって「セルビア=悪」というレッテルが一方的に張られることになりました。
そのことについては以前当ブログでも紹介した『戦争広告代理店』でも書かれていました。
もちろん、セルビア側が犯した人道上の犯罪があったことは事実です。ですが紛争はセルビアだけが原因だったのではなく複雑な背景がありました。「セルビア=悪」という単純なレッテルは、たしかにわかりやすい構図を私たちに与えます。しかし、それでは見落としてしまう紛争の実態があるのです。レッテルを張って終わりにするのではなく、そこで実際に何が行われていたのか、なぜそうなってしまったのかということを考えていく必要があります。
この本ではセルビア側から見たユーゴ紛争を知ることができます。
私はこれまでボスニア紛争について学んできましたが、セルビア側から見たユーゴ紛争を知れたのは非常に貴重な読書になりました。
著者の木村元彦氏は今作『誇り ドラガン・ストイコビッチの軌跡』を始まりに『悪者見参』、『オシムの言葉』という「ユーゴサッカー三部作」を発表しています。
これがとにかく素晴らしいんです・・・!ぜひぜひ紹介したい名著揃いですので、次の記事でも紹介していきます。
ストイコビッチ氏の半生とユーゴ紛争を知れた『誇り ドラガン・ストイコビッチの軌跡』。ぜひぜひおすすめしたい一冊です。
以上、「木村元彦『誇り ドラガン・ストイコビッチの軌跡』ピクシーことストイコビッチ氏とユーゴ紛争を知るのにおすすめ」でした。
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