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中野京子『芸術家たちの秘めた恋―メンデルスゾーン、アンデルセンとその時代』あらすじと感想~歌姫ジェニーリンドと2人の意外な関係

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おすすめ!中野京子『芸術家たちの秘めた恋―メンデルスゾーン、アンデルセンとその時代』あらすじと感想~歌姫ジェニーリンドと2人の意外な関係

今回ご紹介するのは2011年に集英社より発行された中野京子著『芸術家たちの秘めた恋―メンデルスゾーン、アンデルセンとその時代』です。私が読んだのは2019年第二刷版です。

早速この本について見ていきましょう。

19世紀前半、ロマン主義全盛の時代を生きた作曲家メンデルスゾーンと作家アンデルセン。生まれも容貌もまるで正反対の二人を結びつけたのは、奇跡の声を持つ歌姫だった。

三者三様の想いを胸に秘め、創作活動に没頭する彼らを待ち受ける過酷な運命とは……。

『結婚行進曲』や『醜いあひるの子』など、不朽の名作を生み出した芸術家たちの知られざる一面に、『怖い絵』シリーズの著者が迫る。


集英社、中野京子『芸術家たちの秘めた恋―メンデルスゾーンとアンデルセンとその時代』2019年第二刷版裏表紙

この作品は19世紀ドイツを代表する音楽家メンデルスゾーンと童話で有名なアンデルセン、そしてスウェーデンの歌姫ジェニー・リンドという3人の芸術家の物語です。

メンデルスゾーンはこれまで当ブログでも紹介してきました。

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メンデルスゾーンについては以下の解説動画もおすすめです。

そしてもう一人の主人公、アンデルセン。

ハンス・クリスチャン・アンデルセン(1805-1875)Wikipediaより

アンデルセンと言えば童話が有名ですが、この人物がメンデルスゾーンと同時代人だったというのは初めて知りかなり驚きました。『醜いアヒルの子』や『マッチ売りの少女』など、その名作たちの存在は知っていてもそれらがいつ書かれていたのかというのは恥ずかしながら全く知りませんでした。てっきりもっと昔の話かと思いきや、19世紀の話だったのですね。これには驚きました。

そしてこの二人を繋ぐ鍵となる女性、ジェニー・リンド。

ジェニー・リンド(1820-1887)Wikipediaより

「スウェーデンのナイチンゲール」と称され、世界中で大人気だった歌姫ジェニー・リンド。彼女は後にスウェーデン紙幣に描かれるほどの国民的大スターでした。

19世紀を代表する作曲家フェリックス・メンデルスゾーン、デンマークの童話作家アンデルセン、スウェーデンの歌姫ジェニー・リンド。これら3人の大芸術家たちが織り成す物語。そして中野京子さんの筆が冴える冴える!とにかく面白い作品です!面白過ぎてあっという間に読んでしまいました。

今回の記事ではその中でも著者のあとがきを紹介したいと思います。本編も素晴らしいのですがこのあとがきも絶品です。ぜひ読んで頂きたい名文です。

人生における運不運とは何だろう?

十九世紀の傑出した作曲家メンデルスゾーンー彼の生涯を辿りながら、そのことを考えてみたかった。

メンデルスゾーンについては、たいていの音楽書がこう記している。富豪の名家に生まれ、充分な教育のもとで多彩な才能をのびのび開花させ、穏やかな結婚生活を送り、良き友人たちと交流し、作品は人気を博し、おまけに容姿にも恵まれて、「彼ほど幸せな音楽家はいなかった」と。

実際には、そう良いことづくめでもない。階級差別や人種差別の激しいこの時代のドイツで、ユダヤ人の彼が差別を受けずにすむわけもなく、ヨーロッパ社会へ溶けこむ必要から、キリスト教に改宗したり名前をメンデルスゾーン・バルトルディと変えるなど、苦労している。個人の責任と関わりないところで蔑まれるという、根源的な屈辱を受けた人間を、いったい幸せと呼べるものなのか。

また彼は両親の厳しい教育方針によって、古典、語学、歴史、音楽、美術、スポーツ、ダンスにいたるまでつめこまれ、第一級の教養ある紳士になったが、反面、優等生の常として遊ぶことへの罪悪感を植えつけられ、自分のしたいことより周囲の期待に応えることを優先し、精神的にも肉体的にも疲労をためていった。三十八歳という短すぎる死にも謎が多い。

とはいっても、もしメンデルスゾーンがユダヤ人でなかったなら、そして深い教養の持ち主でなかったなら、さぞかし鼻持ちならない自惚れた人間になっていたに違いない。音楽も、ただ明るく調和のとれた優雅なだけの代物になっていただろう。一見満たされた生活の裏に、深い苦悩と静かな諦念をかかえていたからこそ、古典的でありながらロマンティック、ロマンティックでありながらどこか醒めた眼差し、というメンデルスゾーン作品の複雑な魅力が生まれたのだ。

同じことは、メンデルスゾーンと接点を持つアンデルセンとリンドにも当てはまる。アンデルセンは誰もが知るとおり極貧に生まれ育ち、リンドは親の愛を全く知らなかった女性だが、ともに血のにじむ努力のすえ世界的名声を得た。三人の生き方を見ていると、致命的と思われるような疵をバネに大きくなったのがわかる。まさに不運こそが幸運の鍵であった。

ドイツの作曲家メンデルスゾーン、デンマークの作家アンデルセン、スウェーデンのオぺラ歌手リンド。彼らの深い関わりは―アンデルセンはリンドに求婚し、リンドはメンデルスゾーンを恋し、メンデルスゾーンは……―それぞれの芸術に大きな影響を与えた。もしメンデルスゾーンがあれほど突然、この世を去ったのでなければ、彼らの関係もまたずいぶん変わっていただろう。運命というのは、なんと不思議で奥深いものか。


集英社、中野京子『芸術家たちの秘めた恋―メンデルスゾーンとアンデルセンとその時代』2019年第二刷版

たったこれだけの文章でメンデルスゾーンのエッセンスがこれでもかと凝縮されています。見事過ぎて言葉が出ません。

この作品を読めば確実にメンデルスゾーンのファンになります。とにかく格好良いです。これはモテます。歌姫のジェニー・リンドが惚れてしまうのもわかります。

ですが、単純に見た目がいいとか、頭がいいとか、優しいとか、そういう理由で彼女が惚れたわけではないのです。ジェニー・リンドも芸術家です。芸術家として圧倒的な才能があるからこそわかる、天才ゆえの苦悩。メンデルスゾーンも同じようにその苦悩を抱えていました。誰にもわかってもらえない苦しみ、それをわかり合ったからこそ互いに惹き付けられるものがあったのかもしれません。

そうした繊細な恋の物語がこの本では語られます。

もちろん、メンデルスゾーンには妻子がいましたので、一線を越えることはありません。メンデルスゾーンは生真面目すぎるほど真面目な人物でした。

ですが、この二人の結びつきは2人の音楽活動に大きな影響を与えるのでありました。

また、もう一人の主人公アンデルセンの強烈さもこの本では体感することになります。私も読んでびっくりしました。リンドに恋するアンデルセンの猪突猛進ぶりはかなり衝撃的です。そしてそんなアンデルセンとメンデルスゾーンの繋がりもまた非常に興味深かったです。

この本はとにかくおすすめです。ものすごく面白いです!音楽ファンならずとも楽しめること請け合いです!

ぜひぜひ手に取って頂きたい作品です!

そして次の記事ではせっかくですのでアンデルセンの作品について見ていきたいと思います。私も幼い頃アンデルセン童話の絵本やアニメには何度も何度もお世話になりました。その原作となったアンデルセンの童話を読んでみるのもいい機会かもしれません。

まさかアンデルセンがメンデルスゾーンと同時代人でつながりがあったとは思いもよりませんでした。さらに言えばドストエフスキーやユゴー、ディケンズなどとも同時代人でもあるわけです。これはぜひぜひ読んでみたいなと思ったのでありました。

以上、「おすすめ!中野京子『芸術家たちの秘めた恋―メンデルスゾーン、アンデルセンとその時代』歌姫ジェニーリンドと2人の意外な関係」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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