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世界最古の町エリコ~人類の発展がここから加速する イスラエル編⑥

エリコ
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世界最古の町エリコ~人類の発展がここから加速する 僧侶上田隆弘の世界一周記―イスラエル編⑥

4月4日。今日は車をチャーターしてエルサレムから西方向に車で1時間弱ほどにある町、エリコを目指す。

エルサレムを出ると、そこはもうイスラエルの砂漠地帯だ。

砂漠といっても、ぼくたちが想像するようなアラブのさらさらした砂の大地ではない。

イスラエルの砂漠は剥き出しの岩肌の丘陵なのだ。

間近で見る砂漠の丘は迫力がある。そして何より、美しい。

車を停めてしばし山の美しい風景を眺めてみる。

いくつもの丘が重なり合うかのようなこの景色に吸い込まれてしまうかのような気分になってくる。

だがしばらくこの山に見惚れていると、ここでぼくは偶然にも、この山並みの中に信じられないものを見つけたのである。

みなさんもお分かりになられるだろうか。

もう少し寄ってみよう。

なんだ?この点に見えるようなものは・・・

よく見てみると、

なんと、人と羊の群れだったのだ!

こんな崖にも等しい山々でも人は生きていけるのか!

この人達はべドヴィン族と呼ばれるイスラエルの遊牧民だ。

このエリア一帯に集落を持ち、現在でも羊やヤギ、馬やロバ、ラクダなどの動物を飼い、暮らしている。

別の場所でもベドウィン族と出会った

ベドヴィン族はアラブ地域における遊牧民の総称だ。

ここではあまり詳しくはお話しできないが、このベドヴィン族の存在が中東の国々や文化の形成において大きな役割を果たしてきたということだけ述べておこう。

さて、そうこうしている内にエリコに到着する。

この町は世界最古の町と呼ばれ、今から一万年ほど前から町としての形を持っていたとされている。

これは現在発見された遺跡の中でも最古の部類だ。

人間が農耕を始めて定住生活を始めたのが今からおよそ12000年前。

それまでは決まった住居を持たず、狩りと木の実などの採集で人々は生活をしてきた。

しかし、ある時人類は気づく。

食べ物を探すためにわざわざ苦労して長い距離を歩き回らなくても、種を植えればやがて食べ物を収穫できるということに。

一説によれば、見つけた麦を抱えて集落に戻っているとき、たまたまそこからいくつかの種が道端に落ちた。

そしてその後、そこから麦が生えてきたことに気づいたことがきっかけではないかと言われている。

いずれにせよ、人間が畑を耕し、定住生活を行ったことがその後の人類のあり方に決定的に大きな影響を与えることになる。

畑を耕すには適切な知識を持ったリーダーが必要だった。

支配者、王が現れ始める。

そして農耕で得た穀物は保存が可能なため余ったものを蓄えることが出来た。

富がここで生まれる。

余った食物のおかげで、すべての人が食べ物を生産、あるいは狩りや採集をする必要がなくなった。

専門職や職業軍人が生まれ始める。

食べ物を得ることに使っていた時間を、道具の開発や作物の研究、軍事訓練に充てることができたのだ。

想像してほしい。

木の実やキノコを集めて暮らしていた集団と、軍事訓練を積んだ屈強な兵士たちが戦うところを。

そして、勝てば勝つほど、相手から余った作物を奪い取ることが出来る。

つまり、より強大な集団となっていく。

こうして余った作物、すなわち富をめぐる戦いの時代が幕を開けることになったのだ。

小規模な集落から軍事的な目的を持つ城壁を持ち始めたのが、今から1万年ほど前のことと言われている。

日本で卑弥呼が国を統治していたのが239年頃の話だ。

それより8000年も前にはこのエリコの地域一帯ではすでに城壁が築かれ、戦いの時代にあったというのだから、ただ驚くほかない。

そしてその時の城壁の跡が発見されたのがこの遺跡というわけだ。

これがその城壁の跡ということらしい。

何層にも分かれていて、層によって何年頃に作られたかがわかるとのことだ。

素人のぼくにはさっぱりわからないが、とにかくこの場所に人類最古の町が存在したということはわかった。

先にも述べたように、農耕の発達は専門職の人間を生み出した。

生産に関わることなく、ひたすら思索に時間を費やし、新たな道具や概念を発明していった。

全ての時間を新たなものの発見に費やすというのは人類史上、非常に画期的な出来事だった。

人類の体の構造は実は7万年ほど前からほとんど変わっていないという。

なのになぜ人類は文明を生み出すのにここまで時間がかかったのだろうか。

その鍵こそが、この農耕の発展による専門職の誕生なのだ。

それくらい、狩猟採集民が生き延びていくためには脳のエネルギーと記憶容量を必要としていたということなのだ。

今の私達と知能指数がほぼ一緒であるにもかかわらず、新しいことを生み出すという余裕などどこにもなかったのだ。

何はともあれこのエリコ。ぼくが楽しみにしていた場所の一つだった。

アフリカでは人類発祥の地を訪ねた。

そしてこのエリコでは人類最古の町を訪ねることができた。

人類の歩んできた道をこうして見て回ることができて、とても嬉しく思う。

人類の進化と宗教は相互に絡み合って進化している。

そのことに思いを馳せながらエリコの町をもう少し見ていこう。

続く

※2024年9月追記

この記事は旅に出た2019年当時私が読んでいたユヴァル・ノア・ハラリ著『サピエンス全史』を参考にして書きましたが、この本の内容が歴史的な「絶対的な事実」ではなく、あくまで著者が編んだ世界史であることは要注意です。私自身この旅を終えてすでに5年以上が経ちましたが、この間に人類史における新説や反論が次々と出ています。ですのでこの記事はあくまで2019年当時私が『サピエンス全史』を読んだ上で書いたものとしてここに残しておきたいと思います。

現在『サピエンス全史』については各種疑問も提出されていますので、私は自身の人類史の参考書としては今は用いておりませんのでご了承ください。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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