スターリンとヒトラーの虐殺・ホロコースト

スターリンとヒトラーの虐殺・ホロコースト

(3)ソ連の人海戦術と決死の突撃~戦場における「ウラー!」という叫び声とは

殺しても殺しても次から次へ死を恐れずに突撃してくる。これほどの恐怖はありません。

そして無謀な突撃は案の定壊滅的な被害を出しソ連兵は撤退するのですが、驚くべきことに、撤退する兵士を今度はソ連司令部が殺戮するのです。

ソ連軍において撤退は許されません。この後で紹介しますが、死ぬまで戦えという指令が鉄の掟として存在していたのです。だから撤退して戻ってきた兵士を軍規違反として殺すのです。

ソ連兵はナチス兵に蹂躙され、逃げれば今度はソ連軍にも殺されるのです。

こうして最前線に立たされる無数の兵士の死体が累々と積み重ねられていったのです。「ウラー!」の叫びと共に人海戦術が行われていたのでありました。

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(2)立派なソ連人を生み出すプロパガンダ教育~オーウェル『1984年』の世界が現実に

ソ連のプロパガンダ教育は若い世代に確実に浸透していました。「二十年に及ぶ学校教育とプロパガンダが効果を発揮していた」という言葉は不気味ですよね。教育やプロパガンダはそれだけ長い期間を用いて人々の世界観に多大な影響をもたらすのでした。その教育を受けた人間とそうではない人間ではそもそも世界の見え方が違うのです。これは非常に重要な点です。

ですがいくらこうしたプロパガンダ教育をしても、完全には人間をコントロールなどできません。それぞれの内心ではやはり反発したい心もあります。ですがそれを表に出しては生きてはいけません。であるからこそ、自分を変えねばならなくなるのです。そうです。まさしくオーウェルの『1984年』の世界がそこにあったのでした。

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(1)なぜ独ソ戦では大量の犠牲者が出たのか~絶滅戦争・イデオロギーの戦いとしての戦争とは

独ソ戦の独特なところは、この戦争が絶滅戦争であり、イデオロギーの戦いだったところにあります。もちろん領土問題や経済利権のために戦ったのでもありますが、戦争を戦う兵士たちを動かすために指導部が利用したのは「自分たちは正義であり、敵は人間以下の最低な奴らだ。敵を絶滅しなければならない」という思想だったのです。

この記事ではそんな悲惨な戦争の実態を見ていきます。

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C・メリデール『イワンの戦争 赤軍兵士の記録1939-45』~ソ連兵は何を信じ、なぜ戦い続けたのか?

この本では一人一人の兵士がどんな状況に置かれ、なぜ戦い続けたかが明らかにされます。

彼ら一人一人は私たちと変わらぬ普通の人間です。

しかし彼らが育った環境、ソ連のプロパガンダ、ナチスの侵略、悲惨を極めた暴力の現場、やらねばやられてしまう、戦争という極限状況が彼らを動かしていました。

人は何にでもなりうる可能性がある。置かれた状況によっては人はいとも簡単に残虐な行為をすることができる。自分が善人だと思っていても、何をしでかすかわからない。そのことをこの本で考えさせられます。

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(7)源信の『往生要集』と現代の地獄巡り~なぜ戦争や弾圧、虐殺を学ばなければならないのか

2020年から私はドストエフスキーの記事をこのブログで書き始めましたがなぜ僧侶の私がドストエフスキーについてブログを書いているのかと不思議に思われた方も多かったかもしれません。

ですが長いこと続けていると、きっと多くの方もそれに慣れてきたのではないでしょうか(笑)

しかし、ドストエフスキーや世界文学について書いていくならまだしも、ソ連史や独ソ戦について書いている最近のブログはどういうことなのでしょうか。

実は最近、「戦争のこととか大量殺人ばかりで読むのもつらくなってきました。なぜそこまでやらなきゃいけないのですか」という言葉を頂くことが何度もありました。

この記事ではその質問に対する私なりの答えをお話ししていきます。

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(6)アーレントの全体主義論と赤軍記者グロスマンの小説~独ソ戦や全体主義を論じた傑作について

アーレントといえば『全体主義の起源』や『イエルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告』などでホロコーストについて語ったことで有名ですよね。ナチスのホロコーストを語る上で、ハンナ・アーレントの名は今もなお世界中に轟いています。

そして著者のティモシー・スナイダーはこのアーレントと対置してソ連の作家ワシーリー・グロスマンを紹介します。私がグロスマンの作品を読もうと思ったのも、スナイダーによる賛辞の言葉を読んだからこそでした。日本ではあまり知られていないグロスマンですが、世界史上とてつもない人物がここに存在していたのでした。ぜひおすすめしたい作家です。

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(5)ソ連の粛清とナチスのホロコーストの流れをざっくりと解説

今回の記事ではこの本の巻末に著者によって書かれた「要旨」を紹介していくこととします。

この箇所にはスターリンによる粛清とヒトラーによるホロコーストの流れが説かれています。

また、独ソ戦の経緯もわかりやすく解説されているため、両者の立場から見た独ソ戦も学ぶことができます。

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(4)メディアを利用し人々の不満を反らすスターリン~悪者はこうして作られる

スターリンの政治的手腕のひとつとして挙げられるのがこの「敵を生み出す能力」だと著者は語ります。この能力があれば自らの失策の責任を負うこともなく、スケープゴートにすべてをなすりつけることができます。そうすることで自らの権力基盤に傷がつかないようにしていたのでした。

これはスターリンに限らず、あらゆる時代、あらゆる場所で行われうることです。

わかりやすい悪者を作り出し、そこに国民の憎悪や不安、恐怖を向けさせる。そうして問題の本質から目を反らさせようとするのです。

「歴史は形を変えて繰り返す」

もしそれが本当のことならば、現在は何の繰り返しなのでしょうか。

そうしたことを考える重要さを日々感じています。

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(3)ウクライナで400万人以上の犠牲者を出したソ連による飢餓政策ホロドモールと隠ぺい工作

ウクライナの大飢饉は自然災害によるものではなく、スターリンの政策によるものでした。

この本ではこの悲惨な大飢饉の地獄のような状況がかなり詳細に語られます。1930年代のウクライナで何が起きていたのか、ソ連は一体何をしようとしていたのかを一章丸々使って私たちは追っていくことになります。正直、50頁以上あるこの記述を全てご紹介したいくらいです。私はこの箇所を息を呑みながら読みました。あまりの悲惨さに絶句してしまいました。

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(2)ナチスとソ連、隠蔽された犯行現場~歴史は様々な視点から見なければ把握できない

一つの国の歴史だけを見ても、そこで起きた出来事の全貌を知ることはできない。

これは非常に重要な指摘です。著者はこの時代に起こった個々の出来事を様々な角度から見ていきます。歴史的な出来事を点として見るのではなく、当時の複雑な世界情勢、つまり面として見ていきます。

ホロコーストを研究した著作は数多くあれど、ソ連との覇権争いの過程や国際情勢と絡めて多角的に論じた本はほとんどありません。

いくら一つのことに対してどれほど知識を持とうともそれだけでは歴史は理解することはできないのです。

これはスターリンやヒトラーの大量虐殺だけではなく、歴史、思想、文化、宗教、あらゆるものにおいてもそうだと思います。

著者のこの指摘は非常に重要なものであると私は思います。