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渡邉義浩『始皇帝 中華統一の思想『キングダム』で説く中国大陸の謎』あらすじと感想~法家思想がどれほど強力かを知れる名著!

秦
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渡邉義浩『始皇帝 中華統一の思想『キングダム』で説く中国大陸の謎』概要と感想~法家思想がどれほど強力かを知れる名著!

今回ご紹介するのは2019年に集英社より発行された渡邉義浩著『始皇帝 中華統一の思想『キングダム』で説く中国大陸の謎』です。

早速この本について見ていきましょう。

【『キングダム』から、2000年間、中国を「影」から支配してきた原理を読み解く! 】

・秦の統一は400年早かった。秦を「異常な国」に変えた法家の思想
・媧燐も李牧も呉鳳明も、なぜ「他国を滅ぼして中華統一する」と言わないのか?
・なぜ鄴の城主は難民を受け入れたか? 背後にあった氏族制社会
・李牧の「七国同盟」は、既得権者たちの抵抗の象徴
・2000年間、中国大陸を規定してきた国家モデル「古典中国」
・中国人はなぜこれほど「自信満々」なのか?

●『キングダム』で通奏低音のように流れる法家●
原泰久氏の漫画『キングダム』では、法家改革後の秦と、旧式の社会体制である六国の対比が見事に描かれている。
本書では、『キングダム』という物語に流れる地下水脈を、25点もの名場面を引用しながら縦横に解説する。

Amazon商品紹介ページより

秦の始皇帝(前259-210)Wikipediaより

本書は秦が中国統一に成功した独特の要因を漫画『キングダム』の挿絵と共に見ていく参考書です。前回の記事で紹介した渡邉義浩著『横山光輝で読む三国志』と同じように、この『キングダム』も私は読んでいましたので親しみを持って本書を読み進めることになりました。

この本では秦が中国統一を果たした最大の要因として「法家の思想」を徹底したことを挙げています。秦は従来の中国圏の国々とは全く違うシステムを政治に持ち込みました。そしてそれによって秦国の財力、軍事力は飛躍的に高まり、他国を圧倒するようになっていきます。

この法家思想とはどのようなものか、著者は次のように述べています。

法家の「法」は、現代でいう法律とは異なる。歴史の教科書などでは、法家の特徴は「信賞必罰」の徹底にある、と書かれていることが多いようだ。厳格なルールを設け、それに違反した者には罰を下し、功績のある者には褒美を与える。ムチで国民を縛り、アメを与えて忠誠心を君主に向けさせるという単純なものである。

しかしこれは、当時の氏族制社会を真っ向から否定するものでもあった。その点から見れば、法家導入の最大の意義は「平等性」にあったと言えよう。

第1章で説明したことを思い出してほしい。当時の中国には、それぞれの地域に氏族制をべースにした「マトリョーシカ型のピラミッド構造」があった。国を支配する君主といえど、国の末端のことはわからない。大小のローカル権力者が各地で重層的に存在し、一般庶民を支配していた。そのため、国が庶民の動員を必要とするなら、ローカル権力者の協力が必要だ。ある地域で罪を犯す者が出れば、基本的にはその地域のローカル権力者が罰を下すことになる。

法家の「平等性」とは、このようなピラミッドをすべて潰すことを意味する。ローカル権力者を認めず、秦全土でまったく同じ法を布き、公族、王族、貴族でも、土地の有力者でも、一般庶民でも、ルールの違反者には身分を問わずに一律の罰を下す。唯一の例外は君主本人ただひとり。「法の下の平等、ただし君主は別格」ということだ。

秦という国の中にあったいくつものピラミッドを、すべてローラーで押しつぶす様子を想像してほしい。平に均された後に残るのは、君主というただひとつの山だけだ。更地になったピラミッドの権力は、すべて君主の山が吸収する。

こう言うと、身分制を壊し平等を重んじるのだから庶民からは歓迎されるはずだ、と思うかもしれないが、決してそのようなものではない。果たして、改革の中身を知った後も、あなたはこの国に住みたいと思うだろうか。

集英社、渡邉義浩『始皇帝 中華統一の思想『キングダム』で説く中国大陸の謎』P62-63

「果たして、改革の中身を知った後も、あなたはこの国に住みたいと思うだろうか。」

この最後の言葉が不気味ですよね。

本書ではこの後に具体的に法家思想による改革を見ていくのですが、もはやこれは地獄としか言いようのないものでした。私も絶対に住みたくないです・・・

それまでの家族間、地域のつながりを分断し、既存の秩序を破壊したのが法家思想でした。

そして個に分断された国民は相互監視を強制されます。かつての日本の五人組のようなグループを形成させられ、その中で違反者が出れば連帯責任で罰せられます。これにより互いに疑心暗鬼に怯える暗い恐怖政治の世界が現出しました。

こうした徹底的な管理によって皇帝にすべての財力、権力が集中するようになります。

その莫大な財力・権力を他国との戦争に注ぎ込むのですから他国もたまりません。これは絶対王政によって覇権を手にしたフランス王政を連想させます。

ともあれ、こうした権力集中を可能にしたのが法家の思想だったのでした。そしてこれが後の中国王朝の基本システムとして運用されることになります。逆に言えば、このシステムがなければ巨大な中国を統治するなど到底不可能なことだったのです。

中国王朝の巨大な権力の源泉とは何なのか、秦の中国統一は中国史においてどんな意義があったのかを知れる本書は実に刺激的でした。これは名著です。ぜひぜひおすすめしたい一冊です。

以上、「渡邉義浩『始皇帝 中華統一の思想『キングダム』で説く中国大陸の謎』~法家思想がどれほど強力かを知れる名著!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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