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宇沢弘文『社会的共通資本』あらすじと感想~コモンズをいち早く提唱した日本を代表する経済学者の提言!

社会的共通資本
目次

宇沢弘文『社会的共通資本』概要と感想~コモンズをいち早く提唱した日本を代表する経済学者の提言!

今回ご紹介するのは2000年に岩波書店より発行された宇沢弘文著『社会的共通資本』です。

早速この本について見ていきましょう。

ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を安定的に維持する―このことを可能にする社会的装置が「社会的共通資本」である。その考え方や役割を、経済学史のなかに位置づけ、農業、都市、医療、教育といった具体的テーマに即して明示する。混迷の現代を切り拓く展望を説く、著者の思索の結晶。

Amazon商品紹介ページより
宇沢弘文(1928-2014)Wikipediaより

私がこの本を手に取ったのは以前紹介した佐々木実著『資本主義と闘った男 宇沢弘文と経済学の世界』がきっかけでした。この本で説かれていた宇沢弘文があまりに魅力的で、その主著たる『社会的共通資本』という本をぜひ読んでみたいと思い、私はこの本を手に取ったのでありました。

アメリカ式新自由主義、環境問題、格差の問題を「社会的共通資本」という視点から論じていく宇沢弘文。机上の理論ではなく水俣病の現場に赴きその現実と向き合って闘い続けたその姿・・・

経済学者でありながら現場で実践し続けるその姿に私は心打たれました。

若い頃の禅寺での体験が生涯に影響を与えていたことも見逃せません。とにかくあまりに巨大なスケール!

そんな宇沢弘文が現代日本のあり方に警鐘を鳴らしているのが本書になります。

本書のタイトルにもなっている「社会的共通資本」について宇沢弘文は「はしがき」で次のように述べています。

社会的共通資本は、ーつの国ないし特定の地域に住むすべての人々が、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置を意味する。

社会的共通資本は自然環境、社会的インフラストラクチャー、制度資本の三つの大きな範疇で考えることができる。大気、森林、河川、水、土壌などの自然環境、道路、交通機関、上下水道、電力・ガスなどの社会的インフラストラクチャー、そして教育、医療、司法、金融制度などの制度資本が社会的共通資本の重要な構成要素である。都市や農村も、さまざまな社会的共通資本からつくられているということもできる。

社会的共通資本が具体的にどのような構成要素からなり、どのようにして管理、運営されているか、また、どのような基準によって、社会的共通資本自体が利用されたり、あるいはそのサーピスが分配されているかによって、一つの国ないし特定の地域の社会的、経済的構造が特徴づけられる。

本書では、まず社会的共通資本の考え方とその役割を説明する。そして、社会的共通資本の考え方が、経済学の歴史のなかで、どのように位置づけられてきたかを考える。さらに、社会的共通資本の重要な構成要素である自然環境、農村、都市、教育、医療、金融といった、個別的な事例な取り上げて、それぞれの果たしてきた社会的、経済的な役割を考えるとともに、社会的共通資本の目的がうまく達成でき、持続的な経済発展が可能になるためには、どのような制度的前提条件がみたされなければならないかを考えたい。

本書が、日本が現在置かれている世紀末的混乱と閉塞とを乗り越えて、新しい世紀への展望をな開くために、何らかの役に立つことができれば、著者にとって、望外のよろこびとするところである。

岩波書店、宇沢弘文『社会的共通資本』Pⅱ-ⅲ

「社会的共通資本は自然環境、社会的インフラストラクチャー、制度資本の三つの大きな範疇で考えることができる。大気、森林、河川、水、土壌などの自然環境、道路、交通機関、上下水道、電力・ガスなどの社会的インフラストラクチャー、そして教育、医療、司法、金融制度などの制度資本が社会的共通資本の重要な構成要素である。都市や農村も、さまざまな社会的共通資本からつくられているということもできる。」

「社会的共通資本」という言葉をいきなり聞くと難しそうに感じるかもしれませんが、基本的な概念としては上のように難しいものではありません。本書ではこれらを国民の「コモンズ(共有財)」と表現されることもあります。

「コモン」というと最近マルクス主義的な面から語られることも多いですが、「コモン」はマルクスの専売特許ではありません。むしろマルクスのそうした側面にスポットが当てられたのはごく最近のことと言えるかもしれません。

宇沢弘文はマルクス主義的な面からではなく経済学の内側からその行き過ぎた資本主義の欠点を指摘していきます。

この本は2000年に出版されたものです。今や2023年、宇沢弘文が見た世界よりももっと世の中は悪くなっているように私は感じます。もし今宇沢弘文が生きていたなら何と言うのでしょうか。これは私にとっても考えるべき大きな問題だと思います。

行き過ぎた資本主義を反省し、社会的共通資本の見直しを図ること。この本を読めばこれが急務であることがよくわかります。どれだけ今が危機的な状況なのかということを考えさせられます。

日本を代表する経済学者のこの提言はあまりに貴重だと思います。

この本からいきなり読み始めるのは少し厳しいかもしれないので、佐々木実著『資本主義と闘った男 宇沢弘文と経済学の世界』から読み始めるのをおすすめします。

現代だからこそ読むべき重要な一冊です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「宇沢弘文『社会的共通資本』~コモンズをいち早く提唱した日本を代表する経済学者の提言!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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