MENU

『オックスフォード 科学の肖像 ウィリアム・ハーヴィ』あらすじと感想~シェイクスピアと同時代を生きた科学者のおすすめ伝記!

ハーヴィ
目次

『オックスフォード 科学の肖像 ウィリアム・ハーヴィ』概要と感想~シェイクスピアと同時代を生きた科学者のおすすめ伝記!

今回ご紹介するのは2008年に大月書店より発行されたジョール・シャケルフォード著、梨本治男訳の『オックスフォード 科学の肖像 ウィリアム・ハーヴィ』です。

早速この本について見ていきましょう。

シェイクスピアが活躍した劇場ブームの最中、ヨーロッパ初の室内解剖劇場が建てられたパドヴァ大学に留学。その後イングランド王の顧問医を務めるかたわら、1628年『動物の心臓と血液の動きに関する解剖学的研究』を発表、実験による科学的論証で血液は体内を循環することを証明。古代からルネサンスまでつづいたヒト生理学を覆し現代科学のルーツを築いたハーヴィの評伝。

Amazon商品紹介ページより
ウィリアム・ハーヴィ(1578-1657)Wikipediaより

ウィリアム・ハーヴィはイングランド生まれの科学者で血液循環説を唱えたことで知られています。

そしてこの記事のタイトルにも書きましたように、彼はシェイクスピアと同じ時代を生きた人物になります。

ウィリアム・シェイクスピア(1564-1616)Wikipediaより

くしくも同じウィリアムというつながりがあるのも何とも面白いですよね。

この伝記ではそんな二人のウィリアムが生きた時代背景が詳しく語られます。

彼らが生きたイングランドはどのような時代だったのか、そしてそこからハーヴィがどんな影響を受けていたのかということを知ることができます。

シェイクスピア好きな私にとってこの時代の雰囲気を知ることができたのはとてもありがたいことでした。しかも文学という切り口ではなく、科学を切り口にこの時代を見れたというのは非常に興味深いものがありました。これは面白い本です。

さて、肝心のウィリアム・ハーヴィについてですが、私はこの本を手に取るまでは名前すら知りませんでした。

しかも『「血液循環説」を説いた人物』と言われてもこれの何がすごいのかすらピンと来ませんでした。

ですがこの本を読んで驚きました。彼こそ現代科学につながる大発見を成し遂げ、科学の基礎を築いた偉人だったのです。このことについてこの本の冒頭では次のように語られています。

血液が全身を循環するという考えを世に広めた最大の功労者が、ウイリアム・ハーヴィである。一六〇〇年にはハーヴィも一医学生にすぎず、旧来のヒト生理学理論を学び、それと強く結びついた科学理論や治療法を身につけた。だが、一六一六年から一六ニ八年のあいだのあるとき、旧理論は誤りだと確信するようになった。そして、心臓の働きは血液を循環させることだという事実をみずからと世界に対して立証する作業にとり組みはじめた。

現在では、ハーヴィは、新しい科学的証拠の考え方と新しい科学的手法を生みだした革命家と呼ばれている。ただし、彼の革命は、伝統を打ち壊すのではなく、古代ギリシャ人の手法もとり入れながら研究をすすめることによっておこなわれた。ハーヴィは、学校で教わったとおりの、他の哲学者や医者たちと何ら変わりのない手法で自説を組み立てた。にもかかわらず、彼の手法にはほかにない何かがあった。

新しい科学的概念が現われたとき、科学者がそれを受けいれるかどうかは、それを理解できるかどうかということのほかに、その人の社会的、宗教的、政治的信条にも左右される。それはハーヴィのころもそうだったし、いまでもそうである。しかし、ハーヴィは、ある研究法と結果提示法を選ぶことで、多様な哲学的、宗教的背景をもつ人びとが自由に科学を議論することができるようにして、「自然哲学」(いまの言葉では「科学」)に説得力をもたせることに成功した。

その革命の外側では、ヨーロッパの知的世界の構造を一変させる、さらに大きな科学的変革が起こっていた。歴史家が科学革命と名づけたその大きな変化は、無から生じたものではなく、ハーヴィの時代の人びとが生きた歴史によってかたちづくられたものだった。

ハーヴィが医学について思いをめぐらし実験によって科学的論証を試みた足跡をたどると、医学と生物学の分野でこの革命がはじまったころの様子が浮かびあがってくる。現代の私たちが使っている科学手法のほとんどは、ハーヴィの時代に考案されたものを下じきにしたものだから、当時何がおこなわれていたのかを探れば、現代科学のルーツが見える。
※一部改行しました

大月書店、ジョール・シャケルフォード、梨本治男訳『オックスフォード 科学の肖像 ウィリアム・ハーヴィ』P6ー7

「ハーヴィが医学について思いをめぐらし実験によって科学的論証を試みた足跡をたどると、医学と生物学の分野でこの革命がはじまったころの様子が浮かびあがってくる。」

この伝記ではハーヴィがどのようにして彼の仮説を世に証明しようとしたかが詳しく語られます。

そしてその手法は実験によってはっきりと見える形で人々に伝えるというものでした。

こうした実証的な研究手法は後の科学において決定的な役割を果たすことになります。

以前当ブログで紹介したロバート・フックレーウェンフックもまさにこの流れを引き継いだ直系の科学者です。

あわせて読みたい
ロバート・フック『ミクログラフィア』あらすじと感想~顕微鏡でコルクの細胞を世界で初めて発見した自... ロバート・フック(1635-1703)といえば顕微鏡でコルクを観察し、世界で初めて「細胞(セル)」を発見した人物として有名です。 フックは驚くべき精密さで観察対象を描き出しました。それらがずらりと並べられているのが今回ご紹介する『ミクログラフィア』になります。 レーウェンフックとのつながりから手に取ったこの本でしたがとても有意義な読書となりました。
あわせて読みたい
ローラ・J・スナイダー『フェルメールと天才科学者』あらすじと感想~顕微鏡で有名なレーウェンフックと... この本は最高です!私の2022年上半期ベスト3に入る作品と言っても過言ではありません。 とにかく面白い!こんなにわくわくさせてくれる本にはなかなかお目にかかれるものではありません。 著者は当時の時代背景や宗教事情と絡めてフェルメールのことを語っていきます。これがすこぶる面白い!「え!?そうなんだ!!」ということがどんどん出てきます!ぜひぜひおすすめしたい傑作です!

ロバート・フックやレーウェンフックにつながってくる科学の源流こそこのハーヴィなのでした。

これは私にとっても非常に興味深いものがありました。

これまでウィリアム・ハーヴィという人物を全く知りませんでしたがこの伝記を通して新たな発見をたくさんすることができました。この本と出会えて本当によかったなと思います。

16世紀末から17世紀イングランドの流れを知るのにもとてもおすすめです。シェイクスピアファンにもぜひおすすめしたい作品です。

以上、「『オックスフォード 科学の肖像 ウィリアム・ハーヴィ』シェイクスピアと同時代を生きた科学者のおすすめ伝記!」でした。

Amazon商品ページはこちら↓

ウィリアム・ハーヴィ: 血液はからだを循環する (オックスフォード科学の肖像)

ウィリアム・ハーヴィ: 血液はからだを循環する (オックスフォード科学の肖像)

次の記事はこちら

あわせて読みたい
『オックスフォード 科学の肖像 コペルニクス』あらすじと感想~地動説を唱えたコペルニクスの生涯を知... コペルニクスといえば「地動説」を唱えた人物として有名です。「コペルニクス的転回」という言葉があるほど世界の常識を覆した偉人中の偉人です。 この伝記の特徴として、偉人が生きた時代背景も大切にしているという点があります。 コンパクトな伝記ながら時代背景も見せてくれるのは非常にありがたかったです。

前の記事はこちら

あわせて読みたい
『ワットとスティーヴンソン 産業革命の技術者』あらすじと感想~蒸気機関と鉄道の発明者のおすすめ伝記! この本は蒸気機関で有名なジェームズ・ワットと鉄道の発明者ジョージ・スティーヴンソンの伝記です。 ワットというと蒸気機関を発明したというイメージがありましたが、正直それがいつのことでどのようなものだったのかは意外とわかりませんでした。 そんな中この伝記ではワットやスティーヴンソンの生涯をわかりやすくコンパクトに語られます。2人の生涯を100ページ弱でまとめているこの本には正直驚きました。

関連記事

あわせて読みたい
(17)フェルメールの故郷デルフトのゆかりの地をご紹介!顕微鏡で有名なレーウェンフックとのつながりも! フェルメールは生涯のほとんどをこの町で暮らし、数々の名画を生み出しました。そんなデルフトには今も残るゆかりの地がいくつもあります。 また、フェルメールと全く同じ1632年にこの町で生まれたもう一人の天才レーウェンフックについてもこの記事でお話しします。顕微鏡で微生物を発見したことで有名な彼とフェルメールはご近所さんでした。レンズを通して「見えない世界」を探究した二人の偉人の存在には驚くしかありません。
あわせて読みたい
河合祥一郎『シェイクスピア 人生劇場の達人』あらすじと感想~巨匠の生涯と時代背景、作品の特徴も知れ... この本を読めばシェイクスピアの生涯や時代背景を知ることができます。やはり時代背景がわかれば作品も違って見えてきます。 シェイクスピアをこれまで読んだことがなかった方にもおすすめです。きっとシェイクスピア作品を読みたくなることでしょう。
あわせて読みたい
河合祥一郎『シェイクスピアの正体』あらすじと感想~時代背景や丁寧な資料読解を用いて異説や陰謀論と... この本は様々なシェイクスピア説に対して真っ向から向き合っていく作品です。 こんなに痛快な本はなかなかないです。今まで手に取らなかったのが本当にもったいなかったと後悔しています。 いやぁ素晴らしい作品です!これはぜひぜひおすすめしたい名著です!
あわせて読みたい
S・グリーンブラット『シェイクスピアの驚異の成功物語』あらすじと感想~シェイクスピアが生きていた社... 前回紹介したピーター・アクロイドの『シェイクスピア伝』もかなり詳しく時代背景を描写していましたが、この作品はさらに踏み込んだ社会背景、思想状況まで語られていきます。特にエリザベス女王治世化のイギリスと宗教事情についての話はかなり面白いです。 シェイクスピアが生きていた社会はどのようなものだったのかということを知る上で非常に興味深い伝記です。
ハーヴィ

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次