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近藤恒一『ペトラルカ-生涯と文学』あらすじと感想~読書のカリスマ!ルネッサンスをもたらしたイタリアの大文学者の生涯と思想とは

目次

近藤恒一『ペトラルカ-生涯と文学』概要と感想~ルネッサンスをもたらしたイタリアの大文学者の生涯と思想を知るのにおすすめの参考書!

今回ご紹介するのは2002年に岩波書店より発行された近藤恒一著『ペトラルカー生涯と文学』です。

早速この本について見ていきましょう。

ダンテ、ボッカッチョとともに、イタリア文学の三巨星の一人であり、ルネサンス時代を代表する作家・思想家、ペトラルカの生涯と思想・文学について述べた初の本格的な入門書。主著『カンツォニエーレ』でうたわれた永遠の恋人ラウラのこと、文芸復興(ルネサンス)の同志であったボッカッチョとの友情、近代の「個人」意識につながり現代人の問題でもある「孤独」の思想などを軸に、ルネサンス的「普遍人」として多彩な活動をしたペトラルカについて、そのエッセンスを書き下ろす。

Amazon商品紹介ページより

私がこの本を手に取ったのは前回の記事で紹介した桑木野幸司著『ルネサンス 情報革命の時代』がきっかけでした。

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この本の中で出てきたペトラルカという人物についての解説が非常に興味深く、ぜひ彼についてもっと知りたいなと思ったのでした。

フランチェスコ・ペトラルカ(1304-1374)Wikipediaより

せっかくですので『ルネサンス 情報革命の時代』でペトラルカについて書かれていた箇所をここで紹介します。少し長くなりますがこれを読めばきっと皆さんもペトラルカに興味を持つと思います。では始めていきましょう。

ルネサンス人文主義の父とも位置付けられるぺトラルカ。その彼が最も充実した思弁と文筆活動を行ったのは、十四世紀の中葉であった。当時にあっても、キケローの数編の弁論と道徳哲学著作の一部は、文芸愛好家たちの間ではよく読まれていた。それらのテクストから浮かび上がるのは、強靭な精神力と倫理感をそなえた清廉な哲学者にして、悪を懲らしめ、不正をただす完全無欠の弁論家の姿。しかも読む者の肺腑をえぐり、精神を鼓舞してやまない古典ラテン語最高の名文家ときては、鋭い文学的感性を持った若き才人が夢中になるのも無理はなかった。

すでに二十四歳の時に、リウィウス『ローマ建国史』の精密な比較校訂写本を作成して名をあげていたぺトラルカは、一三三三年、中世の頃には知られていなかったキケローの弁論『詩人マルキアース弁護』の写本をリエージュで再発見する。前章でも見たように、詩人弁護に名を借りて展開する、一種の文芸研究礼賛とも読める作品だ。たちまち心酔した若き学究は、これをもとに、来るべき時代の新たな学問としての「人文学研究」を、一つの理想としてかかげるようになる。

それから十年以上がたった一三四五年、ぺトラルカを震撼させる出来事が起こった。ヴェローナの大聖堂参事会書庫に秘蔵されていたキケローの書簡集を、彼自らの手で再発見したのだ。それは『アッティクス宛書簡集』十六巻を中心とする、いわゆる『近親者宛書簡集』とよばれる膨大な私信群であった。敬慕してやまない心の師の知られざる手紙の束。きっと狂喜のあまり、震える手でぺージをめくったことだろう。ところがー。

その飾らない文面を通じて語り掛けてくるのは、国家の要人、あるいは思想界を牽引する哲学者ではなく、共和政末期の激動の政情に手もなく翻弄される哀れな男。それは優柔不断で、くよくよと金銭の心配をし、家族や親族との離別や感情の齟齬に心を痛めて弱音を吐く、あまりに人間的な一市民の姿であった。書簡発見の歓喜はたちまち冷や水を浴びせられ、紙葉を手繰るその手は、別の意味で震えだしたはずだ。キケローよ、あなたという人は!

ぺトラルカはたまらずペンをとって、この哀れな古代人に宛てて叱咤・譴責の書簡をしたためた(一三四五年六月)。的確な判断力もないくせに好んで政争に首を突っ込み、運命にもてあそばれて、むなしく死においやられた「軽佻浮薄な老人」を難詰するその筆鋒は、いかにも鋭い。だが同時にそれは、深い敬愛の念の裏返しでもあった。それから半年後、感情に任せて綴った前便の失礼を詫びつつ、キケローの天分について思うところを述べ、彼の著作が後世にどのように伝わったかを報告している。

ペトラルカはこのほかにも、セネカ、ホラティウス、ウェルギリウスら八名の古代の著名な文人に宛てて、同様の仮想の通信を送っている。これらの文が、他人にも読まれることを念頭に書かれた文学的創作であることは言を俟たない。けれども彼が生き生きと展開する古代人たちとの対話からは、古典を生きた対象とみなし、古代の文化を新たな創造工ネルギーの源としようとする、ルネサンス人文主義文化の確かな胎動を感じ取ることができる。

ペトラルカが発見し、校訂をほどこした数々の作品はたちまち文芸サークルのあいだに写本のかたちで拡散し、新たな古典発掘の機運を人々のあいだに醸成することになった。

筑摩書房、桑木野幸司『ルネサンス 情報革命の時代』P116-118

古代ローマの偉人キケローに対し書簡を送るという一風変わった行動をとったペトラルカ。

ですがこれはよくよく考えてみると「読書とは何か」という根本的な問題を想起させます。

ペトラルカはただ本に書かれていることを暗記するのではなく、著者と対話していたのです。

もっと言うならば、彼は本に書かれた言葉を通して「生きた人間」と対話するがごとく読書していたのです。当たり前のように聞こえるかもしれませんが、これは「読書における姿勢」という面で核心を突いているのではないでしょうか。本を読むというのは著者との対話、真剣勝負でもあるわけです。ただ知識を詰め込むのではなく、それに対し何を思うか、そして今を生きることにどう生かしていくのか、そういうことが試されているのです。

著者が「彼が生き生きと展開する古代人たちとの対話からは、古典を生きた対象とみなし、古代の文化を新たな創造工ネルギーの源としようとする、ルネサンス人文主義文化の確かな胎動を感じ取ることができる」と述べるのも強く頷けました。

ルネサンスはこうして古代の叡智を現代に蘇らせ、新たなる世界を創っていこうという運動だったことがこの箇所から感じられたのでした。

読書のカリスマ、ペトラルカ。

このお方は非常に興味深い人物です。

そんなペトラルカの生涯や思想を知るのに近藤恒一著『ペトラルカ-生涯と文学』は最高の一冊です。

この作品ではペトラルカの生涯に沿って彼の思想や特徴を見ていくのですが、これがとにかく面白い!

ペトラルカその人も興味深いのですが、著者の語りがまた素晴らしいんです!

当時の時代背景やペトラルカが何を求め、何に苦しんでいたのかというのが非常にわかりやすく説かれます。

これを読めばルネサンスの流れも掴めますし、何より、ペトラルカ作品を読みたくなります!

また、一番驚いたのは『デカメロン』で有名なボッカッチョとの関係でした。

なんと、ペトラルカとボッカッチョはルネサンス文芸を切り開いた盟友ともいうべき間柄だったのです。これには私も驚きました。『デカメロン』は言わずと知れた超有名作ですが、まさかペトラルカと繋がってくるとは・・・

ボッカッチョはペトラルカより九歳年下です。彼は親友であり、師としてもペトラルカを深く敬っていたそうです。1300年代中頃のイタリアは私にとってノーマークな時代でしたがこれは非常に興味深いものがありました。

こうなったらペトラルカもボッカッチョも読みたくなってきました・・・いやそうなればダンテの『神曲』もはずせないでしょう。

あぁ、また読みたいものが増えてしまいました。私はいつもこうです。フェルメールを学んでいたはずがいつの間にか『デカメロン』を読むことになってしまいました。そもそもフェルメール自体が偶発的なものでしたので「親鸞とドストエフスキー」というメインテーマからはだいぶ横道に逸れてしまった感はありますが、きっとこれも最終的には繋がってくるはずです。

さて、何はともあれ、近藤恒一著『ペトラルカ-生涯と文学』はものすごくおすすめな一冊です!この本の内容についてはあまりお話しできませんでしたが、逆に言えばお伝えしたいことが山ほどあり過ぎてここでは紹介しきれなかったということでもあります。

とにかく面白いです!

ルネサンスだけでなく、読書とは何かということも感じられる名著です。読書人の皆様にはぜひおすすめしたいです。読書狂の先達がここにいます。読書のカリスマがここにいます。ぜひペトラルカという人物と出会ってみてはいかがでしょうか。

以上、「近藤恒一『ペトラルカ-生涯と文学』読書のカリスマ!ルネッサンスをもたらしたイタリアの大文学者の生涯と思想とは」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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