MENU

木村元彦『オシムの言葉』あらすじと感想~サラエボ出身の名将の半生とユーゴ紛争について知るのにおすすめ

目次

木村元彦『オシムの言葉』概要と感想~サラエボ出身の名将の半生とユーゴ紛争について知るのにおすすめ

今回ご紹介するのは2005年に集英社より発行された木村元彦著『オシムの言葉―フィールドの向こうに人生が見える』です。

では早速この本について見ていきましょう。

なぜ彼は人を動かせるのか。
Jリーグ、ジェフ千葉の監督イビツァ・オシム。厳しさとユーモアに溢れる言動は、選手はもちろん、サッカーファンの心をわしづかみにする。サラエボから来た名将が日本人に伝えたものとは。

Jリーグ屈指の美しい攻撃サッカーはいかにして生まれたのか。ジェフ千葉を支えた名将が、秀抜な語録と激動の半生から日本人に伝えるメッセージ。

Amazon商品紹介ページより

今作は木村元彦氏の「ユーゴサッカー三部作」の最後の作品になります。

『誇り ドラガン・ストイコビッチの軌跡』『悪者見参 ユーゴスラビアサッカー戦記』ではストイコビッチ氏の半生と共にユーゴ紛争について見ていきましたが、今作ではその主人公がジェフユナイテッド市原・千葉、日本代表監督も務めたイビツァ・オシム氏の半生と共にこの紛争を見ていくことになります。

ここで改めてオシム氏のプロフィールを見ていきましょう。

1941年5月6日、現ボスニア・へルツェゴビナ、サラエボ生まれ。
サラエボのジェレズニチャル、フランスリーグのストラスブールなどでFW、MFとして活躍。
旧ユーゴ代表で66年欧州選手権準優勝。引退後、指導者となり、86年よりユーゴ代表監督。
90年W杯イタリア大会で、ストイコビッチなどを擁しべスト8入り。
その後、祖国の分裂に伴い代表監督を辞任。
ギリシャのパナシナイコス、オーストリアのシュトルム・グラーツ監督を経て、
03年よりJリーグ、ジェフユナイテッド市原・千葉監督に就任。家族はアシマ夫人と二男一女。

集英社、木村元彦『オシムの言葉―フィールドの向こうに人生が見える』より

オシム氏は監督のイメージがものすごく強かったのですが、選手としても超一流だったということを知り驚きました。

オシム監督についてはこちらの動画をぜひぜひおすすめしたいです。オシム監督の人柄がとても伝わってきます。そして彼がいかに優れた指導者だったかがよくわかります。私もこの映像を観て何度も度肝を抜かれました。オシム監督の哲学、指導方法はそれほど飛び抜けています。

さて、先にも述べましたが木村元彦氏の『オシムの言葉』ではサラエボ出身のオシム監督とユーゴ紛争についての関わりが語られます。

ユーゴ紛争が勃発した1991年当時、オシム氏はユーゴスラビア代表監督を務めていました。

そして1992年4月、サラエボがセルビア人勢力に包囲され、攻撃が始まってしまいます。

その時オシム監督の奥様はサラエボにおり、攻撃開始の数日前にはオシム監督自身もサラエボにいました。

離れ離れになってしまったオシム夫妻。そして奥様がサラエボに取り残されてから二年半、二人は会うこともできませんでした。

オシム監督はこのサラエボ攻撃によってユーゴ代表監督を辞任します。その時の顛末もこの本では詳しく見ていくことになります。

著者はこの作品を通してサラエボ包囲戦の悲惨な実態を私たちに伝えてくれます。

これまで「ユーゴサッカー三部作」としてストイコビッチ氏とユーゴ紛争について語られてきましたが、最終作はオシム氏とサラエボ包囲をじっくり見ていくことになります。

この三部作を読めばユーゴ紛争についてかなり広い視点を得ることができます。

また、この作品ではオシム監督のサッカー観、人生哲学も学ぶことができます。

オシム監督の偉大さにただただ圧倒される一冊です。オシム監督が病に倒れられたことが本当に悔やまれます。あと少しでも日本代表を率いてくれていたらどうなっていただろうか、悔やんでも悔やみきれません。こんなに素晴らしい監督が日本を率いてくれていたのは本当に幸運なことだったなと思います。

サッカーファンだけでなく、すべての方におすすめしたい作品です。いや、サッカーに関心がない方こそおすすめかもしれません。オシム監督の人生とユーゴ紛争を通して見えてくる彼の人柄に圧倒されると思います。ぜひ手に取って頂けたらなと思います。

以上、「木村元彦『オシムの言葉』サラエボ出身の名将の半生とユーゴ紛争について知るのにおすすめ」でした。

Amazon商品ページはこちら↓

オシムの言葉 (集英社文庫)

オシムの言葉 (集英社文庫)

次の記事はこちら

あわせて読みたい
木村元彦『オシム 終わりなき闘い』あらすじと感想~紛争後も民族対立が続くボスニアで何が起きているの... オシム監督は2007年66歳の歳に脳梗塞で倒れられ、日本代表監督を退任しました。ですが彼はそこから驚異の回復を遂げ、後遺症を残しながらも精力的に祖国の融和のために活動しています。本書はそんなオシム監督の帰国後の活動を通して、紛争から20年経った今のボスニアについて知ることができる作品となっています

前の記事はこちら

あわせて読みたい
木村元彦『悪者見参 ユーゴスラビアサッカー戦記』あらすじと感想~報道によって絶対的な悪者は作られる... 先に言わせて頂きます。この本は凄まじいです。とにかく読んでほしいです。それも今すぐ!できるだけ早く! ロシア・ウクライナ戦争に揺れている今だからこそ大切な一冊です。 この本で語られることはあまりに衝撃的です。引用したいところが山ほどあるのですが分量の制限もありますので今回の記事ではこの本の中でも特に印象に残った箇所を紹介していきます。

関連記事

あわせて読みたい
長束恭行『東欧サッカークロニクル』あらすじと感想~ユーゴ紛争の火種ともなった「5.13」事件も知れる... この本はサッカーを通して東欧の国々の歴史や文化を見ていく作品です。 特に一番最初に紹介されるクロアチアではユーゴスラビア紛争のきっかけとなったとも言われる1990年の「5.13」暴動事件について詳しく語られます。 著者は東欧を揺るがしたこの事件について詳しく検証していき、さらにはこの地で荒れ狂っていた民族対立の構図を取材していきます。サッカーを通して見えてくる民族対立の背景は非常に興味深いものがありました。
あわせて読みたい
宇都宮徹壱『ディナモ・フットボール』あらすじと感想~旧共産圏の過去と今をサッカーから知れる衝撃の... ディナモ・ザグレブやディナモ・キエフなどのチームは知ってはいました。ですがまさかそれが内務省や秘密警察から来ていたとは・・・! 内務省といえばロシアいうとあのKGBです。現在はFSBに名前が変わっていますが、KGBはプーチン大統領が在籍していたことでも知られる組織です。ソ連時代の恐るべき組織が「ディナモ」の由来だったと知り本当に驚きました。 これは名著です。思わぬところでものすごい本と出会うことになりました。
あわせて読みたい
高木徹『ドキュメント 戦争広告代理店』あらすじと感想~メディアの絶大なる影響力!知られざる紛争の裏... 書名からして刺激的なこの一冊ですが、その内容もかなり強烈です。 「情報を制する国が勝つ」とはどういうことか―。世界中に衝撃を与え、セルビア非難に向かわせた「民族浄化」報道は、実はアメリカの凄腕PRマンの情報操作によるものだった。国際世論をつくり、誘導する情報戦の実態をこの本では知ることができます。
あわせて読みたい
ボスニア紛争を学ぶためのおすすめ参考書15作品をご紹介 この記事ではボスニア紛争、スレブレニツァの虐殺を学ぶためのおすすめ参考書を紹介していきます。途中からはルワンダ、ソマリアで起きた虐殺の本もありますが、これらもボスニア紛争とほぼ同時期に起きた虐殺です。 長有紀枝著『スレブレニツァ―あるジェノサイドをめぐる考察―』にルワンダ、ソマリアの虐殺のことが述べられていました。この三者は紛争や虐殺が起こった背景や、それを防ぐことができなかった国際機関のメカニズムが非常に似ています。ボスニア紛争、スレブレニツァの虐殺の理解を深めるためにもこれはぜひ重要と感じ、ここで紹介させて頂くことにしました。 これからしばらくは重い内容が続く更新になりますが、ここで改めて人間とは何か、なぜ虐殺は起こってしまうのかということを考えていきたいと思います。
あわせて読みたい
異国情緒溢れる街サラエボ探訪と紛争経験者に聞くボスニア紛争の現実 世界一周記ボスニア編一覧 私の旅で最も心に残った国!僧侶上田隆弘の世界一周記ボスニア編一覧19記事 私がオーストリアの次に向かったのはボスニア・ヘルツェゴビナという国。 ボスニア・ヘル...
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次