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鎌田茂雄『中国仏教の寺と歴史』あらすじと感想~「歩く仏教学」!中国仏教の泰斗が文革後の中国の名刹を紹介するおすすめ本!

中国仏教の寺と歴史
目次

鎌田茂雄『中国仏教の寺と歴史』あらすじと感想~

今回ご紹介するのは1982年に大法輪閣より発行された鎌田茂雄著『中国仏教の寺と歴史』です。

早速この本について見ていきましょう。著者は序で次のように述べています。

私は日中国交回復以来、中国の有名な寺院を訪問し、現代中国の仏教の実態をつぶさに見聞することができた。竜門石窟などはすでに三回訪れた。天台山国清寺に宿泊して、早朝三時から行われた朝課に参加したりした。中国本土の寺院の儀礼を見てみると、香港、台湾の寺院や、マレーシア、シンガボールの中国寺院で行われている儀礼とまったく同じであることを知り、東アジア仏教圏の中核は、何といっても中国の仏教であることを改めて確認したのである。

中国の仏教寺院は、文化大革命によって完膚なきまでに破壊された。仏像の頭はもぎとられ、腕は斬られ、優雅な仏像の目や鼻はえぐりとられた。寺院の碑文には、漆喰やセメントが塗られて文字が消され、僧の墓塔は倒されて地中に埋められたりした。しかし、今やこの廃仏事件の痛手から立ち直り、中国の有名寺院は見事に修復され復興した。越樸初先生を会長とする中国仏教協会のなみなみならぬ御努力の成果であった。

本書は「中国の名寺・名利を巡る」と、「中国仏教の歴史と展開」の二部に分れている。現代中国の寺院の現状を知りたい方は、第一部から読んで頂ければよいし、中国仏教の歴史の大体を知りたい方は、第二部から読んで頂きたいと思う。なお主として浙江省の国清寺や天童寺、山西省の玄中寺を訪問される方は、第一部の中のその寺院の項目だけでも読んで頂ければ幸いである。

本書はわずかな時間ではあったか、実態調査をふまえたささやかな成果の一部であり、本書の姉妹篇である『朝鮮仏教の寺と歴史』(大法輪閣)とともに「歩く仏教学」としての成果である。私は研究対象の地域の文化や遺跡を先ず自分の脚で踏破し、それから文献による研究を加え、さらに重ねて実態調査と文献研究とを合せ遂行しながら、歴史と現状を把握したいと願っている。

大法輪閣、鎌田茂雄『中国仏教の寺と歴史』P1-2

本書の著者鎌田茂雄氏は以前当ブログでも紹介した『中国仏教史』の著者であります。

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『中国仏教史』は中国仏教を学ぶ上で最高の参考書のひとつです。私もお世話になっています。その著者が実際に中国に足を運び、現地の様子を伝えて下さる本書は非常に刺激的です。

上の引用にありましたように、中国では文化大革命によって仏教寺院が壊滅的な被害を受けています。さらに言えば、中国の歴史においてはそもそも仏教が道教や儒教に押され、衰退していたことも否めません。そのためかつて栄華を誇っていた名刹も今やわずかな史跡を残すのみという場合が多々あります。本書ではそんな中国の仏教事情も知ることができます。

そして「歩く仏教学」という著者の言葉もよいですよね。私もぐっと来ました。この本を読んでいると中国に行きたくなってきます。いつか中国の仏教寺院や竜門石窟に行きたいなと思うのですが、昨今の世界情勢ではしばらくは厳しいでしょう・・・。ただ、中国仏教を学んでいてやはり思うのは、日本仏教における故郷はインドではなく中国なのだということを感じざるをえません。もちろん、究極的には仏教の故郷はインドではあるのですが、日本仏教に直接影響を与えたという意味では中国仏教にどうしても親しみを感じてしまうというのが正直なところです。

本書は浄土真宗において重要な聖地である玄忠寺や天台宗の聖地天台山など、私達日本仏教徒にも関係の深い名刹を学べるおすすめの参考書です。教義だけでは見えてこない中国仏教の姿を知れる刺激的な作品です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「鎌田茂雄『中国仏教の寺と歴史』あらすじと感想~「歩く仏教学」!中国仏教の泰斗が文革後の中国の名刹を紹介するおすすめ本!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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