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清水茂『中国目録学』あらすじと感想~中国の書物に対する考え方を知れる参考書。中国仏教独自の発展の背景を知るためにも

中国目録学
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清水茂『中国目録学』あらすじと感想~中国の書物に対する考え方を知れる参考書。中国仏教独自の発展の背景を知るためにも

今回ご紹介するのは1991年に筑摩書房より発行された清水茂著『中国目録学』です。

早速この本について見ていきましょう。


目録学とは、書籍を分類して解題目録を作る学問だが、それはその時々の文化の体系化と批判の学でもあった。世界古典文学全集月報の連載に関連の文章を加えた、中国のことを学ぶすべての者に必読の書。図版多数。

紀伊國屋書店商品紹介ページより

本書『中国目録学』は中国における書物の歴史を学べる参考書です。

私がこの本を読もうと思ったのは仏教と書物の関係、特に中国特有の文化である目録学について知りたかったからでありました。

仏教は2世紀後半頃から本格的に中国に伝来しましたが、この時すでにブッダの死後500年ほど経過しており、インドでは多種多様な原始仏典や大乗仏典が成立していました。しかし中国としては厄介なことに、それらの仏典がすべて仏説として順不同に中国に持ち込まれることになったのです。インドでは仏滅後から徐々に経典を編纂する歴史を経ていますので原始仏典と大乗経典の区別だけでなく各教典においてもその違いが意識されていましたが、はるか彼方の中国では仏滅後500年間で編まれた経典が一気に目の前にやってくることになったのです。

これら順不同、内容も相矛盾するような無数の経典を前にそれらをどう分類し、理解するか。そしてさらに、どの経典が最も優れたものであるか、こうしたことを一から行わなければならなかったのが中国仏教の歴史でした。

特にこうした流れの先駆けとなったのは釈道安(314-385)という人物です。

彼こそ中国仏典の目録化の先鞭をつけた僧侶でした。そしてその後時代を経て中国では「教相判釈」というお経の分析・分類が盛んになっていきます。天台大師智顗(538-597)の法華経を最重要視した教相判釈はその中でも特に有名です。

このように中国仏教では大量の経典を分析・分類するという研究方法が重んじられました。そしてその背景となるのが中国に元来存在した目録学の伝統だったのです。

本書でもこの中国目録学について次のように述べられています。

このように書物を分類して、解題を行なうことは、書物を通じて学問を分類し、批判することであり、そこに学術史的性格を持って来る。そこで、王鳴盛(一七二二ー九七)が「目録の学は、学中第一の緊要の事」(『十七史商権』巻一)というように、中国ではなはだ重視せられることになるのである。

筑摩書房、清水茂『中国目録学』P18

書物を分類するということはそこに分類する者自身の解釈、思想が必ず入ってきます。分類された時点で書物は単なる書物を超えて「知の座標軸」となっていきます。体系的に思想や学問を組み立てていく中国思想の特徴をここに見ることになります。インドでは仏教は部派や学派というものはあっても中国や日本のような宗派というものはありませんでした。天台宗や華厳宗などの宗派が生まれてくるのはあくまで中国においてなのでありました。ここに「分類学」が根付いていた中国と、そうではないインドの違いが見えるのではないでしょうか。

こうしたインドのあり方は馬場紀寿著『仏教の正統と異端 パーリ・コスモポリスの成立』という本で詳しく解説されています。この目録学の存在についても触れられていますので本書の関連書籍としてぜひおすすめしたいです。

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さて、話は少しそれましたが中国の目録学の歴史や書物そのものの歴史を知れる本書は中国思想の特徴を考える上でも非常に有益であると思います。ぜひおすすめしたい一冊です。

以上、「清水茂『中国目録学』あらすじと感想~中国の書物に対する考え方を知れる参考書。中国仏教独自の発展の背景を知るためにも」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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